米国を含む世界のTIのなかでも初めてのバタフライと平泳ぎのワークショップが、6月16・17日に実施されました。ビデオ分析を通じてわかったバタフライや平泳ぎのカイゼン・ポイントと、ワークショップにより得られた効果について説明しましょう。(竹内慎司)

●バタフライと平泳ぎを同時に学ぶメリット

私自身がTIスイムを始めたキッカケはインターネット上のスイムショップで平泳ぎとバタフライがカップリングされたTIのビデオを購入したことでした。平泳ぎのドリルの前半はバタフライと共通なので、平泳ぎのドリルを練習するとバタフライも自然に上達していったことでTIスイムに魅力を感じるようになりました。

バタフライと平泳ぎの共通点は、

  • 手や足を左右同時に動かすので、交互に動かすクロールや背泳ぎに比べて動きが単純で手や足に意識を持って行きやすい。
  • 上半身と下半身を順番に動かして「うねり」を作り、重心をうねりに合わせて移動することで推進力を得る。
  • 息継ぎは上半身を起こすことで顔を水面上に出して行うので、体を起こさないクロールよりはラクにできる。
  • ストリームラインが最も抵抗の少ない姿勢である。

一方バタフライと平泳ぎの違いは、

  • 手のリカバリー(ストリームラインに戻す動作)が平泳ぎは体の前で水中に入れたまま行うのに対し、バタフライは体の脇から水上に出して行う。
  • 平泳ぎのキックは足をひきつけて戻す動作であるのに対し、バタフライは足全体をうねらせるドルフィンキックである。

と考えることができます。そこで共通となる動きをドリルとして練習したうえで、違いとなる動きをそれぞれのドリルとして練習すれば、2種目を別々に練習するよりも短期間で効率よくマスターすることができるのです。

特に新しいTIスイムのアプローチでは、「ストリームライン直前の動作で最大の推進力を生み出し、ストリームラインをできるだけ長く維持する」ことであり、この新しいアプローチを基本として、ワークショップのカリキュラムを作成することにしました。

●バタフライのカイゼン・ポイント

参加されたみなさんのビデオを分析してわかったことは、「強いキックで勢いをつけて上体を起こし、リカバリー後に深く潜ることでうねりを作る」意識が非常に強いことでした。ストロークの順番にみてみると、

  1. 最初のキック:上半身を高く上げるためには、キックを深く、強くしなければならないという意識が働くため、水面上まで足を上げてから振り下ろす。このため「ドーン」と音がして、水しぶきが高く上がる。
  2. 息継ぎ:できるだけたくさん息を吸おうとして、顎が水面から離れるほど頭を上げる。また入水後には頭を突っ込んで前が見えないので不安になるのか、ここぞとばかり前をしっかり見ているので頭が上がって腰や足がどんどん下がっていく。水面から上がった分だけ水面下に沈む。
  3. リカバリー:肩が水面上に出ている間に手を入水させないと、手で水面を叩くことになる。最初のうちはよいが3ストローク、4ストロークと続けていくうちに手の動作と体の入水のタイミングが合わなくなり、肩が沈んでから手が入水するのでリカバリーが続かなくなる。また手を水面と水平に動かすのではなく水面から遠ざけてリカバリーする傾向がある場合、手を叩きつけて入水することになる。
  4. 入水:前を見ていた状態から顎を引いて頭を突っ込むようにして入水するため、体全体が深く入ってしまう。うねりを作るために上半身を潜らせようとして、入水後の手も深く入れようとする。水面から高い位置でリカバリーした場合、勢い余って体の中心線近くで入水し、水中で余計な手の動きが発生する。
  5. 2回目のキック:どこでキックすれば推進力に貢献できるのかを考えてキックしていないか、手と足が無関係に推進力を生みだそうとしてタイミングがバラバラになる。
  6. かき始め:4で深く潜った体を急速浮上させなければならないので、手を後ろではなく下方向に押してしまう。手を伸ばしきったままかき始めの動作を行うので、軌跡が長くなり手の水中滞在時間が長くなる。

このためワークショップでは、以下の点をカイゼン・ポイントとしてドリルを通じて重点的に理解していただくようにしました。

  • 上下の動きを最小限にして、ストリームラインに戻る動きをうねりにつなげる。
  • 水面下の手の動作をコントロールすることを、泳ぎ全体をコントロールすることにつなげる。
  • 全てのエネルギーを「前に進む」ことに使えるようにする。
  • 「ストリームラインで滑る」ことを体で覚えてもらう。

