このレポートは、USAスイミング・ナショナルのチームを常に勝利に導き、洗練されたテクニックとトレーニング分析で知られるジョンティー・スキナー氏の定期シリーズの第一回目です。ジョンティー氏の記事は、エリートスイマーたちが、われわれ一般人も直面する問題や困難をどのように解決するかについて詳しく説明しています。USAスイミングがこれらの記事を公開することを許可して下さった事に深く敬意を表したいと思います。
カリン・ケラーは、精力的なUSAナショナル・チームのスイマーです。彼女は1999年にパンナム・ゲームズ・チームの一員になって、2001年にはグッドウィル・ゲームズの800メートル・クロールで優勝を果たしました。2002年でつまずくまでは、更なる飛躍を期待されていました。モスクワで行われたワールド・ショートコース・チャンピオンシップでの出場資格を得たものの、各レースの後半で苦戦し彼女自身も結果を出せずに悶々としていました。

風景を変えトレーニング環境を変えることで軌道修正できることを願いながら、彼女はロサンジェルスに引っ越して、USC(南カリフォルニア大学)のヘッドコーチ(現在はUSAナショナル・チームのヘッドコーチ)であるマーク・シューベルト氏の下でトレーニングを始めました。最初の数週間は、新しいチームメートと練習で競い合わなくてはいけないのは言うまでもなく、シューベルト氏のさらに大変なワークアウトの数々を何とかこなすのがやっとでした。しかし、エリートのアスリートの多くがそうであるように、カリンは、ただ歯軋りするのではなく、より効果的に泳ぐことで順応していきました。

特に、カリンは、あまりパワフルでないばかりか体力を消耗してしまう、腕で水を掻いて前進するやり方から、水中で「その場にとどまる」間、腰の回転を使ってアンカーをかけた手を体が通過するというストロークに変えました。更なるパワーと効率のコンビによって、その夏3つの全国タイトルを獲得するまでの道を開きました。こうして私は、彼女が2004年のオリンピック・チームの一員になるに相応しい技術を身につけたことを確信しました。

以下の写真は、カリンの2002年のストローク(各2枚組の写真の左)と右が2004年のストロークです。2002年のストロークの写真を見ると、腕のストロークがずっとまっすぐになっており、遅すぎるうえ殆ど偶然に腰の回転がなされているために推進力をほぼ全面的に腕の力に頼らざるを得なくなっています。2004年の写真では、ストローク全体を通じて腰の回転によって推進を得ているので肘と腕のポジションがずっと高くなっているのがわかります。一連の写真は、左側で息継ぎをする間の右腕のストロークを表しています。

2002年の写真では、息継ぎをするためにすでに頭を上げ始めているのでカリンの背骨が曲がっているのがわかります。彼女が右手にアンカーをかけながら腰が殆ど回転していないのが、腰に引かれた黄色の線によって強調されています。
2004年の写真では、頭の位置がずっと低いので背骨のラインはよりまっすぐになっています。腰は十分に回転しており、腰の左側を下に向けて回転して推進力を生み出そうとしています。

2002年の写真では、カリンの腕はまだ殆どまっすぐで腰に動きはなく頭もラインからはみ出しています。つまり、肩と腕だけをてこの力にしている状態です。それと同時に僅かな力のいくらかは、持ち上げた頭の重さを支えることに流用されてしまっています。そして最後に推進力の可能性を秘めたものの大半が、彼女の背骨と頭のラインに沿って、前進するよりはむしろ上に持ち上げられています。要するに、その年何故彼女が大会ですぐに疲れてしまいペースを崩してしまったのかをここに見ている訳です。
2004年の写真では、カリンの左腕が水中を矢で突くように入水する間、高い肘はアンカーをかけた手で水をつかんで左の腰を下に回転させるために完璧な位置にあります。実質的に、カリンは右腕を使って体を前に引っ張るのではなく、「体全体を使って」泳いでいます。重力、体重、そして体のほぼすべての筋肉から力を引き出すこの動きのエネルギー効率は、2002年の腕を主に使ったテクニックに比べると劇的です。また、頭が体のラインに沿ってまっすぐなので、彼女の生み出す力はすべて前方に向けられています。

2002年の写真では、カリンの腰は最初の位置から殆ど変わっておらず、彼女はまだ「小さな」腕の筋肉に全面的に頼っていることになります。さらに悪いことに、彼女の肘は「下がってしまったり滑ってしまったり」していて、頭は今ようやく背骨のラインに戻っています。
2004年の写真では、彼女の腰はすでに回転の途中にあり、右前腕は最大限に牽引するのに理想的な位置にあります。頭は背骨に沿ってまっすぐ位置しており、左側のストリームラインのポジションに回転することで右腕の推進力を利用するのに有利になっています。

2002年の写真ではカリンの頭がようやく体のラインに沿って、残された僅かな推進力によって遅ればせながらも体を前進させています。これはカリンのストロークで初めて体と推進する腕が繋がったように見えた写真です。
2004年の写真では、カリンはすでにそのストロークの「仕事」段階を終えた状態で、腕をリラックスさせ水から出すところです。

2002年の写真では、ようやく水平な状態から多少回転しており、すでに時遅しなのですが右腕はまだ水を掻いています。おそらく右腕のストロークが殆ど推進力を生み出さなかったためなのですが、左腕はすでにアンカーをかけ始めています。
2004年の写真では、カリンの左腕はまだまっすぐで、右腕のストロークによって生み出されたかなりの勢いに「乗っている」状態です。これによって効果的な肘の高い左腕のポジションを確立するための十分な時間をとりながら、次なる効率のよいストロークへ移行できるのです。正確で一定したこの様なストロークで多大な時間を泳ぐことによって、ナショナル・タイトルあるいはオリンピック・メダルが築かれるのです。二人の別のアスリートたちにテクニックの違いを発見することは珍しくありません。

どんなスイマーでもより効率的なストロークを習得することによって泳ぎ全体がかなり改善されることを証明している点において、カリンのストロークの進化がレッスンとして我々にとっても価値あるものだと言えます。ナショナル・タイトルやオリンピック選手としての可能性を危ぶまれたカリンのようなスイマーが、こんな限られた時間で大幅なテクニックの改造という「危険を冒した」のだとしたら、あなたにも出来ないことはないでしょう。

ジョンティー・スキナーは、USAスイミング・ナショナルチームのパフォーマンス科学ディレクターです。スイマーとして彼は、1976年に100メートル・クロールで世界新記録を出し、一時は「世界で一番速い男」という厳しくも名誉あるタイトルをつけられました。彼は現在コロラドスプリングに婚約者のカロラインと子供たちのクレオン(11)とシドニー(9)と一緒に住んでいます。彼は、この記事のために貢献したビル・ブーマー氏とカリン・ケラー氏に対し、感謝の意を表しています。
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