先日、4度オリンピックに出場し(初出場は1984年のロス五輪!)、40歳にして1児のママであるダラ・トレス選手が全米選手権の100m自由形で優勝し、50m自由形の全米記録を更新しました。10代や20代の現役選手がひしめく全米選手権において彼女が優勝したことは、水泳が技術で速くなれることを示したと言えます。今回は100m自由形で10年以上トップの座に君臨した「皇帝」アレクサンダー・ポポフ氏を参考に、100m自由形を速く泳ぐためにどう「カイゼン」できるか考えてみましょう。

●パワーではなく効率を追究する

1992年のバルセロナ、1996年のアトランタの両オリンピックの50mと100m自由形で優勝し、2003年の世界選手権の50mと100m自由形で優勝したアレクサンダー・ポポフ氏は、最も瞬発力や筋力が必要と考えられる自由形の短距離レースにおいて10年以上トップの座に君臨し、「皇帝」と呼ばれた名選手です。

若い選手が次々と台頭する競泳の世界、しかも最も苛酷な自由形短距離において、なぜ彼は長期間王座に君臨することができたのでしょうか。彼の練習プログラムを分析すると、すべてにおいてストロークの効率を第1目標に掲げています。スピードのトレーニングでも、がむしゃらに練習したり体力をつけることでもありません。スピードは、ただそれについて来るのです。

彼のウェイトリフティングのプログラムは、彼が100m競技でラクに勝つことができる米国の大学生スイマーたちに比べて、かなり控え目でした。彼が出せるパワーをスポーツ科学者が推計したところ、殆どのライバルよりも25パーセントから40パーセント低いことが明らかになりました。

アクアティック・リサーチ国際センターのリック・シャープ氏とジェーン・カッパート氏は、オリンピックで100m自由形に出場した全男子のなかで決勝進出を果たした選手の平均出力量は、決勝進出を果たせなかった全選手の平均より16パーセントも低かったと報告しています。これは、速く泳ぐことができるスイマーはストロークの効率を最大にすることで速度を上げており、パワーで速く泳いでいるのではないことを物語っています。

●これまでの練習と大きく異なるポポフ氏の練習内容

従来の水泳がいかにたくさん、一所懸命に練習するかを強調するトレーニングを強いる中、ポポフ氏と彼のコーチであるゲナンジー・トゥレツキー氏はテクニックの熟達とストロークの長さなど、いかに正しく練習するかに集中しました。殆どのスイマーが、スピードと体力を試すために日夜ストップウォッチ片手に練習に励むところ、彼らの原則は「もし正確にできなければやるな」です。

ポポフ氏の練習量は、トゥレツキーの技術的な完成度への厳しいスタンダードをクリアーしながらどのくらい泳げるかによって決められ、またスピードのための練習はこれらのスタンダードをクリアーしながらどれくらい速く泳げるかによって決められます。世界記録保持者へと進歩する10代の頃、彼の泳ぐ距離や練習量はストロークの長さと効率を維持する能力を確保してから増えていったのです。

トゥレツキー氏が設定した速く泳ぐための2つの原則(ストロークの長さとリラックスすること)は、どんなレベルのスイマーでもすぐに役立ち,コーチのサポートなく簡単に練習することができます。楽々と泳いでいるように見えるポポフ選手も、それらを習慣化するまでには一貫した規律的な練習に長い年月を費やしたのです。

●速く泳ぐための5原則

ポポフ氏の泳ぎや練習方法に基づき、速く泳ぐために必要な5つの原則を以下にまとめましょう。

1. ゆっくり泳ぐ
従来のスピード・トレーニングは、レースでトップスピードを出している状態(心臓がバクバクで息も絶え絶え)を再現するため、とにかくプールを限りなく速く往復させることを強いました。トゥレツキー氏とポポフ氏はこれには重きを置きませんでした。オーストラリア・スイミングのための水泳開発ディレクターであるビル・スウィーテンハム・コーチは、「ポポフは練習の大半をゆっくりとしたスピードで行い、がむしゃらに泳ぐことは殆どしない。」と語っています。練習の多くの時間をゆっくりリラックスして泳ぐように心がけましょう。ゆっくり泳ぐことで下記の練習がスムーズに行えます。

2. ストロークの長さと効率
ポポフ氏は世界記録達成に向けて普段の大会よりも50mのストローク数を最大10減らす練習をしました。こうして莫大な時間をかけて、50mを23-24ストロークで泳ぐ練習をしました。また、これを様々なスピードで試みました。あなたも「ストローク数を減らす」練習をすることができます。すでに1年以上ストローク数に集中して練習している場合を除いて、数週間かけて通常のストローク数より(平均)2ストローク減らして泳ぐ練習をしてみましょう。最初のうちは違和感があるかもしれませんが、慌てないで。新たにストローク数を減らした泳ぎが、やがてよりリズミカルで通常の感覚になるでしょう。そしてそれは、神経システムが新しい動きをうまく順応させたことになります。1、2週間後、平均からさらに1ストローク減らしてみて下さい。

3. 抵抗の少ない泳ぎ
またビル・スィーテンハム氏は、ポポフ氏がどこでいかに水の抵抗が発するかを探って細かく調整し、抵抗を減らす方法を独創的に探究しながら何時間も泳ぐのを見たそうです。速く泳ぐことで抵抗が急激に増す(抵抗は速度の二乗に比例)ことから、ゆっくり泳ぐ時に限りなく抵抗が少ないスタイルを確立することによって、スピードを上げて泳ぐ時のエネルギーを劇的に節約できることになります。水中で潜り抜けている「トンネル」の大きさについて常に頭のどこかで確認するようにし、そのトンネルをできる限り狭くすることに尽力しましょう。

4. 「水と仲良く」する
集中してゆっくり泳ぐ練習から速度を上げる時には、水の抵抗を感じはじめる時に対し敏感でいて下さい。何があっても「もがき」を練習してはいけません。いかなるスピードにおいてもできる限り無駄なく泳ぐようにします。

5. 「魚のような泳ぎ」を練習する
ポポフ氏が大会と練習時のスピードの双方で泳いでいるコマーシャル・ビデオを私は1時間ほど興味深く見ました。そして彼のスタイルについて、ストロークの効率と無駄のない泳ぎに大きく貢献する2つのことに気が付きました。
頭が低い位置にある。彼のように泳ぐためにはまず、泳ぐ時に前方ではなくプールの底を見ます。これが正しく行われているなら、頭の後部で水の流れを感じます。友達に泳ぐのを見てもらい、頭の後部がほんの少しだけ水面から出ている時を教えて貰うようにします。それから、その頭の位置の感覚的に覚えておくようにしましょう。
ストロークを始めるまでの長い間手を伸ばしている。最も重要な手の役割はボディーラインを伸ばすことであり、体を前進させるためのパドルとして使うことではないと、泳ぎながら意識するようにします。

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