●平泳ぎのカイゼン・ポイント

平泳ぎはバタフライに比べてみなさんの泳ぎの歴史が長いためか、個々のクセがかなり強く出ていました。そのなかでも以下のような課題が明らかになっています。この中の多くはバタフライと共通の課題と言えるでしょう。

  1. かき始め:息継ぎのために頭を高く持ち上げようとする意識があるのか、手を下方向に押してしまう。肘を伸ばしたままかこうとするため、かくのに時間がかかる。
  2. 息継ぎ:かき始めで手を下に押すことから上体が水面から上がり、かいている途中で息継ぎを始めてしまう。またできるだけたくさん息を吸おうとして、顎が水面から離れるほど頭を上げる。かき過ぎて上体が起きた姿勢が長時間続き、腰や足がどんどん下がっていく。水面から上がった分だけ水面下に沈む。
  3. リカバリー:ゆっくり行うことで、リカバリー動作が推進力に結びつかない。
  4. キック:足を後ろに蹴ることよりも開くことに意識が置かれている。推進力をキックに依存しているので、大きな動作となり上半身とタイミングが合わなくなる。
  5. ストリームライン:ストリームラインの姿勢でがまんできずにキックの後すぐに次のかき動作に入ってしまう。

このためワークショップでは、以下の点をカイゼン・ポイントとしてドリルを通じて重点的に理解していただくようにしました。

  • 上下の動きを最小限にして、ストリームラインに戻る動作で重心移動のタイミングを覚える。
  • ラクに泳ぐための手のかき動作、リカバリー動作を理解してもらう。
  • 大きくかく、大きくキックするのではなく、ストリームライン以外の動作は全てコンパクトにする。
  • 「ストリームラインで滑る」ことを体で覚えてもらう。

●ワークショップの秘密兵器:「ヌードル」

ワークショップでは初めてヌードルを使ったドリルの練習を行いました。ヌードルは中空の細長い棒で、ビート板と似たような素材でできており部分的に体を浮かせる補助具です。ヌードルはまず写真のように使います。

バタフライと平泳ぎでは上半身と下半身をタイミング良く動かすことで「うねり」の動作を作りますが、ヌードルを使うとうねりの動きやタイミングをすぐに体で覚えることができます。

また腰が沈まないため、上体をあまり起こさず低い状態で息継ぎを行うことができるようになります。さらにカンタン・スイミングのボーナスDVDにもあるように、平泳ぎのかきすぎの防止の練習にも非常に効果的です。

ワークショップではまず全員にヌードルを使ってストリームライン・ドルフィンの練習を行い、スカリング・ドルフィンで慣れてきた方から順番にヌードルを外していきました。これまでうねりの体得にはかなりの時間がかかっていたのですが、ヌードルを使うことで非常に短い時間でうねりの感覚をつかんでもらうことができたいと思います。

●2日目の平泳ぎは「誰もが同じ泳ぎ」に

ワークショップでは1日目にバタフライ、2日目に平泳ぎを行います。2日目の午前中にはバタフライの復習としてミニフライを30分近く行いましたが、みなさんあまりにラクに泳げるのにビックリされていました。選手でもなく、バタフライの初心者であるみなさんが、前日にバタフライのドリルを3時間以上泳ぎ、2日目に朝からバタフライを泳ぐというのはすごいことだと思います。

バタフライドリルやバタフライの練習をじっくり行った成果は、平泳ぎでも表れました。最も重要な上体を起こす動作はバタフライのドリルによって磨かれた結果すぐにマスターすることができ、午前中のセッションでキックの練習までできたことは想定外でした。私は平泳ぎのタイミングを体得するまでに1ヶ月以上ドリルを行ったので、正直うらやましい気持ちでした。

最後に撮影した平泳ぎでは、上下動を最小限にしてストリームラインをできるだけ維持するという泳ぎをマスターし、みなさん同じような平泳ぎになったのは印象的でした。まさにカンタン・クロール ワークショップと同じ成果が得られたと言えるでしょう。

今後はみなさんがよりバタフライと平泳ぎを気持ちよく泳げるように、ワークショップのカリキュラムを磨くと同時に、コーチ一同指導のレベルを上げていきますので、ぜひご期待ください。

カンタン・バタ平ワークショップは、次回8月18・19日に実施します。詳しくはこちらをご覧ください。
 ©Easy Swimming Corporation