2012年2月10日
TIスイム創設者 テリー・ラクリン
 ビギナーズマインドとは、禅宗に由来するもので、‘初心’と言われるものです。
それは学び得ることに熱心で、常に先入観のない様子をいいます。また上級者となっても、その姿勢はかわるものではありません。

 ちなみに、このビギナーズマインドは、禅の世界だけでなく、日本の武道でも主要な教義です。そして、TIをマスターするのにも有効だと思うのです。

 その例として、TIメソッドにたどりついた1989年を境に、前後の20年のトレーニングをここで比較してみます。

 最初の20年のトレーニングでは、全てのセッションやセットにおいて、こと細かに有酸素運動とコンディショニング(筋トレ、スタミナ増強)について定義していました。
 今でも、ハードな練習をしている場合は、この方法(エネルギーシステムトレーニングと呼ばれています)でトレーニングしている場合がほとんどです。
 科学的に基づいたトレーニングになればなるほどメニュー設定が細かくなります。年間に渡るトレーニングスケジュールをマクロ、マイクロサイクルにわける、などもその例になります。
 そのスケジュールに従い、月曜日にはこのセットメニュー、火曜日には別のセットメニュー、というように行っているわけです。メニューの内容は、リピート回数、距離、心拍数、レストの比率、などが決められています。

 これとは逆に、現在の私の練習方法は、だいたいのアイデア(その日に何をやりたいか)しかありません。私が練習前に決めるのは「どのくらい長く泳ぐか」のみ。それもだいたい1時間です。理由は、集中力(と楽しさ)が1時間は維持できるからです。また1時間を越すと、壁をけってスタートすると足がつってしまうのです。

 ここで話を戻しますが‘初心’の状態にするのに、まず5〜10分程度泳ぎます。(たまに興がのると1時間ほど泳ぐこともありますが)
 この間は、セルフチェックしながら「その日のテーマ」を見つけるように泳ぎます。
 ・肉体的、あるいは精神的なモチベーションはどうなのか?
 ・ゆっくりと流れるように動作ができるのか?
 ・ストロークの各フェーズではどう動いているのか?
 ・長距離、もしくは短距離を泳ぎたいのか、それとも他の種目を泳ぐか・・・
などを、探るように泳ぐのです。

楽しく泳ぎたい!

 そこで感じた「テーマ」を数値的に明確にするために、「計測」を行います。
1)少ないストローク数で短距離を繰り返し泳ぎ、2)そのストローク数では何秒で泳げるのかを、3)ペースクロックで調べる。などが「計測」の方法です。
 また、この「計測」にテンポトレーナーを使うこともあります。
(1)テンポスイムを行ない、(2)テンポがストローク数やタイムにどう影響し、(3)距離に対してはどんな影響があるのか、を知ることができます。

 最初のカウントを改善できない、もしくは維持さえもできずに増えてしまう・・・。
 そんなときは、泳ぐのをやめます。そしてどの程度の距離を、そのテンポとストローク数で泳げたのかが、改善に向けた有効なデータポイントとなり、そこから練習についてのアイデアがあふれてくるのです。

 泳ぎ始めより良くなるように、データポイントを組み合わせて、メニューを作ってみます。(組み合わせ例:ストローク数とタイム、テンポとストローク数、テンポとタイムなど)
 そうして泳ぎ終わると、数値が示す確実な変化と、集中する事で研ぎ澄まされた感覚という、2点においての満足を得るのです。

【編集後記】◆わかりやすい説明で定評のある高橋コーチのワンポイントレッスンです。速く泳ぐのにラクでいいの?と抵抗のあるスイマーは多いと思いますが、トップレベルのスイマーは皆、ラクそうに見えますね。◆コーチ短信は中村コーチから選手・育成クラスの活動報告と、4年間マスターズクラスを担当した中井コーチの「思い」です。中井コーチはキッズクラスも担当しプールが怖い子供との信頼関係を築いていました。信頼関係があってこそ思いは伝わるのでしょう。◆テリーは泳ぎながら自分と対話しているのでしょうか。ただメニューをこなすのではなく、何をやりたいのかを探りあて、状態を変化させてからプールを去る。たった1時間の練習で満足するの?と思ったけれど、その内容はとても充実しているようです。(TIコーチ 塚本恭子)
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