質問:娘の初の競泳大会に行って来た所です。彼女はクロールを泳ぎましたが、平泳ぎをやりたいと言います。他の子供たちが平泳ぎで泳ぐのを見ましたが、全員泳ぎがとても遅いのです。彼女は今回平で泳ぎませんでしたが、余りやってほしくないと思いました。とにかく遅すぎます。誰か平泳ぎを速く泳ぐ方法を知っていますか。それともそんなことは初めから無理なのでしょうか。
回答:「速い」が何を意味するかによります。2007年12月現在の女子100mの世界記録は以下の通りです。
- クロール:53.30秒 ステフェン・ブリッタ(ドイツ:2006年)
- バタフライ:56.61秒 インへ・デブルーイン(オランダ:2000年)
- 背泳ぎ:59.44秒 ナタリー・カグリン(米国:2007年)
- 平泳ぎ:65.09秒 リーセル・ジョーンズ(豪州:2006年)
これを見てもお分かりのように、平泳ぎのタイムは他の泳法に比べるとかなり遅いです。しかし殆どの人は100メートルを65秒で泳ぐことはできませんから「速い」は相対的なものです。
私はデービット・ワレン氏の「すべてのスイマーは4つの全泳法を泳ぐべきだ。」と言う意見にはすべて賛成する訳にはいきません。私なりにもう少し厳密に言い換えると、「すべてのスイムチームは4つの全泳法を練習すべきで、競泳選手たちはすべての泳法において能力が一定の標準に達する機会を与えられるべきだ。」結局、試さずしてどの泳法を得意とするかは誰にもわかりません。ですから私だったら娘さんがやってみたいと言う平泳ぎを止めさせることは決してしないでしょう。
平泳ぎは他の3つの泳法とは明らかに違う点がいくつかあり、そのために3つの泳法は上手く泳げても平泳ぎには苦労しているというスイマーがたくさんいます。これにはいくつか訳があります。
1) 平泳ぎだけは、スタート後とターンの時にドルフィンキックをするのを許可されていない。
平泳ぎ以外の泳法に熟達しているスイマーにとって、スタート或いはターンの後にストリームラインになり、その後ドルフィンキックを使ってストリームラインをできるだけ維持しながらストロークを始めるのが殆ど自然に身に付いています。しかし、平泳ぎのルールはそうではありません。水面に近づくための水中のプルとキックが1回ずつのみ許可されているのです。(2007年のルール改正で1回だけドルフィンのダウンキックのみすることが可能になりました)
2) 平泳ぎだけは腕を水中でリカバリーする。
水中の密度は空気中の密度の800倍ですから、水中でリカバリーをするとなると手と腕をストリームラインに伸ばすことを学ばなくてはいけません。他の3つの泳法では余り心配する必要のないことです。
3) 平泳ぎのみキックのリカバリーがあり、それはまた水中で行われなくてはいけない。
強いキックは殆ど役に立たず、リカバリー中は強いキックは推進力をすべて奪ってしまいます。従って「こそっと」する平泳ぎのリカバリー用のキックも学ばなくてはいけません。
4)他の3つの泳法よりも平泳ぎのキックの役割は大きい。
クロールにしてもバタフライにしても背泳ぎにしても、推進力は圧倒的に上半身によって生み出されます。しかし、平泳ぎでは少なくとも推進力の半分はキックに頼っています。実際、優れた平泳ぎ選手はキックからかなりの推進力を得ています。
5)平泳ぎは他の泳法と違った筋肉を使う。
私は、3年前に平泳ぎを学んだ時に初めてこのことに気がつきました。水泳を日課にするようになって何年もたちますが、平泳ぎの腕のストロークを練習し始めると、久しぶりにウェイトトレーニングをした時のように胸部の筋肉が痛くなります。他の泳法では平泳ぎで使う特定の筋肉は発達しませんでした。
6)平泳ぎの腕のストロークとキックは特有の感覚がある。
