練習の最後に体にたまった乳酸を排出した方がいいことは、皆さんすでにご存知ですね。では、筋肉に取り込まれてしまった「完璧には程遠い動き」を消去して、次の練習までの期間、体や神経に流れるような動きを「記憶させる」ためにはどうすればいいのでしょうか。

賢いスイマーは、日々の運動の前に筋肉や関節を段階的にウォームアップするメリットを理解しています。しかし私たちの多くはこれらのスイマーとは異なり、日頃余り活動的でない生活を送っているので、いきなり体を激しく動かすことで怪我する可能性も高いと言えます。

同じことは運動した後のクールダウンについても言えます。運動生理学によると、各練習の最後にウォームアップと同じプロセスとしてクールダウンを行うことが非常に大切なのだそうです。私たちの体は、静止した状態から突如として集中した運動をすること以上に、激しい動きから急に静止することに対応できないのです。ある程度体を動かして運動をすると、乳酸や他の代謝物質を含んだ血液が筋肉に流れ込みます。そして運動を突然ストップしてしまうと、これらの「有害な」化学物質がその場に留まり様々な筋肉の損傷を引き起こします。クールダウンが、これらの化学物質を筋肉から取り除いて、さらに肝臓に送り込んで処理する作用を促し、次の練習にむけて体全体を気分よくリフレッシュしてくれるのです。

私自身は最近、クールダウンのもう一つの大切さがわかってきました。練習の最後にダラダラと「怠惰な」ラップを数回泳ぐよりは、その時間を効率のよい魚のような泳ぎに磨きをかける時間に置き換えることができるのです。

●セッションを成功とともに終える

数年前、ゲイル・モナロイというプロのスピーチ・セラピストと知り合いになり、彼女のセラピーのセッションを実際に見学する好機を得ました。ゲイルは、梗塞や様々なタイプの痴呆を患った人のリハビリに素晴らしい成果を収めてきました。そして彼女が、長い時間をかけて話せないどころか、音を発することもできなかったような患者を理解できる会話が成り立つようになるまでに回復させるのを見てきました。

ゲイルが、セラピーの各セッションの最後に、患者が正しくできる何かを必ずさせることに気が付きました。セッション中に患者は、話す練習課題で多くの失敗を繰り返す場合もあります。しかし、たとえ多少セッションが伸びたとしても、彼女は最後に必ず患者がスムーズに言える何かを使ってセッションを終えるようにしています。その理由は、「最後にしたことが次のセッションまで患者の心に焼き付いているから。」だそうです。

これと同じ法則が私たちの水泳の練習にも理論的に当てはまることに気が付きました。皮肉にもスイマーたちは、時には疲労困憊して手足がバラバラになりながら練習やドリルを続けてしまい、結局次の練習日まで、その散漫になったストロークのテクニックを心に焼き付けて練習を終えることになります。そして、体内に残った乳酸の有害物質が三頭筋を「汚染し」、その機能が低下してしまうという有り難くないおまけつきです。

完璧なテクニックに焦点をあてたクールダウンは、プールを後にする前に体全体の神経にポジティブな動きを刻むまたとないチャンスを与えてくれます。クールダウンをする頃はおそらく疲れて無気力な状態であることが多いので、できる限りその日の練習全体の中でも、最も流れるような、完璧なフォームを目指してストロークなりドリルなりを集中して行ういい機会になります。

●ベストを最後に残す

クールダウンとしてどんなストロークやドリルを行えばよいのでしょうか。それはあなた次第です。おそらくあなたが一番スムーズにこなせる、あるいはやって最も楽しく感じる、あるいは毎回気分よくこなせるストロークやドリルを選ぶとよいでしょう。もし手を脇にしたボディードルフィンはスムーズに効率よく泳げるのに、手を伸ばしたボディードルフィンになるとどうもしっくり行かないという場合は、手を脇にしたボディードルフィンの練習をクールダウンに使います。もし、トリプルスイッチは継ぎ目なく効果的にできるのに、クロール全体のストロークはスムーズにこなせないという場合は、クールダウンにはトリプルスイッチを行います。

以前1週間のTIインストラクターのワークショップに参加した際に、クロールのストローク技術として継ぎ目のないスムーズな動きを新たなレベルに到達させることができました。その週はTIのシニア・コーチ陣から手ほどきを受け、さらに幸運にもシェーン・グルドの美しく効率のよいストロークのテクニックを観察することができました。そして、トリプル・オーバースイッチを泳いでいた時のこと、「ボブ、完璧だよ!それをしっかり体に焼き付けておくんだ!」と、プールサイドからテリーが叫ぶのを聞きました。

泳ぎの効率が新しいレベルに達したことで、ストロークの他の非効率な部分を認識するようになりました。ワークショップの前には、自分ではほぼ完璧だと思っていた息継ぎも、さらに磨きをかけることができたクロールのストロークに比較するとまだまだ問題点を残していることに気が付きました。フリップターンに関しても、体をストリームラインに伸ばす直前でしっくりこない部分があることに気が付きましたが、これは簡単に修正できました。

そんな訳で、今のところクールダウンは、50メートルのトリプルスイッチをしています。その際、完璧なバランスを維持し、「袖に腕を通す」入水(「シェーンの入水」と呼んでいる)をしながら、片側でのスケーティングの姿勢から反対側にしぶきを立てずにリズミカルに回転すること、そしてスムーズなフリップターンなどに集中するようにしています。(稲妻のように速いフリップターンを除いて)ペースはゆっくりで、大抵はラップごとに4回から5回オーバースイッチをし、次の練習のウォームアップは、同じドリルでスタートします。ウォームアップのドリルも次第にクールダウンのようにスムーズに泳いでいることに気が付きました。そして、この継ぎ目のない流れるような泳ぎの感覚が、練習中にストロークの非効率な部分に敏感に反応するようになりました。

ボブ・マカダムスは、1999年2月にTIクロールのワークショップに参加して手応えを掴んで以来、TIディスカッション・ボードに熱心に参加するようになりました。また、2002年にはTIティーチング・プロフェッショナル・コースを修了しました。以降ボブは、TIキッズ・キャンプのコーチ、TIクロール・ワークショップのコーチ、そして、プライベートでTIコーチを務めています。ボブはまた、マスターズ・スイマーとして競泳にも参加し、自身の水泳の改善も図っています。
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