TIスイマーといっても様々ですが、つらそうに泳いでいるという理由でTIを紹介される人が多いと思います。ところが私の場合はかなり違っていました。2006年1月、二人の友人から、オーストラリアとイギリスのチャリティーで7月に開催される「ドーバー海峡(約34キロ)3人リレー」に出場して寄付を募る手伝いをしてほしいと頼まれました。そんな距離を泳ぐなんてアイデアは実現されるはずもないと思いつつ、参加することにしました。

水泳の経験はありましたが、10年以上公共のスイミング施設に行くことはほとんどありませんでした。20代の前半、私は泳ぎもできる優れたアスリートでしたが、優雅さというよりは熱心さで保っていたようなものでした。10年間のギャップの後、初の海峡リレーに出場した時のトレーニング日記には、こう記されています。

「1000メートル泳ぐ。おぼれるかと思った。」

その最初のセッション後、2つのことを発見しました。1つ目は、チームメートは皆、私よりも上手なスイマーであること。そして2つ目は、リレーで10キロから12キロを泳ぐ権利を獲得するに値するスイマーになるためにはどうしたらよいのか、見当もつかないことでした。これらの発見が自分の水泳を劇的に上達させたいという気持ちを呼び覚ましました。どんな努力も惜しまない覚悟はありましたが、同時に賢く練習したいとも思いました。

チームメートの一人にTIの事を聞き、さっそくTIのウェブサイトを読み漁ると、いくつかの興味深いポイントに惹かれました。段階的なアプローチでスイマー達を白紙に戻して、それから技術を積み上げるという練習法はとても気に入りましたし、また効率のよい泳ぎの概念は、海を横断する遠泳を必要とする私のようなスイマーには、非常に興味深いものでした。さらに、「あれもだめ、これもだめ」といった方式ではない、すなわちスイマーの一人一人が、自分のペースにあわせてどんな環境でも方法に縛られずに上達を試みることができるTIのリラックスした雰囲気を感じました。

練習の半分は、マスターズチームと一緒で、TIのフォーカルポイントやストローク・カウントのエクササイズはおろかテクニックのドリルもままならない、泳ぐ量やタイムばかりを重視するものでした。それでもなお、カンタン・クロールのDVDを見たり、時には一人静かにプールで単独レッスンを試みながら、ドリルを通して上達し始めました。躍進したと感じた日があったかと思うと、次に水に入ると何事もなかったかのように後戻りしていたり、ストロークの基本を体に叩き込むのにはとても時間がかかりました。それでも、ただプールの端まで泳ぐのではなく、各ストロークが目的を持ち、練習を重ねるうちに着実に上達していくのがわかりました。

ゆっくりと、マスターズの練習にTIの原理を取り入れて泳ぐ方法を見つけました。また、「体を伸ばして抵抗を減らす。」「キャッチの前に手にアンカーをかけ、すぐにプルしない」など、トレーニングの前に自分の机で2つか3つ、TIの原理またはフォーカルポイントをメモすることで各セットそしてストロークの1つ1つをTI方式の練習にすることができます。こうして、バタフライまでもが上達し、泳ぎ全体がずっと上達しましたが、海峡横断ではさらにその効力を発揮するでしょう。

もっとも根本的な違いと言えば、私の水泳をする心構えが変わりました。以前は、必要な距離を泳ぐことのみに専念していましたが、TIを知ってもっと洗練された、知的なアプローチで泳ぐようになりました。現在は、水泳を「すばらしくシンプルで、非常に複雑」であるという両面性を持った芸術であると認識しています。そして、この矛盾を一まとめにしながら前進するプロセスが、水泳を頭と体を使うエクササイズとして楽しめるようになった一因です。

数日前に、大会までの残り数ヶ月のトレーニング・プログラムの計画を立てていました。ドーバー海峡近くのシェークスピア・ビーチをスタートしてフランスのグリネー岬に向かう大会前に、およそ180キロのトレーニングをすることに気が付きました。TIに出会う前なら、こんなとてつもない距離をどう泳ぐのか途方に暮れたでしょうが、今はただ次のストロークに神経を集中するのみです。

それに、イギリスとフランスなんて、大した距離じゃありませんよ。

アンガス・マッゴーエンは、オーストラリア人で1996年にロンドンで仕事をするようになって以来、気持ちはあるのにメルボルンの故郷に帰るチャンスを逃しています。帰りたい最大の理由はメルボルンには50メートル屋外プールがたくさんあるからです(ロンドンには1つもない)。リレーでは他のオーストラリア人選手のアダム・カイリコウとアンドリュー・ペックとともに7月にイギリス海峡を泳いで、英国のプリンセス・トラストと豪州のライフ・セービング・ビクトリアのために2万ポンドを集めました。両財団は共に、スポーツ活動の奨励を通じて環境を改善して生き物を救助することに貢献しています。
 ©Easy Swimming Corporation