2012年4月10日
TIスイム創設者 テリー・ラクリン
 何度かブログやフォーラムでも書いたのですが、2007年にリューマチ性関節炎になってから、「速く」泳ぐことが難しくなっています。
 この状況を、前向きにとらえ「速さ」とは何だろう・・と考えるようになりました。

 以前のブログで、昨年12月のマスターズイベントの結果と、その経験から得たことを書きました。
 その時のタイムは、1000ヤード・13分29秒です。
 そこに、あるコメントが投稿されていました。
 私からみるとタイムは落ちていたのですが、コメントはそのタイムを賞賛したものでした。

 そこで気付いたのです。確かに42年前のベストタイム10分45秒と比べたら遅いですし、また5年前と比較してもそうです(11分51秒)。
 つまり、「速さ」とは、比較して成り立つものです。

 しかし、そのタイム自体が世界記録ではない限り、「速さ」は人によって違います。年齢、性別・・・など。
彼のコメントにより、それまでのことを振り返りました。参加することの楽しさ、友人との再会、自分へのチャレンジ、ベストを尽くす・・・。
 遅いタイムへの失望が大きいあまり、それらを見逃していたのです。

 このように、競争心が強いあまりに、結果(タイム)が悪いと楽しみだったものを見失うのは、起こり得ることです。その競争心をポジティブに利用できれば良いのですが、悪い結果に囚われるようでは問題だと思うのです。

 何ヶ月か前、あるマスターズスイマーと話をする機会がありました。70代の女性です。彼女は、40代から50代にかけて熱心に泳いでいたそうです。最近10年(それ以上かもしれません)は、イベントで見かけませんでしたが…

 なぜ泳がないのか尋ねたら、彼女はこう答えました。
 「遅くなる自分に耐えられない。」
 年齢を重ね、タイムが遅くなるのは避けられないことですし、むしろそれを理由に水泳から離れるのはもったいないことだと思います。
 まして気にしながら泳ぐのなんてつまらないでしょう。

 そこから私は、年齢に囚われるのではなく、受け入れることについて考えました。現在の自分の状況で、何ができるかを考え、試しています。

 自分の持つ技術を最大限に出し切って、優雅に泳ぐ。優雅さは、人の目にとまるものです。(プールでは、速さよりも優雅が注目を集めます。)
 私よりも年上で、優雅な所作で水泳・ヨガ・太極拳を行なっている人を見ると、「あなたのように年齢を重ねたい」といつも思うものです。
 今は、レース中に「泳ぐ芸術」を目指して泳いでいます。タイムよりも、いかに「泳ぐ芸術」になれるか・・・そしてどれほど近づけたかに意識を持って泳ぐのです。

 芸術かどうかを決めるのは自分ですが、タイムは計測することができますから、客観的に誰もがわかるものです。でも計測の結果が重要ではなく、計測することで見直しができるということが大切なのです。そして水泳を見直す場合にタイムを使うならば、「直近」のタイムを選んでください。
 このように、査定をするのに「計るもの」があるのはとても良いことなのです。

 多方面で活躍する人は、フィードバックが上手です。つまり、やったことと結果の関連付けが、客観的にできているのです。そこで私は、12月に出した「遅い」タイムを3〜5ヶ月のベンチマークとし、そこから上達する計画をたてました。
 そのメニューを査定しつつ練習をはじめます。SPLとタイム・テンポとタイム・両方とタイム・・・など、査定には様々な組み合わせを使います。

 この練習の目的は、計測することです。ただ泳ぐのとは違い、計測することで、計算された結果がついてくるのです。
 そして結果が現れて練習を終わりますが、その結果に満足し、また泳ぎたいというモチベーションを得て、去りがたい気持ちと共にプールを去ります。

 レースや練習では、かかった時間の量ではなく、どう時間を使ったかが大切です。60歳になり、レースタイムは遅くなるのに、練習時間は短くなっていく・・。そのレースや練習の、どちらも有効な時間を過ごすべきです。

 1992年以来、レースタイムは19分を切っていません。2006年では、それが20分となりました。今は23分です。
このようにレースにかかるタイムは長くなっていますが、これを現実として受け入れています。だからこそ、20年まえの19分切りよりも、23分で気持ちよく泳ぐことを目標にしています。

 日々の練習では、長時間の練習ができなくなりました。足がつるので、何度も壁を蹴ってスタートすることができないのです。51歳の時、10000ヤード泳いでいたのに、55歳では5000ヤードがやっとになりました(レースに備えた練習をしていた時期です)。3000ヤードを泳ぐ程度です。それ以上は、壁を蹴ることができません。それを悲観せずに、1本1本を大事に泳ぐことを選ぶのです。

 確かに、練習の量は減りました。しかし、質は格段に上がっています。練習の目的が明確だからこそ、質は上がるのです。

【編集後記】◆高橋コーチのワンポイントレッスンは今月で終了です。来月は他のコーチにバトンタッチします。◆サロンこぼれ話では教わり上手なTIスイマーを紹介しています。加藤コーチはメモにもチェックを入れるそうです。スイムとメモの両チェック、上達への道が大きく開けそうですね。◆平山コーチのレポートは率直な言葉で語られていて、まるで一緒に泳いでいるような錯覚を受けます。3ヶ月に亘り掲載しますので、お楽しみに!◆コーチ短信では私(塚本)がレッスンで知り合ったスイマーから学んだことについて書いています。永瀬・中村コーチからは選手育成クラスの活動記録です。◆テリーは現状を受け入れてトレーニングをすることで、モチベーションが維持できると言っています。誰もがやる気を失うことはありますが、テリーの場合は現状を見つめることがモチベーションを取り戻すキッカケになるようです。(TIコーチ 塚本恭子)
 ©Easy Swimming Corporation