2010年5月10日
佐々木美樹
佐々木美樹さんが初挑戦のトライアスロンで、シチズン部門(一般)の女子総合3位に入賞する快挙を成し遂げました。昨年3月の「スイムEKIDEN」で初めての100mを好タイム(2009年12月号TSM参照)で泳いでから1年足らず。大きくレベルアップした佐々木美樹さんに初トライアスロンの感動を伝えてもらいました。
▽序章
思えばそれは去年10月のTI宮古島キャンプから始まった。初心者を対象にしたトライアスロンキャンプ。トライアスリートは私にとって別世界の人間でまさに鉄人。なにを好き好んで苦しいことばかり、3つも続けてやれるのだろうと思っていた。
TI歴1年10か月。ようやく泳ぐことは得意と言えるようになってきたが、走ることは超苦手。自転車も楽なようでとてもきつい。あこがれだけど、別世界のトライアスロン。それが初心者向けのキャンプで体験できるなら一度はやってみてもいいと思ったが、ずっと続けるつもりはまだなかった。 
女子総合3位のトロフィーと完走証

宮古島キャンプの最終日。スイム500m、バイク15Km、ラン3Kmのミニトライアスロンレースで締めくくった。海でウェットスーツを着てのスイム、アップダウンの多い道でのバイク練習、苦手なラン練習。慣れないトレーニングの繰り返しでクタクタ。本当にこれからミニといえどもレースやるなんて信じられないという状態の中、模擬レースにトライ。実際にやってみたらやはりきつかった!

特にバイクのあとのランは体が鉛のように重くつらかったが、終わったあとの達成感は最高だった。仲間との打ち上げも、このときのためにトライアスロンがあるっていうほど楽しい。キャンプ後、しばらくしてからコーチに「私、トライアスロンやることにしました!」と宣言。みんなで石垣島のレースにデビューしようという流れになった。 

 

▽目標に向かうトレーニングの日々
毎年、宮古島トライアスロンで好成績を残しているトライアスロンのエキスパート、吉野コーチに相談。それからは日々の水泳練習に加えて、ランとバイクを練習する日々がスタート。一番苦手なランを強化するため、1月のハーフマラソンに出場することをトレーニングの通過目標に設定した。まずは走ることに慣れるため、週に3回程度、ゆっくりでいいから30分くらい走るように言われた。テンポトレーナーを0.33にセット、キャップの中に入れて音に合わせてちょこまかと小さな歩幅で走る。バイクのあとは足が棒のようになり、上がらないのでこういう走り方が向いているのだという。一定のペースを保ちつつ、だんだん長く走れるようになり、人生初のハーフは2時間6分程度で完走できた。飛ばさなかったおかげか、余力を残して約21Km走ることができ、少し自信を得た。

バイクはなかなか実走する機会のないのが悩みの種。室内のスピニングで筋肉を作り、外で実走練習する機会をできるだけ作った。バイクのあと、すぐにランに移るデュアスロンも実戦向けの大事な練習。最初にデュアスロンの練習をした時はあまりにも疲労が激しく、翌日から丸2日間、まったくなんのトレーニングもできなかった。トライアスロンの練習だけでこんなに使いものにならなくなるなんて、私には向いてないんじゃないかと落ち込んだが、体がだんだん慣れてくるにつれて練習もこなせるようになってきた。

スイムはウェットスーツを着て泳ぐのがどうも苦手。普通は浮いて速くなるはずのウェット着用だが、その実感もなく泳ぎにくい意識だけが先に立つ。ウェットスーツに慣れるため、吉野コーチのマスターズの時間はウェット着用で参加。何度も練習していく中で、実際にタイムが速くなることもわかり、泳ぐのにも慣れて、不安が解消されてきた。海でのレースを想定したペース配分スイム、1コースの中で3人がひしめき合って泳ぐバトル練習、前の人にくっついて泳ぐドラフティング練習など、実戦練習で仲間とともに初レースに向けた気持ちも盛り上がっていった。 

