夏はスイミングのシーズンです。プールや海、湖などで様々な水泳の競技大会が開催されます。TIスイムはラクに泳ぐ水泳の方法ですが、レースにおいても非常に有効です。私もTIスイムを実践して、1マイル(1.6km)、2マイル(3.2km)スイムにおいて米国大会記録をうち立てることができました。今回は「ラクに、速く泳ぐ」ためのTIスイムのアプローチについて説明しましょう。

いつもの練習では良い感じが得られていても、いざ本番となると緊張してうまくいかなかった…ということはよくありますね。また普段は25mを16ストロークで泳いでいても、レースでは26ストロークと大幅に増えてしまい、後半バテてしまった、ということもよくあります。レースは練習とは違い、他人が決めるタイミングでスタートし、しかもできるだけ速く泳がなければならないというプレッシャーも生まれます。普段は「考える水泳」を実践していても、スタートの号砲を聞いた瞬間に全てが飛んでしまい、ひたすらかきつづけてしまい思うような結果が出ない場合には、次のようなアプローチでレースに取り組んでみましょう。

●レーススピードにおける「効率」

TIスイムは効率を追究することで減速の度合いを減らし、平均速度を上げます。ラクそうに見えて実は速い、というのはストローク長が伸びるためストローク数が少なくなる一方、あまり減速せずに次の加速の段階に入ることからそのように見えるわけです。レースにおいてはさらに、レースで想定されるスピードにおいて同様の効率を追究します。このためには距離をたくさん泳ぐよりは、技術をより磨くことに力を注ぎます。

レーススピードにおける効率は、次のような練習を繰り返すことで技術として身につけていきます。例えば現在クロール50mで40秒のスイマーが35秒を切ることを目標にした場合、

  1. まずゆっくりしたスピードでより高いレベルの効率を追究します。普通よりもゆっくりしたペース(50mのベスト÷2+5=25秒程度)で25mを18ストロークで泳げるのであれば、同じタイムで16ストロークで泳げるようにします。

  2. タイムは同じで、ストロークを減らして泳げるようになるフォーカルポイントを見つけたら、そのフォーカルポイントにさらに磨きをかけます。フォーカルポイントの例:テンポを落とさないようにするために、リカバリー動作をコンパクトにして入水後に伸ばす手のがまんの時間を増やす。

  3. ゆっくりしたペースでコンスタントに少ないストローク数で泳げるようになったら、1のゆっくりしたペースよりも1秒短いタイムで同じ効率が実現できるか試してみます。最初は速く泳ぐためにどの程度効率を犠牲にしなければならないのか(つまりストローク数が増えてしまうか)を確認し、次にストローク数の増加を最小限にしながら速く泳げるようにフォーカルポイントを決め、磨いていきます。

  4. 1秒短いタイムでもストローク数が変わらなくなってきたら、こんどは同じ1秒短いタイムでストローク数を1減らして15ストロークで泳ぐようにします。タイムは同じでストローク数が少ないということは、1回のストロークで使える時間は長くなるので加速の動作をより短く強く行うようにして、滑る時間をより多めによるようにします。

  5. このようにタイム一定でストローク数を減らす→ストローク数一定でタイムを縮める→タイム一定でストローク数を減らすプロセスを繰り返し、最終的には25mで18秒程度、16ストロークで泳げるようにします。

この練習プロセスで最も大切なのは、効率を維持しながら少しだけ速度を上げるためには何をしなければならないかを体に浸みこませることです。このように練習してゆけば、本番の大会で多少緊張したとしても、体に浸み込んだ技術により本能的に効率を追究しながら速度を上げることが可能になるのです。

●レースの距離と練習の距離

レースに出場するときの距離と、練習するときの距離はどのように考えたらよいのでしょうか。100mに出場する場合、100mを10本練習するのと50mを20本練習するのはどちらが大切でしょうか。1500mに出場する場合はどうでしょうか。

レーススピードにおける効率のための練習は、レーススピードを実現できる距離・回数はどのくらいかが基本になります。100m以下のレースであれば25mの繰り返し、200〜400mのレースであれば50m、800m以上であれば50mや100mの繰り返しにおいて、ストローク数とテンポ(またはタイム)を決めながら練習することになります。1500mのレースを泳ぐからといって、1500m続けて泳ぐのは持久力の点では効果がありますがレーススピードの練習にはあまり役立ちません。

また50m以上のレースでは、ペース配分もとても大切です。TIスイムでは速く泳ぐ、ゆっくり泳ぐというようにスピードをイメージするのではなく、ストローク数やテンポをコントロールすることで定量的にアプローチします。200mであれば50mに区切ったときにそれぞれ何ストロークで泳ぐのか決めたら、50mの練習でストローク数やテンポを4通りに分けてそれぞれ2〜4本程度練習します。

またオープンウォーターでは「壁から壁までの」ストローク数を数えられないので、時間に合わせてテンポをコントロールすることになります。最初の10分はテンポ1.30秒(ストローク毎)、次の10分は1.20秒、最後の10分は1.10秒というように決めて泳ぐための練習を、50m×15〜30本程度のメニューで行います。

いずれの場合においても、まずレーススピードよりも遅いスピードで効率を追究して、それからスピードを上げることを繰り返し行い、体に技術を浸み込ませることがポイントです。

 

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