スイミングの原理1: エネルギーを使う前に節約する TIスイム創設者 テリー・ラクリン

 2016年5月10日
ステニィー・ケンポンポ・ニャンゴラ選手は、2008年の北京オリンピックで、100m自由形を泳いで有名になりました。

有名になったのは、速いからではなく、単に泳ぎ切ったからなのです。

ステニィー選手は、小さいグループの中の1人でした。そのグループの選手のほとんどは小さい発展途上国からの参加者で、それぞれの国においてスポーツの発展を促すことが目的で、オリンピックに招待されたのです。彼らは派遣標準記録を免除されました。

ステニィー選手はオリンピックの1年前に選ばれ、オリンピックまでの準備として、水泳先進国からのコーチに指導を受けました。しかし、トレーニングで集中的に習ったのはコンディショニングで、技術的なことはほとんど習いませんでした。

初めての大会でもあり、ステニィー選手は若さと力で最初の50mを泳ぎました。後半の50mはなかなか進まなく、解説者は無事に100mを泳ぎ切ることができるか懸念を示し始めました。観客も皆同じ気持ちだったと思います。

これはステニィーの飛び込みの写真です。とても強健に見えます。

そしてこれが、100m完泳するために水の中でもがいているステニィー選手です。

彼の何が注目を集めたかというと、正に「平凡」であるということです。何百万人という人が彼の泳ぎを見ていたと思うのですが、多分その95%の人が、彼と同じ立場に置かれても彼以上の泳ぎはできないでしょう。スイミングは、地上を歩くように創られた人間にとっては、自然にできることではないのです。

この下の写真は誰か判りますか?

ジョン・レノンです。正に人間のスイマーです。


エネルギー消費マシン

人間は、地上に適応する生活を何百年にも渡り送ってきたので、水の中では単にエネルギー消費マシンであるということを認識することは重要なのです。

これは、2005年にアメリカ海軍特殊部隊のスイミングフォイルをデザインした際、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)によって行われた調査で確認されました。イルカは80%のエネルギーを全身運動に変えていることが判りました。一方、調査対象の人間(自分はある程度泳げると思っているスイマー)は、たった3%のエネルギー効率しかありませんでした。

この結果から、私達はスイミングの原理1にたどり着きました。それは、「フィットネスレベルを上げる前に、常にエネルギーを節約することを意識する。」という原理です。

この原理を適応するには、次のことをします。

  • 技術を高める時には、推進力のスキルの前に、まず「船の形」のスキル(バランス、体幹の安定、アライメント、ストリームライン)を身につけます。船の形のスキルの習得には、エネルギーをほとんど必要とせず、エネルギーの節約の方法を身につけることができます。推進力のスキルを習得するには、多くのエネルギーと力が必要になります。
  • 推進力A:プルとキックに集中する時、どのように水に圧力をかけるかを考えるより先に、まず腕と脚をどのように使って抵抗を減らすかを意識します。
  • 腕:ボディーラインを伸ばすことで波の抵抗を減らします。
  • 脚:上半身に引っ張られるようにします。バタつかせて泡を立てないようにします。

  • 推進力B:筋肉によって生成された力を、自然の力である重力と浮力からの力に換えるようにします。
  • 無理して距離を伸ばすのではなく、短い距離を楽に泳ぐ練習を繰り返し、長い距離を泳げるようにします。
  • 現在のペースでできるだけ楽に泳ぐ練習をし、その後ペースを上げていきます。(楽に泳げるようになると、自然と速く泳げるようになります。)
  • スイミングの技術を向上させるためには、疲れや辛さを我慢しながら無理をするのではなく、どんな練習においても、まずは楽にできるようにすることが大事です。

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