2010年11月10日
TIコーチ 中井博行
クロールで打つキックを英語では「フラッター・キック」と言い、日本語では「バタ足」と言う。水泳をしない人でも「バタ足」という言葉を知らない人は少ない。スポーツクラブのプールに行くとビート板を持って、バタ足をしている人が必ずいる。そのくらいポピュラーな練習法の一つなのだが、苦手な人が多いのもバタ足(以下=キック)である。特に大人になってから水泳を始めた人には、キックが共通の悩みではないかと思う。

キックが苦手だと、プルブイを脚に挟んだ方が素足のときより、楽に速く泳げることがよくある。プルブイのおかげで下半身が浮き、挟んでいる脚が開かないので、バランスの取れた抵抗のない姿勢が作れるからだ。逆にプルブイを挟まないと束縛が解けて、脚が自由になり、無意識のうちに脚を動かしてしまう。効率の悪いキックを打ったり、大きく脚を開いてバランスを取ったりすれば、当然、脚の動きが進むときの抵抗になってしまう。せっかく体幹を使ったストロークで推進力をつけても、脚を開いてブレーキをかけているのでは効率のよい泳ぎとは言えない。

クロールの推進力は、ストロークが70%でキックが30%だと言われている。ストロークとキックがスムーズに融合すれば、効率のよい100%の推進力になるが、キックが邪魔をするようだと、ストロークの推進力もマイナスされてしまう。キックが苦手であっても避けて通れないクロールの基本技術なので、正しいキックの打ち方を習得して、キックを推進力の補助エンジンとして、姿勢制御用エンジンとして、効率よく活用できるように練習するとよい。

効率のよいキックをイメージするためにいくつかの映像を撮影した。協力してくれたスイマーは子供のころから永瀬コーチの指導を受けてきた丸目くん。現役を離れた現在でも50mを25秒台で泳ぐ小柄なスプリンターである。

  1. 板キック、同(スロー)
    ダウンキックでは、太もも→ひざ→足首と順番に力が伝わっていくことがわかる。これがよく言う「むちのように打つキック」である。ひざを伸ばして打ち終わり、すぐにアップキックで打ち始めの位置に戻している。
  2. 6ビート・キック、同(スロー)
    ノーマルな6ビートのクロール。スイッチするごとにスケーティング姿勢(クロールのストリームライン)を作り、体のローリングに合わせて、キックも斜めに打っている。板キックよりもスケーティング姿勢でのキック練習を薦める理由がここにある。
  3. ローリング+キック、同(スロー)
    6ビートのクロールを背後から見ると、ローリングに合わせて、斜めに打っているキックの軌跡がよくわかる。
  4. 2ビートキック
    キックで踏ん張りながら体幹を使って、エントリーの腕を加速している。スケーティング姿勢ではすぐにキックした脚をそろえ、滑るときの抵抗にならないようにしている。

キックの練習だからといって、板キックばかりを繰り返すのは消耗するだけである。ドリル練習の中に効率よく取り込むとよい。例えば、アンダースイッチ後のスケーティング姿勢でキックを打つなど、体幹を使った推進力の練習にタイミングよくキックの推進力を重ねれば、一石二鳥の練習になる。

【編集後記】カンタンクロールのワークショップでは、時間を取ってキックだけの練習はしません。キックよりも先に「姿勢・バランス・体幹」をマスターすることで、キックなしでもTIの泳ぎができるようになるからです。だからと言って、TIではキックが必要ないと言うことではないと思います。自由自在にコントロールされた効率のよいキックが打てるようになれば、泳ぎがさらにレベルアップすることは間違いありません。竹内代表が「効率のよいキック」を解説する映像がYouTubeに登録されているので、こちらもキックの打ち方を習得する上でたいへん参考になります。ぜひご参照下さい。(TIコーチ・中井博行)

「効率のよいキック」→http://www.youtube.com/watch?v=cqQB6JgVNc4
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