1.地震の発生
3月11日の午後2時46分、TIジャパンが主催するイベントの会場でもおなじみの杉並区荻窪にある「スカイフィット」の7階プールでは午後3時からのキッズ・ジュニア・スイムスクールの開始が近づいていた。吉野と中村は出張指導で外出中、塚本と山口はスクールの準備、フロントの久保は子供たちを受け付ける準備をしていた。プール内では奥村がプライベートレッスンを行っており、田代と東條はスクールの時間に合わせて、スカイフィット1階のエレベーター前に出勤したところだった。
【塚本恭子コーチの話】
すでに来ていた子供は3人で、それぞれの親も来ていました。一人は先週からスクールを始めたばかりの子です。子供たちはすでに水着に着替えていたのですが、揺れが大きかったため、すぐ服に着替えさせました。揺れている間は半泣きになっていたので、ずっと抱きかかえていました。しばらくしてから子供を保護者の親に戻すとすぐにスカイから帰って行きました。1階には何人か来ていたようですが、エレベーターに乗る前(乗るタイミング?)の地震だったので、みんな乗らずに済んだようです。これは田代さんと東條さんも同じだと思います。
地震発生時に久保さんはドアを開け放ち、閉じ込められないようにしていました。山口さんは外を気にしていたお客様たちに窓から離れるよう指示しました。奥村さんはレッスン中のお客様を避難させ、私は子供たちのそばに着いていました。発生した時間は14時46分でしたが、まだ子供たちが集まる前で本当によかったです。
【奥村知実コーチの話】
地震のときはレッスンに夢中で初めは地震にまったく気が付かず、ジャグジーに入っていたお客様方に「地震!」と声をかけていただきました。でもすぐに収まると思い、レッスンを続けたのですが、20秒ほど経っても収まらず、むしろ揺れが大きくなってきたので慌ててレッスン中のお客様に声をかけてプールサイドに上がりました。上がった直後にプールの水が津波のように高くなり、どんどんあふれ出しました。あふれた水の勢いでプールサイドに置いてある子供のレッスンに使う赤い台(プールフロア)は倒れ、オーバーフローの溝にかぶせる保護カバーも流されました。プールにいたお客様はみんなプールサイドにしゃがみこみ、その様子を窺っていました。怖かったです。
レッスン中だったお客様と私は子供更衣室あたりのプールサイドにいたのですが、プールサイドの幅が狭い場所だったので水に飲まれるような気がして、お客様をエレベーターホールの方に避難させ、私は他のお客様がいるところに戻りました。揺れが少し弱まったころを見計らって、プールに残っていた方たちには6階へ着替えに行ってもらい、私も他のスタッフと共に6階へ避難しました。もう、とにかく初めての経験で、どうしたらいいかわからないけど、お客様を優先に避難させなければと思って、自分が水着だったことなど忘れてました。最悪、水着のままで避難するつもりでした。その後は水浸しになったマシンジムの掃除など、地震被害の後始末をして、20時前にスカイを出て自宅まで歩いて帰りました。
【中村大輔コーチの話】
地震発生時はレッスンの合間で外出中でした。安全が確認されるまでの20〜30分ほど、外出先の建物の中で待機した後、解放されました。スカイフィットまでの道の途中に自宅があるので確認に寄りました。一部の家具が倒れていたものの家屋自体は無事でした。選手育成クラスの保護者へ安否確認ため、メール連絡をすると同時にスカイフィットやスタッフの携帯に電話を入れるがすべて不通でした。その後、スカイフィットに向かう途中でいくつかの家屋で庭の木が傾いていたり、塀にヒビが入っていたりするなどの損傷が見られ、信号機も一部不能で警察が交通整理に当たっていました。
2.地震の被害
【塚本恭子コーチの話】
一度収まったようなので散らかったプールを見に行ったところ、また揺れ出したためにスタッフはスカイフィットの6階に集まりました。お客様たちはエレベーターが動かないために非常階段を使って降りてもらいましたが、プールからあふれた水で階段が濡れたため、とても滑りやすい状況(スカイのスタッフがこけていた)でした。お客さまには手すりにつかまって、ゆっくりと降りるように案内を出しつつ、6階から送り出しました。
子供たちとお客様が帰った後は最初に7階フロアの水をふき取りました。プール内の水は3分の2まで減っていたのにフロアはそれほど水浸しになってなかったのです。これは水が下の階へと流れてしまったからで、ビルの1階から3階にあるパチンコ店まで水が流れていました。このころに中村さんが駆けつけてくれました。
続いてスカイ内の点検に行きました。誰かが「エレベーターは滝になっていた」と言っていたし、スタジオでレッスンをしていた人たちも「水が流れ込んできた」と言ってたので、スタジオのある下の階を見て回りました。スタジオはそれほどでもなかったのですが、マシンエリアは水浸し(マシンエリアとスタジオは別のフロア)でした。
マシンエリアにはスタッフだけが出入りする倉庫のような場所があるのですが、ここの屋根が抜け落ちていました。また男性トイレも屋根が落ちかかっていました。取りあえず水浸しのマシンエリアの水をふき取る作業を開始しました。雑巾で水を吸い取り、バケツに絞ってはそれを流してきて・・・を繰り返す人海戦術だったので時間がかかりました。それでもスカイのスタッフとTIのスタッフで行ったので、作業手段から見てもはるかに効率は良かったと思います。
その後、プールへ戻り、外れたオーバーフローの蛇腹みたいなカバーをはめて、またスカイの手伝いに戻りました。そのころはもう夕方でみんな疲れていました。夕飯を食べようとスカイの専務が近所の松屋で食料調達をするように指示を出し、スカイのスタッフが購入してきてくれました。食べながらラジオやワンセグで起きた地震の状況を把握し始めました。津波の映像と気仙沼の大火事映像・・・。怖かったです。
