●ワークショップ体験者のチューンアップ
TIのコーチは教える時間の殆どをドリルの習得段階のために費やさなくてはいけないので、完成形の泳ぎをドリルと同様のきめ細かさで教えるには時間が足りないと感じることがあります。また、参加されている方はこの時点までに習ったすべての新しいフォーカルポイントですっかり疲れて圧倒されているかも知れません。完成形の泳ぎへの移行のレッスンはこの時点では、精神的にも肉体的にも吸収できる範囲を超えている可能性もあります。あるいは、そのプロセスはワークショップと初めての単独練習のちょうど間ぐらいにぼやけたものになっているかも知れません。挫折と混乱が入り乱れ、TIコーチが傍で指導しない状態で一体「泳ぐ」ことができる日が来るのだろうかと心細くなります。
先日あるご夫婦が、週末ワークショップ後に調子を整える目的の6週間のチューンアップ・セッションを受けに私のもとにやって来ました。彼らの主要な問題点はドリルからクロールへの移行でした。何とか「トライアスロンに適した」水泳のテクニックを身に付けたいと切望しつつも自分たちだけでこれらの技術を身につける自信がありませんでした。私たちはバランスからスタートし、疲労感を覚えるまでドリルを段階ごとに進んでいくことで同意しました。
彼らはドリルを見事にマスターしており、ラクに優雅に流れるように泳ぎました。スケーティングのポジションではプールの底を眺めることを忘れないようにする事と、全体的なボディーラインを引き締める事、また胸部と脇の下に常に圧をかける事などのほんの幾つかの注意を促す程度でした。スィートスポット(SS)でヨガ呼吸を3回入れるトリプル・オーバースイッチまで練習が進みました。この時点で、徐々に息継ぎでポーズするのを3回から2回、そして1回に減らしながら、私たちは単にSSでの息継ぎを減らすことでドリルから泳ぎへの移行を試み始めました。
息継ぎ1回のSSでのポーズでのフォーカスでは両サイドで十分に回転して息継ぎすることに成功しました。これまでは完璧です。バランスする、頭を体に沿ってまっすぐにする、長くまっすぐに伸びたボディーライン、コンパクトでリラックスしたリカバリーそしてスムーズなスイッチなど、すべての重要テクニックはそのままに彼らはラクに優雅に泳いでいます。さて、いよいよ普通に泳いでみましょう、と言うことで次のラップはSSでのポーズを全くしないで泳ぐことにしました。
●ドリルでは完璧だったのに…
それまでのラップで見せた完璧な泳ぎは突如として消え去りました。それはまるで電話線が切れてしまったかの様です。つい今さっきまで会話していたのに突然何も聞こえなくなって、ただ雑音だけが聞こえている状態です。ドリルで見せた優雅で流れるような泳ぎは普通に泳ぎ始めたとたんもがきと動揺に代わってしまいました。ドリルをしていた間の抵抗の少ない針のような船体が、普通に泳ごうと試みたとたんに足をばたつかせ、両腕を振り回して沈み、息継ぎにあえぐというように一瞬のうちに変わってしまったのです。それも、ただトリプル・オーバースイッチのSSでのポーズを外しただけだったのですが。
変化があまりにも劇的だったので答えは明白になりました。熟達している段階、すなわち、ラクに優雅に泳げるSSでのポーズを入れたトリプル・オーバースイッチに戻ることにしました。再び彼らが安心して流れるように泳ぐのを見て、すでにトライアスロンに必要なテクニックが身に付いていることは明らかでした。貴重なエネルギーをバイクとランに残さなくてはいけないのですから、かなりの時間殆ど疲れることなくトライアスロン・スイミングの足ですべるように進むためにも、十分にトリプル・オーバースイッチを使えます。トリプル・オーバースイッチはまた、レース中にいつでも休息そしてリカバリーのための安全スポットを提供してくれる「スィートスポットの利点」があります。トリプル・オーバースイッチを普通の泳ぎとして行うことで、他のトライアスリートたちの一般的な泳ぎのスタイルよりずっと優れたテクニックを見せてくれるのです。
●熟達しているポイントを強化する
