オフシーズン中のプールでの練習は、多くのオープンウォータースイマーにとって持久力のためのトレーニングと位置づけているようです。しかしマウンテンバイクで肩を怪我した私は、様々な課題を解決するためのチャンスとして考えて練習を行い、レースに臨むことができました。今回は問題解決のためにどのようなアプローチをとったか説明することにしましょう。(原文は2007年春に掲載されました)

●2つの問題:肩の怪我と早期のレース

オープンウォーター競技に参加する人の殆どは、競技を持久力のテストとして考えるようです。このテストで良い成績を収めるため、オフシーズンのプールを、とても長い距離を延々と泳ぐ持久力のトレーニングとして位置づけている方が多いようです。しかし私にとってオフシーズンの練習は、自らの持つ様々な課題にじっくりと取り組むチャンスだと考えています。特に2007年のオフシーズンは大きな課題というより問題を抱えることになったのです。k

2007年春私はニュージーランドのタウポで行われたマウンテン・バイクのレースで右肩の関節剥離をおこしました。その時は2007年のオープンウォーターの全ての競技への出場を断念せざるをえない可能性がありました。医者の指示に従って(ちょっとずるをしたのですが)1ヶ月ほど休養し、3月の終わりに泳ぎを再開しましたが、症状を悪化させてしまうのではと懸念するほど、まだかなりの痛みが残っていました。私は泳ぐ距離をずっと減らして、殆どを易しいドリル練習にとどめました。4月終わりになってようやく肩の症状に改善を見て、5月11日の診察は思ったよりも良好でした。長引いている痛みは、放射神経の炎症によるもので、堅実なトレーニングによって悪化することはないことが分かりました。

私は2006年に今まで手にした賞の中でも別格のUSMS(米国マスターズスイミング協会)55歳から59歳の年齢区分のロング・ディスタンス・オールスター選手として称えられました。このオールスターはUSMS オープンウォーター・チャンピオンシップの5つのレースの獲得ポイントによって決定されます。そこで2007年のシーズンも再度オールスターになる目標を掲げました。そのうちの2つは、5月最後の週に開かれます。1つは5月19日にフロリダ州フォート・マイアーで行われる5K、そしてもう1つは5月27日にバージニア州レストンで行われる1マイルです。チャンピオンシップのイベントがこのように季節の初めに重なるのはとても珍しいことです。

怪我から2ヶ月たって普通にトレーニングを再開したほんの数週間後に、とても重要な大会で泳がなくてはいけないというリスクを抱えている上、オールスターの名誉を保持するために、7月14日にニューヨーク州ハンティントン・ベイで行われる10K(1万メートル)、8月4日にアイダホ州サンドポイントで行われる3K(3000メートル)、そして同じく8月18日にプラシド湖で行われる2マイル(3200メートル)チャンピオンシップを含む5つすべての大会で完璧に泳ぐ必要があります。

私は理想的なコンディションで5月の大会に臨むために、まず体力を十分につけることにしました。練習時間を延長し、セットを何度も繰り返すことで基礎体力をつけ、7月初めにもっと大会を意識した練習を行います。同時に、分かりにくい細かな状況をも認識、調整できるように体により深く滲みこませるために、さらに長いセット練習を取り入れて、テクニックの強化にも今まで同様に集中します。

●様々な練習の組み合わせ

ストロークの効率は「生涯取り組む仕事」であると思っていますし、毎年、加齢の影響とバランスさせながら、前年よりも目に見えてよくなるはずです。それでも、目標を高く掲げる時には、やはり身体的なメークアップにも気を使わざるを得ない感はあります。「生まれつきのアスリート」である人がいる中、私は全くそうではありません。気を抜くと驚くべき早さで体重は増えますし、もともとの体力やスピードにも欠けます。2006年は国内記録を破ることを実現するために15ポンド体重を減らしましたが、減量が役立ったことは確かです。

ベンチプレスをしている間に二頭筋腱を切断してしまったことで怪我に対して慎重だったのもあり、ウエイト・トレーニングはしませんでした。最近の怪我以来減らした分の半分ほど、過去8ヶ月で体重はじりじりと戻ってしまいました。そこで、水中トレーニングを再開している間に、できるだけ陸地でのフィットネス活動も取り入れることを試みました。また、これらすべてを組み合わせながら、56歳の中年男子が燃え尽きることなく、どの程度の活動に従事できるかを考慮しなくてはいけません。では、それぞれの練習内容を具体的に見てみましょう。

サイクリング
フィットネス効果同様に、環境にやさしく純粋に楽しい運動です。外気温の平均が摂氏6度に達した時点で、車を使わずに地元はすべて自転車で回りました。古くなったマウンテンバイクにタイヤをつけて、バスケットとカバン付きラックを取り付けました。プールでの練習、TIのオフィス、そしてスイムスタジオ、ジムにヨガ教室、そして近所のお店には自転車を使いました。この様な雑用で、毎日あるいは1日に2回30分から1時間、丘の多い道(美しい景色の線路のハイキングコースに沿った平坦な所もある)を往復することになります。トレーニングとして自転車に乗ったわけではありませんが、1週間に50マイル以上の距離を走ったことになります。カロリーをどの位燃焼できたのか、あるいは有酸素運動としてどの程度役に立ったのかは分かりませんが、得られるものがあれば何でもします。楽しい上に週に数ガロンのガソリンの節約になります。

