2014年5月10日
トータル・イマージョン代表 竹内慎司
元々スイムのタイムを大幅に短縮することを目的として始めたランニングであるが、心肺機能の強化以外に様々な効果があることがわかった。特に「脳を追い込む」ことができるようになったことは、速度の劣化を防ぐ点で役に立つであろう。

○ランニングに比べて明らかに低い心拍数
安静時心拍数が80から90と高めであるのが理由かもしれないが、私の場合ランニングでは151がラクに走れる心拍数、155がきつめ、160がかなりきつめ(上り坂)である。

一方水泳では、海水でゆっくり泳いで40〜50、スピードを意識して泳いで90程度、プールでは上がっても120である。水圧により心拍数は1割低くなる(ウェブサーフィンによる未確定知識)らしいが、それにしても陸上で運動をしている心拍数とはほど遠い。

今回のキャンプにおける実験では、下り坂でキロ5分15秒のスピードで走って心拍数は151、合計500m(50-100-150-200)のディスタンスピラミッドをテンポ1.20秒、ストローク数38(長水路)で行って心拍数は120に満たなかった。しかし、きつさの点では明らかに後者の方がきつく感じる。この差はなぜ生じるのだろうか。

○局所的なエネルギーの集中がもたらす「誤解」
ランニングの場合、重力に逆らってからだ全体を地面から空中に持ち上げることにエネルギーが使われる。一方水泳の場合、水の抵抗を受けながら動かしているのは主に手である。陸上と違ってからだ全体を持ち上げる必要がなく、また動いている部位も少ないので、使用する酸素も少なく、従って心拍数を上げる必要もない。

またランニングは前傾姿勢による重心の移動を使えば、足に力を入れる必要はない。一方水泳は、「手でかいて進む」という意識が強いので、手や肩に力を入れることになり疲れや痛みを誘発しやすい。

このように手や肩に力を入れるという行為は、筋肉的にはからだ全体や足の筋肉に比べて酸素を大量に必要としないので心拍数は上がらない。一方で力を入れ続けることにより、ランニングにおける足よりも早いタイミングで痛みや疲れが表れる。

つまり「体力」について心肺機能を中心に考えるのであれば、5km走ることができれば水泳で1500mを泳ぐことは体力的に全く問題ないのである。

○体力の限界はないと考える
今回のキャンプでは、いずれのクールでも2日目に心拍数を計測してもらった。各ラップを泳いだ直後に10秒間の心拍数を計測し、報告するのである。テンポピラミッド、ストロークピラミッド、ディスタンスピラミッドいずれにおいても、心拍数は平均して60%増程度でおさまっていた。安静時心拍数が80であれば128である。水中で心拍数が下がることを考慮しても、水泳では運動のきつさが感覚的に一段階上がると考えてよい。

そして最後に50mスプリントを行ったが、それでも80%までいかなかった。おそらく本人は「最高にきつい」状態だったのだろうが、体力的には「きつい」程度である。

つまり水泳は、体力=心肺機能により制限を受けるような運動にはならないのである。逆に考えれば水泳に体力の限界はない。

○唯一の障害:「筋肉の疲れ」
速く泳ぐにせよ、長く泳ぐにせよ、ランニングより心拍数が上がることがなければ水泳に体力の限界はない。しかし実際には筋肉が疲れて思うように動かなくなる。筋肉は使わなければ疲れることもないので、疲れる部位=使っている部位となる。

チェックポイントは2つ。1)その筋肉を使う必要があるのか。代替できないのか。2)その筋肉を使う時間を短くできないのか。

筋肉の疲れは根本的に取り除くことはできないので、疲れにより泳ぎに影響が出るタイミングをずらす方針で対応する。これまで300mで肩が動かなくなるのであれば、これを500m、1000mと伸ばす。

水泳ではほとんどの場合肩、肘、手首をとりまく筋肉なので、手の動かし方や力の入れ方を変えるだけで効果が出るはずである。

○最後に脳を追い込む
疲れの問題に対応策を施したら、あとは脳を追い込むだけである。心臓的には問題がない。疲れて動かなくなるタイミングも遅くなっている。あとはペースアップすると疲れるのではと尻込みする脳の尻を叩くのである(意味不明な表現であるが)。

今回のOWS1.4kmTTでは、このように脳を追い込むことで100mあたり1分55秒のベストペースを出すことができた。

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