もしあなた自身がドリルから普通の泳ぎへの移行で苦労しているのなら、完璧に習得していると思われる最後のドリルまでさかのぼって、どうなるか試してみましょう。おそらくトライアスロンに通じるテクニックをすでに身に付けている事でしょう。一つのやり方としては、SSでのポーズの時のヨガ呼吸の回数を徐々に減らしていく方法があります。3回呼吸するのを2回に減らしてみましょう。ポーズ中2回の呼吸で気分よく泳げるようになったら、その状態で数千メートル泳いで練習をし、それからポーズ時の呼吸を1回にして泳いでみます。慌てず、じっくり時間をかけましょう。プロセスであることを忘れないように。
スイマーが上達の可能性を逃してしまう第一の理由は、前段階で急ぎすぎて技術をしっかり身につけないことが挙げられます。「週末の戦士」をコーチする時にこれをよく見かけます。多くは、しっかり技術とコントロールを身につけることなく「泳ぐ」ことに急ぎがちで、練習する意味を持たなくなることがあります。トライアスリート達は、大抵ドリルをマスターするのにゆっくり泳いでいてはエクササイズにならないと考える傾向にあります。私の所に走り寄って来て「3000ヤード泳がなくっちゃ。」と言います。そして、雑で非効率的な「ストローク」でプールを行ったり来たりするのです。しかし、テリー曰く、長距離水泳は、特定の時間、効率的なスイミングの動きを繰り返す能力です。3000ヤード非効率的に泳いでも、もがくことで筋肉を酷使しているのであって効率よく前進することではありません。
また、ドリルとトライアスロンの練習をするにあたり、「水泳」の意味をよく考えて下さい。私の教えたご夫婦は、トリプル・スイッチを使って今日にでもトライアスロンで泳ぐことができます。TIコーチによってトレーニングされた初心者のマスターズスイマーが、水泳の試合でトリプル・オーバースイッチ・ドリルを使って、他のレーンにいる一般のスイマーたちよりもはるかに綺麗に泳ぐのを見たことがあります。私の教えるある女性は毎日20回プールを往復して「泳ぎ」ます。背浮きでしっかりバランスし、顔の周りを水面が囲い、両腕は体の横でリラックスして、静かでコンパクトなキックをして進みます。これはなんでしょうか。TIのワークショップでの最初のドリル練習を想像するかもしれませんが、彼女にとってはこれがまさに泳ぎなのです。それが彼女が最もリラックスして自信を持って泳げるやり方で、6ヶ月間それを継続しているのです。これを学ぶ前はただプールに足を入れるだけでも大変なことだった彼女にとって、これはとてもエキサイティングなことなのです。70歳の初心者スイマーとして、彼女は今自信を持ってラクに、そして楽しく泳ぐことができます。さあ、あなたもドリルはよく知っていますよね。ドリルを練習しているつもりで「普通に泳いでいる」こともあるのです。
コロラド州コロラドスプリング市に住むリン・ルーは、特殊教育教師としての経験および、効果的な泳ぎを教える方法を理解しながら、様々な学習チャンネルや繰り返し、あるいはフィードバックを通して完全に習得するまで1つの概念に絞って教える経験を持っています。ザック20歳(現在カリフォルニア州立大ベーカーズフィールドの全米大学教育協会ディビジョンUチャンピオンで泳ぐ)とジーナ13歳の二人のTIスイマー(ご主人のトムもITのワークショップに何度か参加)を持つ母親であり25年間マスターズ・スイマーで、主に1マイルから1万メートルに及ぶ長距離や遠泳競技に出場して来ました。1990年に初めてTIのキャンプに参加して以来、チームのワークショップ・オーガナイザー、ワークショップのアシスタントコーチ、そしてプライベート・インストラクターへと幅広く活躍しています。泳いでいない時あるいは教えていない時は、ヨガやランニング、自転車、家族との時間を楽しみ、またナショナル・チャリティー・リーグのボランティアやPTOに従事しています。 |
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