スイミングの原理2:スイミングに関する間違った知識 TIスイム創設者 テリー・ラクリン

 2016年6月10日
スイミングの原理1では、エネルギーを使う前に節約することに焦点を当ててお話ししました。これは、自己防衛の原始的本能が、人間を水の中ではエネルギー消費マシンに変えてしまうからです。

2005年にアメリカ国防総省国防高等研究事業局の研究によって、ラップスイマーはエネルギーの97%を無駄にしているという結果が出ました。なぜ経験のあるスイマーが、エネルギーの3%しか全身運動に変えることができないのでしょうか。まず、初めて水の中に飛び込んだ時というのは、溺れてしまうのではないかという経験をする人がほとんどです。さらに、スイミングのレッスンや一般的に広まっているトレーニングに対する考えなどが、初心者の時に感じるもろさや疲労に対する本能的な反応を強めるのです。

話は6000年前にさかのぼります。

陸生動物の技術
人間が泳いでいたということを示す最も古い視覚的記録は、アッシリアで発見された壁画で、紀元前2000年から4000年の間に造られたエジプトの素焼板で、バビロンの浅浮彫です。下の浮彫のように、人間は頭を上げ、手で水をかいていたようです。

これらの古代描写は1970年代に撮られた以下のジョン・レノンの写真にとてもよく似ています。

ジョン・レノンのフォームは、1961年頃に撮ったホームビデオに映っている、私が泳ぎ始めたころのものと全く同じです。そして数多くの初心者の泳ぎ方とも似ています。そして、きっとあなたが初めて泳いだ時も同じような泳ぎ方をしていたのではありませんか?
文明の始まりから今日まで根強く残っているスタイルは世界共通で、私たちのDNAに組み込まれているのです。共通した特徴は、以下の2つです。

  • 息苦しくならないように頭を高く上げる。
  • 沈まないように、手足をバタつかせる。

この動作は、何百年以上も陸上の生活に適応してきた犬や鹿などの陸上哺乳動物の泳ぎ方と似ているので、私は「陸上動物の技術」と呼んでいます。

私たちは、初めて泳いだ時に、命の危険にさらされていると感じてしまうので、その時の泳ぎ方が深く心身に残ってしまうのです。それが、「手足をバタつかせることで生き延びる」ことです。

何度も不快で疲れる泳ぎをしながらも、続けていることで、「溺れるのではないか」という不安が、「もっと長く泳げるようになりたい」という欲望に変わっていきます。しかし、自分を守ってくれると思い込んでいる、水をかく/蹴るという動作が、スイミングの本質的な動作であると、脳に定着してしまっているのです。そして、このスタイルでいつも疲れてしまうため、上達するためには体を鍛えなくてはいけないと信じ込んでしまう傾向にあります。

経験のあるスイマーがトレーニングをしているのを見たり、雑誌やウェブサイトの関連記事を読んだり、また、レッスンを受けたり、トレーニンググループに参加しても、自分が今まで信じてきた直観や技術は間違っていなかったと思えてしまうのです。

心理学では、これをバンドワゴン効果と言い、「みんながやっているなら正しい」という傾向です。

水泳指導の進化
陸生動物の泳法は本能的なものであるという事実とは別に、安全機関として水泳指導でもっとも知られる、世界中に拠点を置く赤十字やその他類似の団体が、溺死事故防止に重点的に取り組んでいました。そして、どのように水をかき、蹴るかという「陸生動物の技術」を使って、その目的を達成したのです。

ほとんどの溺死事故は、安全とされる場所から数メートル以内で起こるため、彼らの指導法は効率性を重視したものではありませんでした。彼らが指導において重視するのは、美しさ、効率性、楽に泳ぐことではなく、常に安全でした。

その結果、従来の指導を受けた人たちは、水をかく/蹴ることに重点を置く傾向があり(トータルイマージョンを習っていない限り)、バランスやストリームラインの重要性という基本的意識も欠けています。

スイムトレーニングの進化
初心者にとってスイミングは、ランニングよりもずっと疲れるスポーツであったので、持久力が必要なものと思われていました。指導者によるスイミングレッスンが始まったのは1920年代でした。ランニングにおいてよく見られた、距離を伸ばすことに重点を置いたものでした。トレーニングセッションでは、時間のある限り長く、エネルギーのある限り懸命泳ぐことを指導していました。(Mayoクリニックのマイケル・ジョイナー医師によると、1960年以前は、トレーニングにおける技術面は、今より重要視されていたとのことです。)

年々タイムがよくなると同時に、持久力の有効性は確実視されているようでした。1960年代に、スポーツ科学が広まり始めました。生理学者たちは、運動に対する筋肉と循環系機能を測定する調査を行いました。この調査は、トレッドミルと自転車エルゴメーターを使って行われ、計測が難しいプールでは行われませんでした。

1970年代、スイミングコーチたちは、さらに洗練されたトレーニング方法を求めて、結果の出るコンディショニングを取り入れ始めました。さらに厳しく、体系的なトレーニングは、速いペースのスイミングの記録を落としていきました。ドク・カウンシルマンの「The Science of Swimming(水泳の科学)」やアーニー・マグリシオの「Swimming Faster(速く泳ぐ)」はスイミングコーチたちの間で必読書となりました。これらの本には、何百ページにも渡り、どのように筋肉がエネルギーを代謝するかが書かれています。(彼らはさらに、水のかき方、蹴り方に集中して、技術についても調べています。)

これらの理論に基づいた調査結果は、ランニング、自転車、クロスカントリースキーのパフォーマンスに、多少相互関係がありますが、スイミングには当てはまりません。世界記録保持者の中には、身体機能が平均的な人もかなりいましたが、一方で、平均的スイマーであっても、身体機能が優れている人がいました。それでも、本能によるバンドワゴン効果によって、どれだけ遠く、またどれだけ懸命に泳げるかを基本としたトレーニングが、速くなるための道であるという考えが、一般に浸透しているのです。

従来のアプローチは有効なのか
ほとんどの人は、従来の練習方法でうまくなれなくても、それは自分自身のせいで、指導やトレーニングの仕方に問題があるとは考えません。しかし、スイミングを広い視野から見た場合、これらの方法には、重大な欠格があると思われます。

  • 初心者(大人/子供)は、従来のレッスンによって溺れる可能性が低くなりますが、1マイルを楽に泳げるようになる可能性はほとんどありません。また、スイミングに熱意を持つようになることは滅多にないでしょう。
  • 競泳においては、厳しい練習を乗り越えて結果を出したケイティ・レデッキー選手やライアン・ロクティ選手などの例外を除き、ほとんどの若いスイマーはこれらの練習方法によって、怪我をしたり燃え尽きてしまいます。若い時に競泳をしていた人で、スイミングを楽しいくて満足感を得られるもだったと、後の人生において考える人は、ほとんどいないことでしょう。
  • 多くのスイマーが、フォームや効率性において何年も上達できずにいるのが実態です。その中には、練習方法を変えれば、上達できる人も沢山いるはずです。
  • トライアスロンのフォーラムでの、スイミング関連で一番多い質問は、「飽きないためには、どうすればいいのか?」と「どうやったら速くなりますか?」の2つです。

原理に従う
原始的本能に頼ると、エネルギーを無駄に消費してしまう泳ぎになり、見聞きすることのほとんどがこの傾向を強めてしまうのです。そこで、スイミングに関して見聞きすることに対して洞察力を持つことがとても大事なのです。もし、うまくできていないと感じたら、違う方法を考えてみてください。そして、一番大事なのは、スイミングに対するメンタルマップが、理にかなり、実証に基づいたものであるということです。

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