2週間前にTIのオープンウォーター体験でハワイ島のコナに居た時、運よくKai ‘Opua Canoe Clubで2日間アウトリガーカヌーを漕ぐことができました。そしてさらにラッキーなことに、2日ともイルカの群れに出会いました。私たちは漕ぐのを止め、そっと近づいて厳かな気持ちで眺めていました。イルカのヒレがひとつ、そしてまたひとつと水面に顔を出してはまた水面下に消えるのを見る度、私たちは感嘆の声を漏らしていました。
去年の秋にマサチューセッツ州のプロビンスタウンでホエール・ウオッチングをした時も、同じような出来事がありました。遠くに目にしてから、間近で何十頭もの鯨を見るまでの1時間以上もの間、全ての人が、30〜40トンもの巨大な生き物がほとんどさざ波を立てずに、しなやかに水面を滑る姿に目を奪われました。あんなに大きな生き物が、いったいどうやってあんな優雅な動きができるのでしょう。
今朝マキシン・フェローズさんのフェイスブックの投稿を見て、このことを思い出しました。彼女はこう書いていました。「私は速いスイマーにはならないし、なろうとも思いません。それよりも、何キロもこんなふうに泳げるようになりたいです。」「こんなふうに」というのは、以下のビデオのことです。
マキシンさんは、スピードに対する無茶な追求をすることによって、調和や一体感、イルカの様に滑るように泳ぐ(見ている人が海の生き物と比べるほどのフォームを身につける)などの、スイミングの視点を見失ってしまうことを解っています。
海の大きな生き物たちは、優雅な動きをするにもかかわらず、とても速い。それと同じように、人間も美しいフォームで速く泳ぐことは可能である、ということを、私は30年前競泳選手たちを指導していた時に学びました。
「美」の指導
1980年に、アメリカのトップスイマーのビデオシリーズが発売されました。全てのビデオに、全ての種目で世界または全米記録を保持した唯一の競泳選手、トレーシー・コールキンズが出ています。(マイケル・フェルプスはバタフライでの記録は保持していません。)トレーシー選手は、彼女の世代の他の選手には見られない、とても優雅な泳ぎを見せています。
トレーシー選手が稀な能力を持ち合わせているのは明らかですが、彼女のフォームの重要な要素は教えられるものであると考え、チーム全体に彼女の技術を取り入れることを決めました。レッスンを続けていく中で、スイマーたちがより美しく泳げるようになっていくのを見て、私はスピード指導をしていた時以上の喜びを感じていました。自分のプールでもっと優雅な泳ぎを見たいという欲望が、私の最高の動機付けとなっていったのです。
スピードに関してはほとんど変化がみられない一方、フォームの美しさは驚くような速さで日ごとに改善されていきました。私は集中的指導にさらに時間を費やすようになり、毎回プール一杯に広がるスイマーたちの優雅な動きを眺めては満足していました。
スピードとは違って、美しいフォームで泳ぐことは誰にでも可能です。以前、レベルの低いスイマーたちが自分たちのフォームは優れているとチームの仲間に見せ付けたことがありました。そして、チームのトップスイマーたちが直ぐにそれに対抗したのですが、はやりトップスイマーたちの方が美しく優雅でした。
それから2年の間に、このチームは10の全米年齢別選手権で勝利を獲得し、ジュニア全米選手権を総なめにしました。美しいフォームを指導することは、私に本質的な満足感を与えただけでなく、個々の選手とチームにかつてない成果をも与えたのです。
さらに、美しい動作を意識することによって、技術への理解も容易になります。ストロークのメカニズムは複雑に説明されることが多いので、コーチでも頭を悩ませることがありますが、ほとんどのチームメンバーは優雅さを実感し、自身の能力に自信を持つようになりました。
過去30年を振り返ってみても、もっとも美しいストロークをするのは最高のスイマーたちです。並外れた成果を出したスイマーたちの泳ぎは、その時代の他のスイマーたちよりも遥かに優雅でした。長期にわたり世界記録を保持した遠泳のブラジミール・サルニコフ(1977年〜1988年)や短距離のアレクサンドラ・ポポフ(1992年〜2003年)などもこれに含まれます。そして、大差をつけて記録を更新してきたオーストラリアのイアン・ソープ、数多くの種目で記録を生み出したマイケル・フェルプスやトレーシー・コーキンズのような選手たちも同様です。現在注目を浴びている長距離スイマーである中国のソン・ヨウは、彼の見事なタイムはもちろんのこと、その滑らかなストロークは目を見張るものがあります。
それでもはやり、私が今でもなお感動させられるのは、95歳のポール・ルリーが見せる卓越した優雅さです。 |