トライアスロンやマスターズのコーチやアスリート達は、練習と休憩の比率、心拍数、そしてがむしゃらに手足を掻くことがより速く泳ぐための秘訣だという概念に執着します。しかし水泳における成功例を分析した結果、成功を収めたスイマーを識別するのに適した指標はストロークの長さやストローク数であることがわかりました。今回は水泳に大切な数字としてこのストローク数について説明します。

数ヶ月前マスターズの練習で、長距離のセットを泳いでいました。:9×300ヤード(270m)のクロールのリピートで、3×300ごとに短い休憩を入れるものです。休憩中に隣のコースで二人のトライアスリートが話すのを耳にしました。1人が「ストローク数を減らそうとしてたんだけど、でもそうすると遅くなるからやっぱり諦めた。」と言いました。次の300でもう1人(私より背も高く25キロはスリムな体型)が、21spl(ラップごとのストローク数)で泳ぐのを見ました。状況はどうであれ身長6フィート(180cm)ちょっとで21ストロークで泳ぐのは、坂を下りながらローギアでがむしゃらにペダルを踏むのとなんら変わりがありません。ちなみに私の平均ストローク数は13です。

その後更衣室で彼らは、世界的に高名なトライアスロン・コーチからメールで受け取ったばかりのトレーニングのプランについて学習していました。バイクのワークアウトは、距離、心拍数そしてケイデンス(ペダル回転数)のミックスといった重要な内容を含むものでした。しかしスイムのワークアウトに関しては、「レベル2エアロビック」や「T-30ペース」など、かっこいい指標を使ってはいましたが、知的で効果的なトレーニングにとって不可欠な尺度であるストローク数については全く記載がありませんでした。距離、インターバル、またはペースのみを指示する水泳プログラムは、距離だけを示すバイクやランのワークアウト同様に不完全です。

●なぜストローク数は重要なのか

地域の大会からオリンピックの決勝に至るまで、水泳における成功例が分析調査されてきました。その結果より成功を収めたスイマーを識別するのに適した指標はストロークの長さやストローク数であることがわかりました。一方最大酸素摂取量と水泳のスピード間ではっきりとした関連性がこれまでに見つからないのにもかかわらず(むしろ筋力とスピードのマイナスの相関関係が指摘されている中)コーチ陣とアスリート達は、練習と休憩の比率、心拍数、そしてがむしゃらに手足を掻くことがより速く泳ぐための秘訣だという概念に執着します。

それはなぜでしょうか。主な理由としては、身に付いた習慣を変えることが困難であることと、1930年代から60年代に発展した水泳メソッドが今日なお一般的に実践されていることが挙げられます。しかし最近では泳ぎの効率が重要な鍵であることも立証されてきています。ストロークを数えるのを習慣化することで賢く練習をするという選択もできるのです。

●「正しい」ストローク数とは

実は正しいストローク数というのは存在しません。身長155cmの女性は185cmの男性よりもストローク数は多くなります。また185cmの男性は大抵プールを1回泳ぐ時よりも4回泳ぐ時、或いは50mを40秒より35秒で泳ぐ時の方がsplが多くなります。スイマーは各自、必ずストローク数に幅があり(25ヤードプールでの私のストローク数域は11splから15splです)数字は時間を経て徐々に改善します。

常にストロークを数えることは、少なくとも価値ある判断基準になります。セット練習で50を泳ぐとき、或いは50を200にした時に、もしストローク数が14から18に跳ね上がった場合それがベストのアプローチ法であったのかを判断したり、或いは次回からもっと効率よくセット練習を泳ぐ目標を立てるようになります。ストローク数を自動的に数えながらラップを泳ぐだけでもより認識が高まり、目的意識を持つようになるので「スイム・ゾーン・トレーニング」よりもはるかにそして確実に泳ぎが改善されます。ストロークを数えないで泳ぐと目的がなくなり泳ぎが停滞してしまうことになるのです。

●ストローク数は少なければ少ないほどよいのか

TIのワークショップで時々熱心にストローク数を減らそうとする生徒さんを目にします。その生徒さんが土曜日の朝のビデオテープ撮りの際に、たとえば10ストロークで泳いだとしましょう。コーチはビデオを見直して、ストローク数10で泳いだラップがリズミカルでなくキックをし過ぎていることから、ストローク数を13ぐらいにして泳いだ方がいいとアドバイスします。最少のsplではなく最適なsplを見つけるのが目的です。最少のsplで泳ぐ時は、キックをし過ぎることなく常に流れるようでラクで、そして静かでなくてはいけません。