ウエイト・トレーニング
アメリカスポーツ医学会は、35歳以上のすべての成人に、加齢による体力の低下と肥満を防ぐために、週に2回の抵抗運動と3回の有酸素運動を推奨しています。これらはあくまでも生活の質を高めるのが目的で、運動選手の野心を満たすものではありません。私は2004年の10月に怪我をして以来、ウエイト・トレーニングはしていませんでした。今年4月に再び地元のジムのメンバーに加わり、週に3回20分のウエイト・トレーニングのためのワークアウトをしています。4つの下半身エクササイズと5つの上半身エクササイズを交互に計9つのエクササイズをしています。筋肉の統合を強化するために、1つの筋に集中するのではなく、いくつかの主な筋肉グループを組み合わせたエクササイズを選びました。

また、出来るだけ「不安定な」エクササイズを取り入れました。たとえば、ベンチでバーベルを持ち上げるのではなく(二頭筋腱が骨から分離した時にしていたエクササイズ)、バランスボールの上で肩の均衡を保ちながら腕を交互にダンベルを持ち上げるエクササイズをしました。以前ほどの重量を持ち上げることはできませんが、体をボールの上でまっすぐに安定するために体幹の筋肉を使わなくてはいけないので(水泳の時と同様に)、今までより広範囲の筋肉を起動するようになりました。1度に10回から15回の繰り返しのセット練習を行い、各エクササイズで重量を重くするか、回数を増やすようにしました。15回の繰り返しができたら、重量を重くします。

ヨガ
なぜ水泳をするのかと尋ねられる時、よく「85歳になっても元気で柔軟で優美でいられるために。」と答えます。ヨガはそういう意味でも水泳の理想的なパートナーであると感じます。また、細かい動きに集中しながら目的を持って練習することで満足を得られるので、水泳にも重要な影響を与えます。肩を痛めて2ヶ月ほどは、ヨガをすることができませんでした。4月半ばに再び定期的にヨガをするようになった時は、練習不足がたたって疲れやすく、その疲労感が水泳にまで影響しているように思われました。体を重力に任せ想像力を駆使してすべてを「受け身」に変えることで体の力を抜く術を教えてもらって、それ以来練習はしっかりと全く疲れることなくできる様になりました。

ヨガによって体全体の力、柔軟性、そして怪我への抵抗力などがつきます。ヨガでの自然の抵抗に逆らって筋肉を運動させる方法は、泳ぐ時の筋肉の使い方によく似ている上、水泳の集中トレーニングにおける身体的なストレスに対してもバランスを供給してくれます。同様に、他のどんな活動よりも肩の怪我の治癒力を高めてくれます。はじめは腕立て伏せのような動きを含めいくつかのポーズができなかったのですが、ヨガを再開してからは、肩の力もついて動きもずっと自由になりました。週に2回から4回75分のヨガ教室に通っています。また、75分というのは私が5Kを泳ぐタイムにとても近いので、ちょうど最初の大会にかかる時間の見当をつけられます。毎日ヨガを練習する時間があれば是非ともやりたいものです。

水泳
コンディションはまだまだ完璧とはいえませんが、25分程度の1マイルの大会よりも、75分から90分は要する5Kの大会への準備の方がずっとラクに思えます。5Kの大会ではおよそ5000回ストロークをすることになります。すなわち5000回分エネルギーをセーブ或いは、より効果的に使うことができます。がむしゃらに泳ぎ続ける訓練を強いられている競争相手たちに比べ、私はゴールペースを達成する最も簡単な方法を見つけるための訓練をしています。このように、レースの距離が長ければ長いほど、効率によって潜在的に有利になるのです。

●肩に負担をかけないフォーカル・ポイント

TIのディスカッション・フォーラムでの、「怪我の好機」というトピックでは、多くの反響がありました。最近の怪我もまた、ストロークの効率を改善するための絶好のチャンスだと受け止めています。やさしく泳ぐことは、長距離での効率を高めることに直接的な効果があるのと同様に、健康全般にも好ましい影響をもたらします。肩に負担をかけないために、以下の4つのフォーカルポイントに集中しました。

1) 軽い圧力でのキャッチ
キャッチの時に手にかける力を減らすのは、怪我の治癒を促進するだけでなく、ストロークを始める時に肘を高く保ちより安定させることができます。こうして、しっかりとしたキャッチでより強く体幹の力につなげられるようになります。練習時に、ストロークの始めに手と前腕の力を抜く時はいつも、ペースが改善して同様にリラックスしながらその状態を維持することができます。

2) もっと優雅なキャッチ
各ストロークの始めに手が肘の下を通る時にほんの少し時間をかけるように集中します。キャッチがゆっくりすればするほどストロークがスムーズになる気がします。当然ながら、時間をかけることはリラックス感にも繋がります。

3) 足首をもっと平行に
両足を常に寄せるようにすると、ストロークとうまく同調するのでツービートキック(2BK)がより力強くなります。足首を平行にすることに集中することで、体のポジションもより横に安定させようとするので、キックによって生み出される力が凝縮されるようです。同じまたは少ない力で、より効果的なキックになります。

4) 体幹から引き出されるキック
この3年間、私の2BKは今までにない力を発揮していますが、プッシュオフでこむら返りになるなど、いくつかのプール競技の終盤になって足が疲労してしまうことにも気がつきました。徐々にこれは足に力をかけすぎている証拠であると思うようになりました。そして、ほんの数週間前にやっとその力を抑えるられるようになりました。この2ヶ月間リラックス感とエネルギーを節約することに集中しながら、2BKが大腿部ではなく(足首を平行に保とうとする時についそうなってしまうのですが)体幹から発している感覚をつかむことで、筋肉に力を入れずに同様の力を出せることに気が付きました。

この2ヶ月間、常にこれらのフォーカルポイントのいくつかを念頭に置きながら泳いできました。大会で泳ぐ時も、およそ5000回のストロークのたびに、これらのフォーカルポイントに集中するつもりです。

 ©Easy Swimming Corporation