【中村大輔コーチの話】
16時ごろ、スカイフィットに到着しました。エレベーターが休止状態となっていたので、非常階段から7階にあるプールフロアまで登りました。プールの水は3分の1ほどなくなっており、その水は階下まで侵入し、一部の天井が崩れるなどの損壊がありました。4階のジムフロアは床面が水浸しになっており、スカイフィットのスタッフと共に片付け作業をしました。20時ごろ、メール連絡をしていた選手育成クラスの生徒全員の無事を確認しました。当面の間、自宅待機するように連絡をしてから帰宅。道は徒歩で帰宅する人たちの行列でごった返していました。
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地震の翌日に水を抜いたプール |
3.スカイフィット臨泊
【塚本恭子コーチの話】
夕食を食べ終わると帰宅する人たちが出始めました。奥村さんは歩いて1時間で着くとのことで徒歩。田代さんと東條さんは自転車。久保さんはお迎えが来てくれるとのことでした。私と山口さんは帰れないので泊まり。スカイのスタッフでも一人帰れない子がいて泊まりました。中村さんは夜中まで一緒にいてくれました。出張指導で外出中だった吉野さんもそのまま現地で足止めだったそうです。
スカイのスタッフが見回りに歩いていたら変な音を聞きつけたので、その場所を探すとスタジオフロアの倉庫のような部屋にあるプールの水を循環する設備から水がジャージャーと出ている音でした。これは破損ではなく、閉める必要のあるバルブの片方だけしか閉めてなかったための水漏れでした。ここでもやはり水はけ作業を行いましたが、これはそんなに時間はかからなかったです。
スカイのスタッフは、なんども洗濯→乾燥機の繰り返しで、できることはやっておこうという冷静で落ち着いた対応をしていました。みんな若いのにしっかりしています。外を見れば帰路につく歩行者がたくさん。寒い日だったので、歩いた皆さんは大変だったと思います。
その晩は6Fのフロアにみんな(山口さん、スカイのスタッフの女子、そして私の3人)で寝ました。寝ようと思っても寝られずに3時くらいまでうとうとしていました。大きい余震が一度あり、さらに眠れませんでした・・・。
4.地震の翌日
【塚本恭子コーチの話】
翌朝はみんな(スカイのスタッフ)が8時30分に集合とのことだったので、そのちょっと前に起きました。その後、土曜日の子供クラス、成人クラス、マスターズ会員の皆さまにスクール・レッスン中止の電話連絡と問い合わせの対応をしました。山口さんは片付けの手伝いをしていました。そのうちに田代さん、中村さん、奥村さんが来たので、さらにみんなでスカイの片付けを手伝ったり、7Fを片付けたり・・・。
余震が続く間はプールとお風呂は無理との判断からプールの水を抜きました。抜けるまでに結構時間がかかり、帰るころもまだタイル1枚分程度の深さまで水は残っていました。
この日は15時30分くらいに解散となりました。帰りの電車は荻窪から新宿はすんなり行け、新宿から大宮までも大丈夫でした。大宮で1時間程度待ったでしょうか。それからはあり得ない混雑の中を帰宅しました。週が明けた月曜日はプール内清掃のために集合となりましたが、私は電車もままならないので、近辺のスタッフのみで対応してくれたようです。
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通常より浅い水深に設定して利用再開 |
5.スイムスクール再開
【中村大輔コーチの話】
週明けの13日(月)は子供のスクールの保護者へ電話連絡するため、スカイフィットへ出勤。地震に影響のない地方へ移動している家庭もあるようだが、連絡がついた家はすべて無事でした。16日(水)は再注水に先立ち、プール槽内の掃除。オープンから3年、手つかずだった箇所もこの日にすべて洗い落としました。
18日(金)からプールに注水を開始。20日(日)の夕方には、ほぼ予定の水深まで達して、プールロボットも入っていました。あとは人間が入れる温度まで水温が上がるのを待つだけになりました。
スカイフィット側より余震の危険性が払拭されるまでは水深を通常より低く設定したいとの要望があり、100cmほどの水深で23日(水)からスクールを再開しました。みんな、泳ぎにくそうにしていたが、幼児たちはフロアに乗らなくても顔が出るため、溺れる心配がほとんどなく、むしろ楽しそうにしていました。選手・育成クラスもこの日に再開。久しぶりに仲間との顔合わせになったため、みな終始和やかでした。
6.最後に
突然の大地震でも負傷者が出なかったことは不幸中の幸いだった。コーチたちが力を合わせて、プールにいた子供たちとお客さま方の安全を考えながら、初めての危機体験を落ち着いて行動したことにつきる。コーチたちも二度と体験したくないだろうが、貴重な体験になったのではないかと思う。
プールの水を抜いたことで、スカイフィットを利用するTIのイベントや子供たちのスクールはすべて中止した。この間にプールの清掃、設備の総点検を行い、安全の確認ができたところで注水を行った。地震後の電力事情による計画停電や節電への協力と続く余震を考慮して、水深は通常よりタイル1枚分浅くなるように注水している。地震発生から12日後の3月23日には子供のスクールを再開、24日から成人会員にプールの利用を解放した。4月からはTIのワークショップを再開。ようやく地震前の状況に戻りつつある。
(ドキュメント編集:中井博行) |