ストローク数を数える真の目的はエネルギー消費を最小限にすることで、ストローク数を最小限に減らすことではありません。またストローク数は徐々に減少すべきものです。30年前、懸命なスピード重視のトレーニングを何よりも優先していた頃、50メートルプールでの最少ストローク数は60でした。20年前はそれが40splになり、その10年後には32にまで減りました。今日、52歳でそれは25に落ち着いています。逆に、仮に去年25ヤードを25ストロークで泳いでいたとすると、今年それを13に減らそうと試みるのは無理がある上に急ぎ過ぎています。それよりも、よりラクで流れるように、そして余り音や水しぶきが上がらないようにすることを第一目標にしましょう。そうすることで効率の改善(すなわちストローク数の減少)はごく自然について来るのです。

●ストローク数を減らしてスピードが落ちてしまったら

少なくとも最初はストローク数を減らすことでスピードも多少落ちますが、特に悪いことではありません。より速く泳ぐことばかりに固執するのは非常に単純すぎます。大多数のトライアスロン選手は低い心拍数でのトレーニングの価値を認め、効率よく酸素を使うように循環器機能を鍛えるために、たとえば130bpm(1分間の心拍数)に心拍数モニターをセットして何マイルも走ります。そして135bpmにまで心拍数モニターをリセットする前に徐々に速度を上げていきます。

ストローク数を少なくして泳ぐのも全く同様の意味があります。運動神経筋システムを発達させ、速く泳ぐ時でも少ない心拍数で泳ぐことができるようになります。5年前は100ヤード以上になると12splを保って泳ぐことができませんでした;今は最高1000ヤードまで12splで泳げます。5年前の私の平均的100ヤードのペースは13spl(合計52ストローク)でおよそ1分24秒でした。現在同じスピードを11spl或いは合計44ストロークで泳ぎますが、これは1分24秒のペースでの心拍数は5年前よりも下がったことを意味します。5歳年取ったにもかかわらず、です。

つまり加齢と共に衰えるはずの体内酸素消費量を増大させる効率を、運動神経筋の効率を上げることで相殺しているのですが、それはオープンウォーターでのパフォーマンスにとても大きく影響します。プールでの100ヤードのタイムは年を重ねるごとに多少落ちていますが、オープンウォーターでのマイルでは40代の頃と同じ速さで泳げますし現在でも20も30も歳の離れたかなりのレベルのスイマー達とも太刀打ちできます。こうして28.5マイルのマンハッタン島マラソンスイムでは、他者の平均的ストローク数がおよそ3万9千だったところを約2万6千ストロークで泳ぐことを可能にしました。

●速く泳ぐにはどうするか

一旦、泳ぎの効率の基盤が確立すれば、スピードを出したい時にストローク数を上げること(そして効率よく泳ぐ練習をすること)を意識的に選択することができます。21ストロークでひたすら泳ぎ続けていた例のトライアスリートは、がむしゃらに泳ぐこと(あるいは21から23にストローク数を上げて!)でしかスピードを上げることができません。

私は、別の方法で行います。上記のセット練習ではコーチが、ラウンド内でストローク数を下げながら3×300を3ラウンドするように言いました。私の場合は初めの300は必ず12splで泳ぎ、それから1回1回のストロークがシルクのように滑らかである感覚を目標に、2番目で13splそして、3番目で14splにストローク数を上げていきました。タイムは落ちましたが、懸命に泳いだという感覚は全くありませんでした。;むしろ動きの調整とタイミングのエクササイズとして、ずっと楽しく、より意図的に泳げたと思います。私は、ストローク数を変えずに2ラウンド目、そして再び3ラウンド目でペースを上げて、更なる挑戦を試みました。大切なポイントは:自分のストローク数を知る、そして意識的で知的な選択をする。闇雲に泳がない。

●ストローク数についての理解を深めたら

練習ではストロークを数えることからまず始めますが、魔法の薬ではありません。あなたの効率をリアルタイムで教えてくれますが、それはある程度まで効率を上げるに留まります。泳ぎの効率を継続的に上げることは、主に水の抵抗を減らすことによって得られるのです。筋肉の記憶力はストローク力学の大きな変化を妨げる傾向があるので、より良いバランス、より長いボディーライン、抵抗の少ない姿勢、そしてより優雅な動きは、主にドリル練習によって実現します。常に細部にまで気を配って泳ぐのであれば、ヒトのDNAを持っている限り、私同様いつまででも技術の向上を期待できるという嬉しいニュースもあります。

 ©Easy Swimming Corporation