米国トータル・イマージョンのテリー・ラクリンヘッドコーチが2007年3月に初来日しました。テリーは大阪のワークショップや町田のポスト・ワークショップ、さらに代々木のウェルカム・イベントと様々なTIのイベントに参加するだけでなく、千葉で開催されたロングディスタンス大会にも出場するなど精力的に活動しました。今回は日本のスイマーについての印象を語ってもらいました。(左写真は大会表彰式)
テリーとTIジャパン代表竹内

竹内:今回の旅行はオーストラリア、ニュージーランド、日本、そして台湾と長期間、様々な国を訪問されていますが、まずその目的について教えてください。
テリー:オーストラリアには古くからTIのフランチャイズがあったんだけど、今回責任者が代わるということで、その責任者と一緒にワークショップを行ったり、コーチ研修を行ったりして1ヶ月程度滞在したんだ。途中オープンウォーターの大会にも参加する予定だったけど、自転車で転んで肩を怪我したのでそれには出なかったのは残念だったね。
台湾は米国で出版されている「Extraordinary Swimming for Every Body」(邦題:カンタン・スイミング、6月中旬日本出版予定)が中国語で出版されるため、その出版イベントや広報活動のために1週間ほど滞在したんだ。
そして日本だけど、TIジャパンは世界のTIフランチャイズの中で最も早く、米国に次いで最も大きな規模になったので、その秘密を知りたくてワークショップやイベントに参加しようと思ったんだ。ちょうどタイミング良くロングディスタンスの大会もあったので、それにも出たかったしね。

竹内:月並みですが、まず日本に滞在しての印象は?
テリー:東洋自体が初めてだったんだけど、成田に着いてすぐに感じたのは、様々なサービスがそれぞれ非常にきめ細かく、ゆきとどいていることだね。アメリカだったら「勝手に自分でやってよ」というようなことまで丁寧に対応している。日本というのはそういう国だと聞いていたけど、聞くだけなのと見るのとではやはり違って驚きがあったね。
あとは料理がとてもおいしい。とくに漬け物!(笑)モスバーガーも地元に欲しいくらいだね。自宅では玄米茶をよく飲んでいるんだけど、ほうじ茶の方が好きかもしれない。
竹内:京都のデパ地下で漬け物をいつまでも試食していて、お店の人にあきれられていましたね(笑)。

大阪のワークショップ

竹内:大阪のワークショップに参加してみて、いかがでしたか?
テリー:一番驚いたのは、参加されたお客様がいともカンタンにバランスがとれるようになっていったことだね。アメリカのワークショップなら2時間たっぷりかけないとスケーティングはできないんだけど、日本では20分ぐらいで誰もがバランスがとれた姿勢ができているんだ。過去の水泳の経験の違い(米国では学校で水泳は習わない)というのもあるのかもしれないけど、胴が長いのは相当有利に働いているみたいだ。

竹内:その極端な例が「静止ジッパー」ですね。キックをしないで、ジッパースケートの姿勢を維持することはバランス感覚を磨く必要があるのでかなり難しいのですが、日本人ならそれがそれほど難しくない。
テリー:そうそう。コーチでもない一般のお客様が静止ジッパーをしているのを見て、私もできそうだと思ってやってみたけどお客様みたいにはできなかった。バランスをとろうとして足がどうしても動いてしまうんだ。

ソフトなタッチでサポート

竹内:日本人は足が長いことに憧れますが、胴が長くていいこともたまにはある。
テリー:お客様と並んで写真をとると、私の腰の位置にみなさん驚かれるのだけど、こと水泳についてはこれが不利になる(笑)。あと印象的だったのは、皆さんが「考える水泳」を忠実に実践していたことだね。ディレクターやコーチのアドバイスを自分なりに消化して、それを泳ぎに反映させることが非常にうまい。だからカイゼンできるポイントを説明するだけで、すぐに上手くなっていくんだ。

竹内:TIスイムの特徴である「考える水泳、感じる水泳」がワークショップの初日でもうできている。
テリー:その通り。アメリカのワークショップで言えば、土曜日に習得する情報量はものすごく多いので、日曜日の朝のプールセッションではお客様が混乱しないように細かく復習するのが普通だけど、日本の場合は土曜日に練習したドリルを2回も繰り返せばポイントを確実に思い出して練習しているんだ。すごいことだね。

竹内:ワークショップ経験者だけが参加できる「ポスト・ワークショップ」はいかがでしたか。
テリー:特にテーマは決めず、参加された方のクロールやドリルを見て内容を決めようと思ったのだけど、最初のクロールの撮影のときに皆さんあまりにも上手なものだから、「教えられることがあるのかな?」と実は不安になったんだ。ジッパースイッチも上手だったんだけどアンダースイッチでいくつかのカイゼン・ポイントが見つけられたので、アンダースイッチを中心に磨くことに決めたんだ。

