米国TI:CEOの交代とTIスイムスタジオのオープン
米国のTI本社の2005年の重大ニュースとしてまず挙げられるのが、CEO(最高経営責任者)がTI創設者でヘッドコーチのテリー・ラクリンからマリー・ズボロウスキーに替わったことでしょう。
TIをビジネスとして拡大・発展させるために、テリーは自らは技術指導や新しいドリルの開発に専念し、経営についてはプロに任せたいと2004年の夏頃から考えていました。マリーは自ら興したIT(TIではありません)関連の企業を売却し巨額の富を得て悠々自適の生活を送っていましたが、たまたま米国で開催されているワークショップに参加してその効果を実感するとともに、TIの事業の将来性を高く評価していました。マリーがクロールのドリルの方法やフォーカルポイントについてテリーに質問したことがきっかけで、TIのビジネスについて両者は深く話し合うようになり、ついにマリーはCEOとしてTIにスカウトされました。
私は2005年10月のTI経営者会議においてマリーに会いました。第一印象は「ひんのよいおじさん」でしたが、会議におけるコメントや事業戦略の分析の視点はさすがにスルドイという印象を受けました。
次のニュースはやはり、TIスイムスタジオがオープンしたことでしょう。これまでTIはプールを持たず、ワークショップやティーチングプロ研修、ビデオの撮影は全てプールを借りて行っていました。当然施設の利用には限界があり、せっかく新しいドリルを開発しても見本のビデオはすぐには作成できない状況でした。また乳幼児向けのプログラムなど、開発中のカリキュラムを実際に適用させる場も必要でした。そこでテリーは、通常のプールと比べてスペースが必要なく、運営費用も安価なエンドレスプールを使ったTIスイムスタジオを建設することにしました。
TIは築100年は経過しているのではないかという旧民家の2階と3階をこれまでオフィスにしていましたが、近くのフィットネスクラブの1階部分に引っ越し、オフィススペースの一部と倉庫のスペースを改造し、エンドレスプール2基を備えたTIスイムスタジオを完成させました。
TIスイムスタジオの誕生によりTIのティーチング・メソッドは大きく変化することになりました。スイマーの脇に立って直接手や足を正しい位置に矯正することができる点や、エンドレスプールの底と前に設置した鏡に自分の姿が写し出されるので、泳ぎながら自分で直せる点、スピードを変化させられる点など、エンドレスプールのメリットを最大限に活かした教え方が生まれたのです。
TIジャパン:「想定外」の連続
約半年の準備期間を経て2005年5月にTIジャパンを開始したとき、私は水泳業界において全くの素人でした。これまでIT分野(しつこいようですがTIではありません)で培ってきたコネクションも使えず、頼みはインターネットにおけるマーケティングノウハウと、TIで泳ぐとラクに、きれいに、速くなることの証明としての私の体だけでした。
名もない会社がお客様に信頼していただき、さらに商品を買ってもらったりサービスをご利用になっていただくことは簡単ではありません。お客様が最初にTIジャパンに接することができるのはこのウェブサイトだけです。そこでTIについてすぐにご理解いただけるように、DVDの抜粋や私のスイムビデオなど、できる限り多くのビデオを自由に閲覧できるようにしました。またTIの特徴である、理論的なアプローチを理解していただくためにトータル・スイム・マガジンの連載を開始しました。頻繁にウェブサイトに訪問していただくために、公共プールガイドも収録しました。
ウェブサイトをオープンし、カンタン・クロールの最初の注文がFAXで到着したのが5月18日でした。インターネット直販のみ、無名の会社が制作、登場するスイマーはいずれも無名か素人というカンタン・クロールは、当初月に50本も売れれば成功と考えていました。ところが注文数は日に日に増加し、気づいてみれば最初の在庫は一週間で完売してしまいました。現在までに2,000本を販売できたことは、本当に想定外のことでした。
またウェブサイトを訪れる方の数も増加の一途をたどり、8月のピークには1日平均2,000人に達しました。当初は検索エンジンに掲載される広告経由の方がほとんどでしたが、カンタン・クロールDVDの販売本数が増加するにつれて個人のブログで紹介される機会も増え、現在では広告経由の割合は3割程度になっています。IT業界には長いこと携わっていますが、インターネット上の口コミの威力を改めて感じています。
カンタン・クロールDVDの販売が想定外に好調だったことから、TIスイムサロンも前倒しで開業しました。松戸市、しかも私鉄の駅から徒歩という立地のため、1日に1件も予約があれば御の字と思っていたのですが、6月に予約受付を開始したところ最初のお客様はなんと茅ヶ崎にお住まいの方でした。そして次々に予約が埋まっていきました。最初はどの曜日、時間帯に人気が集まるかを確かめるため、朝9時から夜7時半までオープンし、更衣室や浴室の清掃、タオルの洗濯を含め全て私一人で行いました。土日は1日8件のクリニックをこなしました。確かに大変ではありましたが、短期間に様々な方のスイムを分析することができたことは、その後のレッスン方法や内容、さらにマーケティングや事業戦略においても大きな影響を与えることになりました。
サロンの次はワークショップです。ワークショップ開催までの顛末はこちらでご紹介していますが、最初のワークショップからこれほど多くの方が参加されるとは思いませんでした。またトライアスリートが中心の米国のワークショップと異なり、実に様々な経緯で水泳を楽しんでいられる方達が、「ラクに泳ぎたい」という目的で集まることも想定外でした。
TIジャパンでは様々なお客様のニーズに応えるため、毎月新しいサービスを提供しています。そして新しいサービスを提供するたびに、お客様からすぐに反応が返ってきています。私は自分でビジネスを始めて13年になりますが、新しいサービスに対してこれほどすぐに、そして大きな反応が返ってくる事業は初めてでした。ITの世界では通常の1年間で発生する出来事が3ヶ月に圧縮されるドッグイヤーと言われる時間感覚がありますが、それよりもさらに早い感覚です。
2005年はTIにとって、またTIジャパンにとっても激動の一年でした。TIをご支援いただいたみなさま、TIの将来性を信じて参加してくれたコーチの方々、そして関係者の方々、今年一年本当にありがとうございました。2006年はTIにとって飛躍の年になると確信しています。来年もよろしくお願い致します。
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