2014年10月10日
TIスイム創設者 テリー・ラクリン

水泳で世界記録を樹立するには、何が必要でしょうか。より極端に言えば、「世界の誰よりも速く泳げる」というのは、どんな気分でしょうか。

最近のニューヨークタイムズの記事、 Miles From Her Top Competitors, a Young Star Still Outswims Them で、長距離で有名なアメリカのケイティ・レデッキー選手(800mと1500m自由形の世界/オリンピック チャンピオン)が、最近それを達成したことが記載されています。自身の世界記録を、800mでは8:11.00に、1500mでは15:34.23に縮めました。レデッキー選手は、四半世紀前のジャネット・エバンス選手以来の、優れた才能を持つ長距離競泳選手です。

今回の彼女の世界記録更新で驚かされたのは、 (1) 通常このような能力を発揮するのに必要とされているテーパリングも行わず、厳しいトレーニングの最中に出した記録であり、(2) 大会自体も、エリートが集まる大きな大会ではなく、チームメイトと一緒に参加した比較的小規模な大会であったということです。

そしてこの記事には、以下のような、改善を目指す全てのスイマーにとって、非常に貴重な洞察が記されていました。

「レデッキー選手は、禅の境地にあるような『楽』な感覚で泳いでいたと言います。その境地に没頭し、タイムのことは全く考えず、水の中で自分の体が楽に引っ張られて行くことを、ただただ楽しんでいたそうです。」

以下は、最高の泳ぎをするための重要な2つの原則です。

1) 速く泳いでいる時は気もちが良い
力いっぱいに泳いでいると感じる時は、エネルギーを無駄に使っています。苦しいと感じる時は、効果的な泳ぎをしていません。集中力は必要ですが、常に穏やかで力まず泳ぐことが重要です。

2004年に、私はテキサスのオースティンで、トレーニングの指導をしました。そのトレーニングには、アーロン・ピアソル選手、イアン・クロッカー選手、ニール・ウォーカー選手 、ブレンダン・ハンセン選手の4人の世界記録保持者が参加していました。トレーニングの後で、それぞれの選手に「世界で誰よりも速く泳げる」というのは、どんな気持ちだったかを聞きました。

全員が、レデッキー選手と同じような答えをしました。例えば、ピアソル選手は、「壁に手を着いた時、まだまだ泳げるような気分でした。」と言いました。

彼らの言葉からも解るのは、「必死に泳ぐことが目的ではない」ということです。練習で力んで泳ぐことによって、レースでも同じように力んで、無駄なエネルギーを使うことになってしまいます。

そこで必要なのは、全てのトレーニングにおいて、トレーニングメニューを一番楽にこなす方法を見つけ出すことです。それによって、レースやタイムトライアルでも同じように泳ぐことができ、自己新記録を樹立する可能性が高まるのです。

2) 結果ではなく、プロセスに集中する
ケイティは、自分のタイムのことは考えなかったそうです。プールの中にいる他のスイマーのことも気にしなかったのだと思います。彼女はただ、自身のストロークの中に「最高に気持ちの良い感覚」を感じることだけに集中していたのです。

これは、誰でもが練習に取り入れられることです。練習をする時に、タイムのことは気にせず、無重力感覚、矢が空を突き抜けるように水の中を進む感覚、水に逆らうのではなく、共に調和する感覚などに集中してみてください。

レデッキー選手のように、一世代に1人というようなスイマーは、普通の人が抱かないような、知覚認識を持っています。しかし、練習で「感覚」に集中することによって、誰でもが知覚認識のレベルを高めることができるのです。

ケイティ選手のコーチであるブルース・ジェンメル氏は、数ヵ月後に、指導の講義を行うことになっています。しかし、皮肉なことに、受講者として参加する予定の何百人ものコーチたちは、ケイティ選手のトレーニングの詳細(距離による心拍数、ペース、インターバル等)を期待していることでしょう。

さて、いったい何人のコーチが、ケイティ選手が「プロセス集中思考」に至った経緯やトレーニングにおいて彼女が求める質の高い知覚認識について、興味を持ってくれるでしょうか。

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