今年のシーズンはグアムのココス島往復泳に始まり、短水路の22分30秒切りを目指すためのスピードアップ練習を積み重ね、無事目標を達成することができました。今年のスイムシーズンの総仕上げとして、これまで行ってきたフォームの改造や練習のアプローチをカリキュラム化してお客様にレッスンの形で初めて提供したのが、9月5日〜8日に実施したグアムのスピードアップキャンプです。
今回はスピードアップ・キャンプに参加された方達が、どのようなアプローチでスピードアップを達成したかについて説明しましょう。
●「劣化しない泳ぎ」と「ディセンディング」
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グアムの青い空、透き通った海でタイムトライアル |
今回のキャンプのテーマは、「劣化しない泳ぎ」と「ディセンディング」です。これまで速度を落とさない重要性については理解していました。そこで具体的なアプローチを研究するために先日の世界選手権の結果を分析したところ、1500m、800m、400m、200m、100m全てのクロールの種目(決勝)で上位3名の劣化率(平均50mラップタイム/最初のラップタイム)が0.3%以下という結果が得られました。特に1500mでは、優勝したSun
Youngが劣化率0%、残り1400mからは劣化率がマイナス7%と脅威的なラストスパートをかけています。
このように、最初のラップの勢いを持続することを「劣化しない泳ぎ」または「無劣化の泳ぎ」と定義しました。今回のキャンプではこれまで竹内が得た無劣化の泳ぎのための道具を主にプライベートレッスンで提供し、全体練習では10×50mの「無劣化テスト」を行うことで、劣化しない泳ぎ方を身につけていただきました。
スピードアップのもう一つの要素が「ディセンディング」です。水は空気に比べて840倍重く抵抗が大きいので、同じ速度で泳ぎ続けるためには速度劣化を補う加速が必要になります。この加速の技術を「ディセンディング」と呼んでいます。劣化しない泳ぎ方で泳ぐことで休憩をとりながら、必要に応じてディセンディングを意識して加速することで、速度変動の少ない効率の良いスピードアップが可能になります。
今回のスピードアップキャンプでは、テンポピラミッドやストロークピラミッドを通じて加速の道具を磨くことで、ディセンディングを意識したときに具体的に使う道具を決めるようにしました。
●目標達成のためのフォーム作り
キャンプではこれまでの目標値に基づく分析を一歩進めて、目標のペースを達成するために必要なストローク数とテンポを算出し、現在泳げるストローク数やテンポとの乖離を確認しました。この確認にはテンポピラミッドやストロークピラミッドを使います。ストローク数とテンポ、どちらが目標のペースに近づけることが難しいのかを理解することで、練習の内容を変えていきます。どちらも達成可能な数値であれば、今度は達成できるフォームで泳げる距離を伸ばしていきます。
●ケーススタディ:スピードアップのアプローチを変えてタイム5%短縮!
Mさんの1500mタイムトライアルの結果(今年春と今回のキャンプで測定)を下に示します。Mさんは毎月1回世界のアイアンマンレース(スイム3.8km・バイク180km・ラン42.195km、合計約226km)を転戦するトライアスリートで、オープンウォータースイムの大会にも積極的に参加しています。
これまでのMさんのスイムに対するアプローチは、「速く泳ぐためには速くかく」でした。毎月1回226kmのレースができるほどの体力を使って、0.9秒を下回る非常に速いテンポで劣化率3.8%という劣化しない泳ぎを実現していました。体力勝負型のトライアスリートの通常の劣化率は10%〜20%なので、この数値は驚くべきものです。
しかし加齢に伴いタイムが伸び悩んでいたMさんは、今回のキャンプでスピードアップのアプローチを根本から変えることにしました。まず泳ぎが劣化しないようにリラックスしてストロークを伸ばすことを意識して、次にキャッチとプルの型にはめることをディセンディングの道具としました。結果としてタイムを84秒短縮することができました。詳しく見ると平均テンポは15%遅くなり、伸びのある泳ぎに変わりました。ストローク数は325減りましたが、これはこれまでの泳ぎ方(60ストローク/50m)で換算すると270mにもなります。
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タイム |
ストローク数 |
平均テンポ |
平均劣化率 |
2013年3月 |
27分29秒02 |
1779 |
0.87秒 |
3.8% |
2013年9月 |
26分04秒84
(-84秒2, 5.1%) |
1454
(-325) |
1.00秒 |
3.8% |
劣化率についてグラフで見ると、3月の測定結果ではタイムの劣化率(赤いグラフ)において200m以降1200mまでは右肩下がりでラップ毎に速く泳ぐことができていますが、1300m以降力尽きています。ところが今回の結果では、200m以降中盤まではほとんどタイムが変わらず、中盤以降はディセンディング状態となり最後の300mは最初のラップ並みかそれ以上のスピードで泳ぐことができています。中盤までは伸びのある泳ぎで低いストローク数を維持して劣化を防ぎ、中盤以降は温存された体力を使ってテンポを上げて速く泳ぐというアプローチが見事に成功しています。
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1500mタイムトライアル(2013年3月) |
1500mタイムトライアル(2013年9月) |
スタミナのあるトライアスリートはスイムも体力依存になりがちですが、完泳はできても体力でスピードアップすることは至難の業です。このように劣化しないフォームをまず作り、温存した体力を使って後半ディセンディングしてタイムを縮めることがスピードアップの方程式になります。
ここで必要になるのは以下のステップです。
- 目標のペースを実現するためのストローク数とテンポ、劣化率を定める。
- 劣化しないフォームを作り、その距離を伸ばす。
- 劣化しないフォームのストローク数とテンポを、1で定めたストローク数やテンポに近づける。
このようにアプローチを変えるだけで、練習量を増やすことなく5%程度のスピードアップを達成することができます。みなさんもぜひお試しください。
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