エンジニアにとっては、スケーティングやジッパースケートやオーバースイッチなどのドリルは体のポジションの物理実験です。TIスイマーになってからは、あれこれ考えるよりもむしろ、頭と腕のポジションの細かい調整に集中する方が、バランス改善に結びつくことに気が付きました。このように私たちは泳ぎを改善する能力を持っているのですが、1つにはアルキメデスという名の人物、そして彼が古代ギリシャ時代に発見した原理のお陰なのです。
まずはいくつかの用語について説明することから始めましょう。
- まず、質量と重さは同じものではありません。質量は地球引力に全く左右されません。言い換えると、地球で80kgの質量は、月でも、あるいはプールでも80kgです。しかし、私の重さは引力によって様々に変化します。重さは、物体を引き下げようと働く力で、重力に応じた質量×加速度と同じです。海面でのそれはおよそ9.8m/s2です。従って、海面での私の重さは、784ニュートン(N)(80 kg x 9.8m/s2)です。重さは力であるとだけ覚えておいて下さい。
- 次に、密度は質量と体積の比率です。プールの水はおよそ1000kg/㎥の密度があります。言い換えれば、1立方メートルのプールの水(約264ガロン)は、1000kgの密度を持つことになります。(海水はおよそ3%密度が濃いのでプールの水よりも海水での方が浮きやすいのです。)ちなみに空気(空気も質量があります)の密度は1.3kg/㎥です。しかし、人間はちょっと複雑です。というのも人体は、筋肉、脂肪、骨、空気、そして血液といった様々な材料で出来上がっているからです。これらの違いを我々の利点として使うことを学ぶのが水泳上達の鍵です。
アルキメデスは、浮力(物体を浮かせようと働く力)は、水中で物体が押し出した「かさ」の重さと全く等しい事を発見しました。物体が浮くためには、同じかさの重さ分水を置き換えなければなりません。従って、とても重い物体は軽い物体よりも多く水を置き換えなくてはいけなくなります。
例えば、私は784N(80kg×9.8m/s2)ですが、私の体重(地面に向かって引っ張っている力)は、プールの底に向かって私を沈めようとします。浮くためには784N分持ち上げる浮力が必要です。水の密度が1000kg/㎥なので、水の重さは9800N/㎥(1000kg/㎥×9.8m/s2=9800N/㎥)です。では浮くためには一体どれだけの水を置き換える必要があるのでしょうか。784Nを9800N/㎥で割ると、答えは0.08㎥また80リットルです。もし水79リットルしか置き換えられないのであれば、あと1リットル分体を水に入れないと沈んでしまうことになります。
息継ぎによって、私たちの質量のわずかな増加と共に体積が増大します。空気の重さは水の約800分の1なので、その質量はほとんど意味を成しません。しかし胸腔が拡大されて外皮が引き伸ばされ、私たちの体積が増えることで違いが生じます。
●ジッパースケートで沈む理由
またジッパースケートで腕を前方に持っていく時に体が沈む人がいるのは何故でしょう。伸ばした手を3時から4時のポジションに下げたスケーティングのポジションで前進する時、もう一方の手は胴の上に乗って体の横にあります。(体の構成密度が高い)浮力の少ないスイマーは、水中でのサポートがないために、ジッパースケートで腕を前方に伸ばす時に体が沈んでしまうのです。もう少し水につかる「かさ」が増すまで(おそらく肘がかすかに水面から出ている状態になるまで)体は沈みます。水面から出ている体の部分は水を押し出していないので、重さ(すなわち底に向かって引っ張る力)を左右するだけで、水面に向かって体を持ち上げる浮力には関係ないことを思い出して下さい。
水面から腕を持ち上げた時点で、体が水中につかる部分が減るので、押し出す水の「かさ」も減ります。体重は同じで、浮力は減るわけですから、腕と同じ分の水を押し出すまで体は沈むという訳です。腕の体積が浮力に強く影響するという事実は、私たちの体の密度が水にいかに近いかを例証しています。体密度は水密度の3分の2以上であるのも頷けます。
これに反して、体の浮きやすい(すなわち体の構成密度が低い)スイマーはスケーティングのポジションで体の横で手を休める時に腕全体を水面から出している場合が多いのです。彼らにとって、肘を持ち上げてスケーティングのポジションになっても、押し出しす水の「かさ」すなわち浮力にあまり変化がありません。幸いにして、より体密度の高いスイマーも低いスイマーも、肩に沿って前方に腕を持って行く一連の動作で重心を前に動かすことによって、非常に密度の高いお尻と足を持ち上げて、バランスを向上させることができます。
●沈みがちなときは
体密度によって「沈みやすい」カテゴリーに属するスイマーは、まずは集中したドリル練習がとても大切です。もしジッパースケートで腕を持ち上げるだけで体が水底に引き込まれるようであれば、腕をできるだけ速やかに水中に戻す方法を学んだ方が、だらだらとセット練習をするよりもはるかに効果があります。腕が水面に上がっている時間が短ければ短いほど水につかる「かさ」の影響で浮力が改善されます。そして、より水面に頭が「隠れる」ようにすれば、同様に水中の頭の体積が増えることになるのです。という訳で、ジッパースケートとオーバースイッチのドリル練習、また普通に泳ぐ時に「イアーホップス」を練習して下さい。そして「最初のTIコーチ」であるアルキメデスに感謝することをお忘れなく。
ピート・アッティアは、外科医に転身する前はエンジニアでした。双方とも「私たちの体と外の世界(そして水)との係わり合いについて強い探究心を抱かせる」と彼は言います。ピートは現在メリーランド州ベテスダのナショナル・インスティテュート・オブ・ヘルスで2年間の研究プロジェクトに携わっています。そして特にオープンウォーター・スイミングでの泳ぎの改善にフォーカスするために特別に時間を割いています。現在の目標は、南カリフォルニアのカタリーナ海峡21マイル(34km)横断泳です。 |
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