平泳ぎの腕のストロークをする時は、実際足に向かって掻く事はせずに、手は常に肩の前方に位置するようにします。後ろに向かって足をキックする時は、つま先同士は出来るだけ大きく離すようにします。(両つま先を大きく離せるスイマーは、平泳ぎにとても有利です。平泳ぎの選手であるデビット・デニストンは、実際に足を掻く時につま先同士を180度開くことができます。)また、平泳ぎのキックは2段階になっています。すなわち(1)つま先をできるだけ大きく開いて後ろに蹴り、(2)それから足をまっすぐに伸ばして、両足間の水を搾り出すように両足をぴったりと揃えます。このキックを急いでやろうとすると、キックによって生み出される推進力の多くを失うことになります。
TIのカンタン・平泳ぎDVDは、平泳ぎを学ぶための良い出発点になります。平泳ぎのキックはとても重要でありながら、(生まれつきの平泳ぎの天才でない限り)殆どの人にとって最もなじみにくいストロークの部分なので、娘さんがこのユニークな泳法を試すのであれば、より成功しやすく満足のいく経験をするために、ここにいくつかのキックのドリルをご紹介します。
プールの淵にぶら下がるようにつかまってキックの練習をする。
この時胸部と腹部をプールの壁にぴったりとつけます。まず、踵が臀部に触れるまで足を持ち上げるます(つま先は常にプールの底に向いています)。それから、踵を内側に回転してつま先を外側に向け、プールの底に向けて水を蹴ります。下へのキックを終えたらすぐにつま先をプールの底に向けて、足の間に溜まった水を押し出すように両足をぎゅっと合わせます。
上記と同様のドリルを仰向けで練習する。
キックをする際に膝が水面から出ないように注意します。(前のドリルでプールの壁に胸とお腹をぴったりとつけていれば問題なく出来るはずです。)このドリルを行う際は手を体の横に置いて、指先に踵で触れるようにし、それから指先を丸めて同様に拳骨に踵で触れるようにするとやり易いと思います。25mずつキックの回数を数えて、12回以下にするよう目標を立てます。
25mを12回以下のキックで泳げるようになったら、今までのドリルをキックのスピードを変えて何度か練習してみます。最初はできるだけ速いキックで、次にキックの後にストリームラインの姿勢で体を伸ばして、キックするたびにけ伸びするのを入れる遅いキックを交互に泳いでみます。それからできるだけラクに泳げるように、またキック数、タイムやエネルギー消費量を比較するためにキック率を出してみましょう。
下記の要領で一部変更して再びドリルを練習する。
まず、できるだけ壁を強く蹴ってスタートします。前半は、キックオフによって推進する力を弱めないように足をリカバーすることに集中するようにします。次に推進力が次第に弱まってきたら、できるだけ速く進むようにキックすることを試みます。実際にタイムを計る及び(或いは)他の誰かと並んで泳ぐことをお勧めします(泳法に関わらず)。何度か実験して最も速い時のキック率を出してみましょう。おそらく最も速いキック率すなわちがむしゃらにキックする時よりもゆっくりキックをする時が、最もラクに最高速度を達成することに気がつくでしょう。
TIのドリル「2アップ−1ダウン(2回プル−1回キック)」を行う。
背浮きでキックの練習をする時の感覚を維持するようにして各サイクルで水中にいる間にできるだけ距離を泳ぐように練習しましょう。
TIのドリル「1アップ−1ダウン(1回プル−1回キック)」を行う。
とても効率のよい平泳ぎ全体のストロークのフォームです。キックで同様の感覚をできるだけ維持するようにしましょう。
ボブ・マカダムスは、1999年2月にTIクロールのワークショップに参加して手応えを掴んで以来、TIディスカッション・ボードに熱心に参加するようになりました。また、2002年にはTIティーチング・プロフェッショナル・コースを修了しました。以降ボブは、TIキッズ・キャンプのコーチ、TIクロール・ワークショップのコーチ、そして、プライベートでTIコーチを務めています。ボブはまた、マスターズ・スイマーとして競泳にも参加し、自身の水泳の改善も図っています。 |
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