 

漁港内のスイムコース

▽そして石垣島へ
レース2日前に石垣島入り。レース前日は南の島とは思えない肌寒い小雨まじりの天気。コーチにバイクのポジション等を調整してもらい、軽くバイク試走、30分程度のランニング、実際のレースのコースになる湾内で試泳。3種目とも軽めにこなすと楽しくて気持ちいい。こんな気分で本番のレースも楽しくできればいいのだけど…。そして迎えたレース当日。やるだけのことはやったので練習に関しての悔いはない。スイム1.5Km、バイク40Km、ラン10Kmのオリンピック・ディスタンスでトライアスロン初参戦。なんのアクシデントもなく、この瞬間を迎えられたことがたまらなく嬉しい。

 

▽スイム
約140人ずつ、数分置きにスタートしていくウェーブスタート。朝8時ちょうどにホラ貝のようなホーンの音で第1ウェーブがスタートを切った。選手たちは一斉に海に走り、イルカ跳びで飛び込み、泳いでいく。みんな速い!
うわさに聞いたスタート後のバトル

私は8時20分スタートの第7ウェーブ。仲間と話しながら待っているうちにスタートの時間が迫ってきた。海のレースはスタートバトルをいかに乗り切るかが重要になる。コーチにはスタート位置の横幅の真ん中辺り、前から2列目でスタンバイ、先頭集団の流れに乗って最初のブイまで泳ぎきるという作戦を授けられていたのだが、なんとなく4列目になってしまった。やはりスタートダッシュですでに気後れし、バトルに巻き込まれ、先頭集団に入ることができなかった。 

前に人が詰まっていて自分のペースではとても泳げない。後ろから足をつかんで引っ張られたり、殴られたり。「ああ、これがうわさに聞くバトル」に巻き込まれ、最初のブイを回ってもスピードを上げることができず、平泳ぎでしのぐ場面も多かった。試泳のときに目印になるものを決めておいたので、サイティングをしながらできるだけ効率のいいコースを泳ぐように心がけた。周りの人が少しばらけてきたところで、いつものTIスイムを取り戻してスピードを上げる。1周750mのコースを2周するのだが、1週目より2周目のほうがずっと速く泳げた気がする。最後のブイを回った時は「ああ、もうこのきれいな海で泳ぐのもおしまい?」となごり惜しい気持ちにすらなった。最後の直線はダッシュしてスイム終了。 

 

スイムのゴールからバイクへ

▽バイク
スイムが終わっても息はそれほど上がってない。疲れも感じてない。コーチが私を見つけて声をかけてくれたのに手を振って応え、トランジションエリアまでウェットスーツを脱ぎながら走る!トランジットではある程度は急ぐものの、忘れ物をしないように落ち着けと自分に言い聞かせながら、準備しておいた順番にヘルメット等を身につけ、バイクをラックから外した。言われたとおりにハンドルではなくサドルを持って乗車ラインまで走る。サドルを持った方が速いのだという。

バイクにまたがりこぎ出す。最初はわりと平坦な道が続く。平地はギアをアウターに入れてぐいぐい行けとコーチに言われたとおり、最初からセーブすることなくアウターとトップにギアを入れて飛ばす。上り坂が苦手なのだからここで頑張らないと、という思いだった。あまり心拍数の上がらない私がここでもう155。でも不思議と苦しくない。足も軽い。みんな意外にのんびりとこいでいるように見え、私を追い越すのは「いかにも」という出で立ちのアスリートだけだった。石垣の海は青く澄み、美しい景色の名倉大橋を渡る時は、元気でこのレースに臨めていることが幸せで嬉しくて涙が出そうだった。急カーブを曲がり、山の上り坂に入るところでかすかに空腹を感じた。お腹が空いてからでは間に合わないと聞いていたので、ゼッケンベルトに挟んでおいた補給食のゼリーを食べ、エネルギー満タン。コースを車で下見した時はもっと坂がきついように感じていたが、思ったよりも坂は大したことがなかった。2時間はかかると思っていたバイクコース。意外に早く帰ってきて「もう終わり?」と思うくらいだった。 

