●ねじれや足開きの原因になる中心線へのリカバリー
初心者の方だけでなく中堅のスイマーにも多いのが、体の中心線に向かって手を入水させるリカバリーです。水中から持ち上がった手は水上では軽やかに動いてしまうので、体の中心線上に入水するはずが勢い余って中心より反対側に入水することが多くなります。
また肘を伸ばして、手を前方遠くに投げ出すようにリカバリーするように教わることもありますが、手は肩を中心とした円運動となり、スイングした状態になるので中心線より反対側に入水する原因となります。
なぜこれが問題になるのでしょうか。手が肩を中心として円運動を行うと、手と垂直の向きに遠心力が働きます。体の中心線に入水しようとすると、この遠心力が進む方向とは垂直に働くことになります。つまり入水時に横方向の力が働き、体を横から押されたような状態になります。この結果体がねじれてバランスが崩れ、このバランスをとりもどそうとして足が横にはさみのように開いてしまうのです。これはスイムサロンでスイムの4分割画面を分析して初めてわかったことでした。
もともと中心線は線であり、1次元で幅がありません。一方人間の体には幅があるので、中心線に向かって入水する限り横向きの力が発生してしまうのです。そしてこの横向きの力は、もともとみなさんが泳ぐために使っているエネルギーに他ならないのです。貴重なエネルギーを使うのですから、できるだけ多くを「前に進む」ために使いたいですね。
●2本のレールの2つの効能
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手をレールに沿って
動かします。 |
入水後に伸ばす手の方向も
同じレール上です。 |
「2本のレール」は、体の外側に沿って体と平行にレールが敷いてあるとイメージして、リカバリーのときの手、および入水後に伸ばす手がそのレール上を動くように意識するフォーカルポイントです。
右の写真はTIヘッドコーチのテリー・ラクリンと私が流れに逆らって泳いでいる姿を橋の上から撮影したものですが、入水の位置が体の外側であることがわかります。入水後の手もこの「レール」に沿って伸ばします。
このように体の外側に沿って手を動かし、伸ばすことにより2つの効果が得られます。1つは「横向きの力を最小限にできる」ことです。水面に出た手はリカバリー動作、および入水後の動きにおいても後方から前方への動きになるため、円運動の遠心力による横向きの力を最小限にすることができます。これによりリカバリー動作中のエネルギーロスが少なくなり、もてるエネルギーを前方に進む力に使うことができるようになります。
もう1つの効果は「安定した姿勢が得られる」ことです。クロールは頭頂部から背中を通る軸を中心として、左右に体が回転することで進む泳ぎですが、極度に体が回転すると、次の逆方向の回転にスムーズに移行できなくなります。これをTIではオーバーローテーションとして呼びますが、肩のローリングを意識しすぎたり、リカバリーで肘を持ち上げることを意識しすぎるとオーバーローテーションの原因になります。2本のレールを意識すると回転が抑えられるため、このようなオーバーローテーションを防ぐことができます。特にオープンウォーター・スイミングにおいては、うねりや波の影響を最小限にするための安定した姿勢は必須であり、2本のレールというフォーカルポイントが非常に有効です。
●2本のレール実現のためのステップ
2本のレールを実現するために、以下のようなステップで取り組んでみましょう。
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1)リカバリーの始め
肘から先を脱力した状態で手全体を水面上に出します。
ここで肘を上げる意識が強くなるとオーバーローテーションを起こすので、肘を前に運びながら手をレール上に沿って動かすようにします。
レールは肩から30cm外側にあるものとイメージすると、手や前腕部を体に沿って平行に動かすことができます。
手首から先を完全に脱力すると、手が円運動しようとするのを抑えることができます。
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2)リカバリーの途中
レール上を、肘が手首や手をリードするように動かします。
肘から先が完全に脱力していないと、肘がリードすることができません。
ここでいかに脱力できるかが、ラクに泳ぐだけではなく速く泳ぐためにもキーポイントになります。 |
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3)リカバリーの最後:入水動作
入水の場所は肩から30cm外側にします。これまでとは全く違う感覚で違和感を抱くかもしれませんが、慣れるとともに体が非常に安定していると感じるでしょう。
肘から先が完全に脱力した状態を維持しながら、指先→手首→肘の順番で入水します。肘が先に水面に達すると水しぶきが上がるので、静かな入水を心がけます。 |
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4)入水後の伸び
入水した手をレールに沿って伸ばします。泳ぐ速さは入水後に伸ばした手の加速によって決まるので、速く泳ぎたいときは一気に伸ばします。
体の前後のバランスは、手を水面下のどの位置に伸ばすかによってコントロールします。足や腰が沈みがちな場合は水面下40〜50cmの場所を目標として手を伸ばします。
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2本のレール |
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体の外側に2本のレールをイメージして、そのレールに沿ってリカバリーを行います。安定した姿勢が得られるだけでなく無駄な方向の力を減らす省エネにもつながります。 |
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