2012年から、TIスイム創設者でありヘッドコーチのテリー・ラクリンが、日本のTIスイマーへ向けてオリジナルのメッセージを配信することになりました。
新年号では「カイゼン」についてテリーが感じたことをお届けいたします。
アメリカ人である私が、日本がルーツのカイゼンという考え方について語るのは、少し変な感じがします。それでも語るのは、カイゼンという思想は私の人生を変えましたし、それゆえ日本に感謝もしているからなのです。
私が水泳を始めたのは10歳。当時の目標はただ泳ぎきるのみでした。14歳でスイムチームに入ったときの目標は、「泳ぎきる」から「週末に参加するレース」へと変わりました。
コーチになったのは21歳です。目標はシーズンの終わりまで拡張していきました。
その目標とは6ヶ月間の激しいトレーニングで得たベストタイムやチームの勝利でした。
40歳では成人スイマーのコーチになり(中にはビギナーもいました)、そのときに私の目標は無限で、可能性に満ちたものへと拡大し始めたのです。
当時は、その感覚を表す言葉を知らなかったけれど、これが<カイゼン>という思想との出会いでした。
成人スイマーたちの目標は、もともと長期に亘るもので、つられて私の展望も広がったのです。
若いスイマーのゴールは、常に「今日」「今週」「このシーズンを乗り切る」というものでした。しかし大人のスイマーは、「健康」「やりがい」「生きがい」を求めていて、それらにゴールはありません。
<カイゼンには終わりがない、カイゼンとはこの瞬間のこと>
カイゼンのパラドックスは、無限の可能性とは、今日やこの瞬間の可能性に焦点を置くことでなり得る、ということです。カイゼンスイミングは、特別な所作がもたらすものではなく、むしろ自分しか気付かない程度の、動作の微調整だといえるでしょう。
結果を確実にするために、注意深く同じアプローチで何度もくりかえす・・・。
どの局面の、どの部位が、どこを通り、どのくらい時間をかける・・のように何を意識するかを、泳ぎはじめたときに決めて1時間後にはより良くできるようになる。
誰もその進歩には気付かないでしょう。でも、自分自身は知っているのです。熱心に、脇目もふらずに取り組んだ結果なのですから。この間、時間はあっというまに過ぎてしまうし、その時間はその日で一番良い時間となるでしょう。
それがカイゼンの驚異なのです。カイゼンの精神を受け入れる前は、3ヶ月先に出るベストタイムの、その「瞬間」のために練習をしているのだと、思っていました。
しかしカイゼンは、人生の無限の可能性を示しつつ、長い目で将来を見るのと同様、毎日も特別にするものだと教えてくれたのです。 |