 

▽ラン
さあ、最後のランだ。どのくらい足が動くか。走り始めたら、かかとにクッションが入っているみたいに足が弾む。レース直前に少し軽いシューズに変えてインソールを入れたせいだろうか。これはいけそうな気がすると思ったが、道路に出たらさすがに足全体が前に出ない重たさを感じる。最初は重くて当たり前、ここで焦らず小さい歩幅でちょこちょこ走る。ランは特に苦しいけど、コーチによれば「たった40分我慢すりゃいい」のだという。私なら多分55分かかるから55分我慢すれば済む。「たった55分だ。頑張れ!」と自分を励ました。

へばってお腹が落ちてきた時は、ぐっと空を仰ぐように首を後ろに倒してからあごを引くとお腹にクッと力が入る。教わったとおりに姿勢を修正しながら走った。途中、とても速いランナー何人かに追い抜かれる。彼らの走りを見ると腕の力が抜けていてぐにゃぐにゃしているように見える。脱力しながら足がよく前に出ている。速いランナーの動きをまねると少しスピードが出た。

最後に男性を1人抜いてゴール!

5Kmを超えると体がほぐれて前より動くようになってきた。沿道の応援が本当に温かく、いっぱい元気をもらって、自分に負けるなと言い聞かせながら走った。ラスト1Km、ゴール近くになって沿道は応援の人でぎっしり。その中に吉野コーチの姿があった。私に何か叫びながら、今までに見たことのない大きなアクションでゴール方向を指した。

「行け!」コーチ渾身のGO!サインにカチッともう一段スイッチが入った。ここからもっと行かなきゃ。行けばきっと何かがある。よくこれだけ走れたというくらいピッチを上げた。沿道から「いい走り!」と声がかかって励まされる。もうかなり疲れているように見えるランナーを何人も抜いた。喉がヒューヒュー鳴って苦しさ最高潮。「ゴールで倒れるほど力を出し切りたい」とコーチは言っていた。私も倒れるまで走る。最後に男性を1人抜いてゴール。コーチに2時間51分位のタイムだよと言われて耳を疑う。目標にすらしていなかった3時間切りを達成して、コーチや仲間と喜びあった。

 

表彰台で吉野コーチと

▽終章
ゴール後はプロトライアスリートによるワールドカップを観戦。そのあとに完走証を取りに行くと、なんと驚いたことに女子総合3位に入賞していた。予想もしていなかった好成績にコーチもびっくり。自分には関係ないと思っていたので、ゴール直後の表彰式に出損なってしまったのは残念だったが、本部のスタッフが私一人だけの簡単な表彰式をしてくれた。練習頑張ってよかった。トライアスロン最高〜。感動で涙が止まらなかった。

シチズンの部の完走者562人中(うち女子69人)、2時間51分04秒で総合成績は113位。スイム27分41秒(36位)、バイク1時間30分14秒(158位)、ラン53分09秒(169位)。 

トライアスロンは、要する時間から距離の長いバイクが得意な人に有利とも言われるがやはり3種目ともバランスよくできる人が最後は勝つ。これからはロングのレースも視野に入れ、よき仲間、コーチとともに練習に励んでいきたい。

【編集後記】佐々木美樹さんの感動体験とレースの臨場感が伝わる初トライアスロン参戦レポートを紹介しました。毎日の練習を積み重ねてきた努力が目標の石垣島トライアロンで大きな花を咲かせました。素晴らしきトライアスリートの誕生です。佐々木美樹さん、おめでとう!(TIコーチ・中井博行)
 ©Easy Swimming Corporation