2ビートキックでは、入水する手に合わせてキックをするのが基本です。最近の米国TIのユーザーフォーラムで、このタイミングについて様々なコメントが寄せられていたので、キックのやり方によるタイミングの合わせ方についてまとめてみます。
●キックと手の入水のタイミング

2ビートキックのタイミングは手の入水で決めるのがTIスイムの基本です。6ビートキックと異なり2ビートキックはキック自体の推進力よりも、体幹の回転をスムーズに行えるようにサポートすることが主な役割です。体幹の回転は手を伸ばす動作と同時に行われる(意識としては腰の回転に続いて手が伸びます)ので、キックのタイミングはそれよりも前、手が入水するときになります。

1)蹴り始め
抵抗を減らすためにまっすぐに伸びていた左足は、右手が入水すると同時にひざを落としてキックに備えます。肘が高い状態のまま「落下」した手は入水後に進行方向に向きを変えていきます。この短い間、時間としては0.1秒ひざを落とし、そのまま素早く脚をまっすぐに戻してスナップします。
2)スナップ終了
ひざを落とした状態からスナップして足がまっすぐになります。この時間は0.17秒です。この時間を短くするために足首を完全に脱力させます。左の写真で足の甲がしなっているのがわかります。
またスナップが終わった段階で腰が30度程度右に回転していることがわかります。これはスナップをてこにして体幹の回転が始まっていることを意味します。入水した手の方向はここで斜め下から完全に進行方向に変わります。
3)体幹の回転から推進力へ
スナップによって得られた腰の回転は、背中を伝わりながら「ひねりの力」として成長します。このひねりの力を伸ばす手に加えることで、さらに手を前方に加速して伸ばすことができます。
抵抗の少ない姿勢で、重心を前に移動しながら上記の動作を行うことで、瞬間的な加速がスピードとして持続する「滑る泳ぎ」となります。

私(竹内)の2ビートキックの場合、蹴り始めからスナップの終わりまで0.3秒足らずの非常に短い時間で完了します。また体幹の回転も同じように0.3秒で終わり、その後はスケーティングの姿勢を維持してグライドします(後ろにある手は止まることなく動いています)。上のケースではテンポ1.2秒で泳いでいるので、およそ半分の時間はグライドに費やしています。これをサンフランシスコのエリック・デ・サントスTIコーチは「スナップ&グライド」型クロールと呼んでいます。

キックのタイミングといっても、蹴り始めからスナップまでの時間(上記では0.3秒)があるため、どこで入水動作の何と合わせるかが重要になります。私の場合手首が水面下に入ったときにスナップできるように、手の指先が水面についた段階でキックの準備を始めます。従ってタイミングを合わせる意識としては「入水の直前」、キックの動作が行われている実際のタイミングは「入水した手が斜め下方向に動いている間」ということになります。

●「手が入水するとき」でタイミングが合わないとき

しかし一方では、米国TIのフォーラムにおいてこのタイミングでは体幹の回転とキックが連動しない、というコメントも寄せられていました。このような場合、「体幹の回転が終わると同時にキックの蹴りおろす方が進む感じがする」という声が多いのが特徴です。

そこでサントスTIコーチは、この違いについてキックの蹴り幅が大きく関係しているのではないかと考えました。キックの蹴り幅が大きいと、入水前に蹴り始めたとしてもキックが腰の回転や体幹のひねりに伝わるまでに時間がかかるため、手を伸ばす動作とつながらない可能性があります。この場合はむしろ回転の終わりと蹴りおろしを同期させることで、キックを体幹の回転につなげる方が感覚としてわかりやすいというのが彼の考えです。従って蹴り幅が大きく体幹の回転が終わる前に蹴りおろしが終わらない場合には、このタイミングで2ビートを行うことを彼は勧めています。

このようなタイミングのクロールは、キックの動作が体幹の回転と同じように連続的に続くので、「コンティニュアス(連続的な)」クロールと呼ばれます。前述のスナップ&グライドはメリハリがあるのできれいに見えますが、減速と加速の差が大きいとエネルギーを消耗します。一方コンティニュアスクロールは蹴り幅を大きくすれば体幹の回転も大きくなるのでスピードのコントロールが容易ですが、グライドの時間をできるだけ多く確保しないと、ストローク数が増えて疲れます。

このようにそれぞれのタイプにおいてメリット、デメリットがあるので、目的に合わせて泳ぎ方を変える、つまり2ビートのタイミングを変えることがカイゼン・スイマーには求められます。基本的にはゆっくり泳ぐときにはスナップ&グライド型、従って入水前に蹴りおろすタイミングで、また速く泳ぐときには体幹の回転の小さいコンティニュアス型、従って小さい幅の蹴りおろしと小さい体の回転を合わせるタイミングでキックします。

●速く泳ぐとき

速く泳ぐときには、ゆっくり泳ぐときの効率をできるだけ維持したままテンポを上げることが大切です。下はテンポ0.9秒、上よりも25%テンポを上げて泳いだときのキックと手の入水の関係です。違いについて説明しましょう。

1)蹴り始め
手首が入水する直前に膝を落としています。速く泳ぐために足の力も推進力として必要としていることから、膝の落とし方も大きくなっています。
2)スナップ終了
ひざを落とした状態からスナップして足がまっすぐになる時間は0.2秒でより大きく蹴っています。スナップした足と入水した手の関係は、テンポ1.2秒のときとほとんど変わりません。
アンカーをかけた手が15cm程度後方に移動している程度の違いです。
3)体幹の回転から推進力へ
次の動作を素早く行うために、テンポ1.2秒のときと比べて体幹の回転角が浅いことがわかります。
後ろにある手が腰の前に残っていますが、これはフィニッシュ(水面に手を出す)の位置を意識的に手前にすることで、ストロークの時間を短縮することを目的としています。

 

このようにキックのタイミングを変え、回転角を抑えることで、キックから体幹の回転の終了までの時間は0.4秒と0.2秒短縮しています。テンポは0.3秒早くなっていますが、このうち0.2秒をキックから体幹の回転で吸収しているため、グライドの時間の短縮分は0.1秒に抑えられています。このようにテンポが速い泳ぎでは、グライド以外の時間を短縮して、いかにグライドの時間を残すかが重要です。

上記のスイムビデオはテンポコントロールを目的としたレッスンDVDに収録される予定です。ご期待ください。

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