ポスト・ワークショップ

竹内:日本でこれまで取り上げていないフォーカル・ポイントがいくつも出てきました。
テリー:そのようだね。シンジは米国に住んでいて、私とも頻繁にコンタクトをとっているけど、ここ最近2、3ヶ月のスイムスタジオでの指導内容はこれまでにないものが多く含まれているんだ。これらはアメリカに居るコーチや世界のコーチにもまとまった形で伝える余裕がないくらい進化していて、今回はその最先端の指導内容をポスト・ワークショップに盛り込んだんだ。特に左右のバランスは、一通りドリルができるようになってラクに泳げると感じたらぜひ次に取り組んでもらいたいテーマだね。息継ぎや速く泳ぐのにも左右のバランス感覚はとても役に立つよ。

竹内:ワークショップ後のビデオでは、みなさん見違えるように美しく泳いでいましたね。
テリー:私はこれまで30年以上コーチをやってきて、TIを始めてから18年目になるけど、こんなにきれいに泳げる人たちを見たことがない。ポスト・ワークショップに参加する方達はもちろんTIスイムをよく練習しているのだろうけど、勤勉で熱心な姿勢が成果となって表れている。本当に素晴らしいことだね。

竹内:ポスト・ワークショップ後に行ったアンケートでは、テリーの指導の姿勢について「非常に親切」「きさくだけれど信念を持って接していることがわかる」というような声が非常に多く、日本のコーチも参考にしたいと思っています。
テリー:私はスイマーであると同時に、根っからのコーチ職人だと思っているんだ。自分で泳いでいるときと同じぐらい、人に水泳を教えるのも楽しくてしょうがない。自分の言葉が通じない国で指導するのは初めてで、ちょっと不安だったんだけど、逆に言葉を使わずに指導するというのも一つのスキルだと痛感したよ。そして理屈ではなく実践することが大切なんだよね。日本のコーチ達はよくやっているけど、少しトークが多いかもしれない。もっと良い見本、悪い見本をどんどん見せて、どんどん試してもらうといいね。
竹内:
日本のコーチのトークが多いのは、私の指導方法による影響が大きいと思います。反省します。言葉を使わずに指導できれば、どんな国の方でも日本のコーチが相手にできるのでとても魅力的だと思います。
テリー:台湾では出版会社の社長自らが書籍を売り込んでくれたおかげで、発売直後からベストセラーになったんだ。日本のコーチも国際化に対応しなければならない時期はそれほど遠くないね。

竹内:日本のTIスイマーの属性については、どのような印象を受けましたか?
テリー:アメリカではトライアスリートが全体の6割近くに達しているので、ワークショップやスイムスタジオの参加者も30代から50代の筋肉質の男性・女性が多いんだけど、日本は水泳を趣味で楽しむフィットネススイマーが多いこと、それに60代以上の方も積極的にワークショップやスイムサロンにいらしていることが印象的だったね。ワークショップでは70歳の方が参加されていたけど、見た目は30代といってもよいくらい無駄のない、スマートな泳ぎだったのでびっくりしたよ。スイムスタジオにも70代後半の方がいらして、バタフライを泳いでいたのには驚いた。TIなら誰でもラクに、きれいに泳げるということを本当に様々なタイプの日本のスイマーが実践していることには本当に感謝しているし、感動しているよ。

竹内:ウェルカム・イベントはいかがでしたか。イベントの前にトライアスリートを対象に体験レッスンも行いました。
テリー:SWIM誌、そしてトライアスロン・ジャパン誌の方々のご協力により、レッスンやイベントの様子を広く日本の方に知らせることができてとても感謝しているよ。TIの歴史のなかでも、これだけの誌面を割いて取り上げてくれたことは米国を含めてかつてなかったことなんだ。これまでTIについて取り上げてもらった誌面を見たけど、米国の雑誌に比べて非常に完成度が高く、TIのことを正しく伝えているのでとても満足しているよ。今回の記事が掲載された号は宝物になるよ。

ロングディスタンス大会に参加

竹内:最後にロング・ディスタンス・スイミング大会に出場しました。本当は怪我により欠場だったのですが…
テリー:習志野のプールを見た瞬間、今までこんな素晴らしい場所で泳いだことがなかったのでとても興奮したんだ。そしてアップをしてみたら、思ったより肩が痛くなかったので3000mにと1600mリレー(400m×4)に出場することにしたんだ。そのときまでほぼ1ヶ月練習していなかったのと、肩が心配でセーブしながら泳いだんだけど、まあまあのタイムで結果(年齢区分2位)には満足しているよ。来年は大会記録を狙いたいね。

竹内:ということは来年も訪日する予定ですか?
テリー:マスターズの世界大会がオーストラリアのパースで4月下旬に行われるので、その前に日本に来ることを考えているんだ。台湾も市場が大きくなりそうだし、アジアに来る回数はこれからどんどん多くなるだろうね。

竹内:最後に、日本のみなさんにメッセージをお願いします。
テリー:日本のみなさま、TIスイムを支援してくれてありがとうございます。楽しく水泳ができるように、これからもTIスイムはみなさんのお手伝いをしていきますのでよろしくお願いします。今回お会いできなかった方達も、ぜひ次回お会いしましょう。ハッピーラップス!

 ©Easy Swimming Corporation