2013年6月10日
TIスイム創設者 テリー・ラクリン

今私はイギリスのウィンザーから書いています。最後にここを訪れてからまだほんの数ヶ月です。10月の半ばには、コーチの資格取得コースの講師として来ました。そして、トライアスロンショーで講演をするために、また昨日ここに戻ってきました。今日のブログはフォーカルポイントについて書きます。大西洋のこちら側で昨夜始めて泳いだ時の経験は、始めてイギリスで泳いだ時のそれとまったく同じもので、うまく泳げませんでした。しかし、フォーカルポイントを意識することで改善されました。

10月に来た時は、コーチのトレーニングセッションの後、泳ぐ時間が10分(500〜600m程度泳げる時間)しかありませんでした。しかし、たった100m泳いだ辺りで、私はやる気を失ってしまいました。インドアで泳ぐのは5ヶ月ぶりだったのですが、アウトドアやオープンウォーターでの開放感が無く、物足りなかったのです。集中するためにまず私が行ったのは、最初のレッスンやワークショップで私たちが教えること、つまり、首の力を抜いて頭を垂らすことです。たったそれだけを意識しただけで、私のやる気は戻ってきました。もはやインドアであることを忘れ、1時間でも楽しんで泳げる気分でした。

昨夜の私の問題は、やる気ではなく、時差ボケによるエネルギー不足でした。私はイギリスのTIコーチであるトレイシー・バウマンと一緒に、レッスンのためにプールに向かいました。彼女が週に一度指導している、フォーカルポイントとテンポトレーナーの練習を中心にしたグループレッスンです。私は早目にプールに入り、100mを繰り返し、少しずつテンポを上げていきました。しかし、800mを超えた辺りからひどい疲れを感じ、時差ボケのせいだと気付きました。イギリスには12時間前に着いたのですが、ニューヨークからは深夜便で、短い時間うとうとしただけでした。

私が疲れを感じ始めた時、トレイシーの生徒たちが集まり、フォーカルポイント(頭を垂らす、腕の力を抜く、脚をリラックスさせる)を意識しながら25mを繰り返し泳ぎ始めました。これを30分行った後、フォーカルポイントを意識したまま、今度は指定のテンポで30分(初めはゆっくり、徐々にテンポを上げて)泳ぎました。60分間常に焦点を明確に保つことで、私も最後は心身ともにリフレッシュすることができました。

日曜日は、何百人ものトライアスロン選手たちに、フォーカルポイントの利点について話をさせていただきます。その時まず話そうと思っているのは、これらの2回の泳ぎで私が経験したフォーカルポイントの回復効果です。その後、以下のことを含む、その他のあらゆる利点について説明します。

エリート選手とのギャップを縮める
物理的には、ほとんどのエリートスイマーは、まるで全く別の人種のように見えます。ほとんどのエリートスイマーは、長身で、引き締まっていて、強くて、柔軟です。しかし、著しく違うのは、彼らの水に対する優れた感覚、つまり、水の中を有利に進むうえでの生来の意識です。 体質や体格を変えることは難しく、限度がありますが、水への意識を改善することは可能です。それには、フォーカルポイントの練習が最適です。

繭の静けさ
トライアスロンの選手にとって、レースでの一番の課題は最初の数分にあります。スタート直後の混み合って混乱した中で、どのように冷静さを保つかということです。この様な状況は、パニックや興奮状態を引き起こし得ます。冷静さを保つ一番の方法は、その状況で自分がコントロールできること、つまりストロークに集中することです。ストロークに集中しながら、雑念を排除し、精神をもコントロールするようにします。私はこれを「繭の静けさ」と呼んでいます。プールでフォーカルポイントを意識しながら、この状態を作り出していきます。これを常に行うように心がけることで、ストレスの多い状況でも冷静さを保つことができるようになります。

エキスパート精神
「エキスパート精神」は私の好きな言葉です。ティモシー・フェリスさんが彼の新書「The 4-Hour Chef」で、学習方法を理解することで、どんなことでも素早く学習する能力のことをメタ学習と呼んでいます。いかなる分野においても世界クラスの学習者になるためには、鋭い集中力を持つことが最も重要です。スイミングで自分の集中力を確実に高めるには、特定の技術面を今まで以上にうまく行うという目標を定めてから、毎回ラップを始めることです。

90歳を超えても集中力を維持
神経科学者達は、認知的予備力を、アルツハイマーを含む老化に伴う知力の衰退への抵抗力のある脳の特徴であるとみなしています。簡単に言うと、より多くのニューロンが存在すると、より多くの強固な回路が形成され、脳の質量も大きくなります。数学の方程式を解く、北京語を習う、チェスをするなどの行為は、認知的予備力を高めると言われています。しかし、もっとも効果的な方法は、有酸素運動と高度な認知的作業(完全に意識を集中しないと行えないような困難または複雑な技能)を組み合わせることです。有酸素運動によって、脳の活動に必要な酸素とグリコーゲンが十分に供給されます。運動を行うことで、筋肉が神経成長因子というタンパク質生成します。それが血管を通って脳に運ばれ、新しい脳組織が形成されるのです。そして、意識的動作によって、認知ニューロンと運動ニューロンが結ばれるのです。

フォーカルポイントを意識することで、脳細胞も活発になり、ストロークと精神も改善されます。

 ©Easy Swimming Corporation