●すればするほど疲れる息継ぎ
息継ぎを技術として学んでいない子供達のクロールを見ていると、息継ぎするときに「水中にある手を下方向に押して」「頭を出した」姿勢になりますね。これは水中における人間の本能の動きなので、クロールがある程度泳げる大人でも多かれ少なかれ同じような姿勢をとっています。頭が1センチ水上に出ると足は10センチ沈むので、このような息継ぎの姿勢のときに足が30〜50センチ沈むことは珍しいことではありません。足が沈めば体が立った状態になるので水の抵抗がいっきに増えます。また足を浮かせようとして一生懸命キックをするので疲れます。つまり息継ぎすればするほど疲れるのです。
また息をたくさん吸おうとするあまり、顔を水面に出している時間を長くとろうとする動作もよく見かけます。息継ぎに時間をかけるほど、片方の手は水面から上にあるために浮力が減って体は沈んでいきます。沈もうとする体を支えようとして、水中にある手をさらに下に押そうとするのです。そうなるとさらにバランスが崩れ、水の抵抗が増加します。このような悪循環が「息継ぎは疲れる」「息継ぎは難しい」につながるのです。
●抵抗を減らすためには
それでは疲れない息継ぎを行うにはどうすればよいでしょうか。バランスをとり、抵抗の少ない状態で行えばよいだけです。このためには以下の3点がとても大切です。
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息継ぎのときに頭を持ち上げない。
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呼吸動作は素早く行う(吸う時間を短くする)。
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呼吸動作を体幹の回転と連動させる。
抵抗の少ない息継ぎの見本はこのページ下のビデオで確認してください。連続写真で分析すると、
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入水する手を伸ばす勢いを使って体を回転させ、その回転に合わせて頭も回ります。頭から回そうと意識しないことで頭と体の回転軸が一致し、頭が持ち上がらなくなります。(2)
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このときクロールの一連の動作の中で最もスピードが上がっています。頭が完全に水没していても、頭が前に進むことに伴って頭の前方に波が発生し、その波により顔の回りの水位が低くなります。3)の写真を見ると、顔は通常の水面より低い位置にあるにもかかわらず、水面がさらに低くなっているので呼吸できるわけです。
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下の写真では、右手が水中に出たら息を吸い始めています。その前には十分息を吐いておかないと、口が水面に出たときにすぐに吸い始めることができません。空中の手が自分の顔を通る頃には呼吸は終わります。呼吸はこの時点で終わらないと、手の入水動作を推進力に効率よく転化することができません。ちなみに手首から先がいかにリラックスしているかも見てください。
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手が入水した後に、鼻から息を出しながら勢いをつけて手を伸ばします。ウェイトトレーニングで重いものを動かすときに息を吐くのと同じです。息継ぎの前の入水動作(左手)では体の回転動作に一部推進力が充てられましたが、右手の入水動作では手の入水が全て推進力に注がれるので、左手のときよりもストローク長は伸びます。
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1)左手を入水します。 |
2)入水する手を伸ばした勢いで体を
回転させます。鼻から息を出します。 |
3)右手が水中に出たら息を吸いはじめ
ます。 |
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4)右手が頭を通過したら息を吸い終わり
ます。 |
5)右手を入水します。入水直後までは
手首の力を抜きます。 |
6)鼻から息を出すことで伸ばす手に
勢いをつけます。 |
●抵抗を減らす練習方法
まずはスケーティングの姿勢から、伸ばした手を維持したまま頭と体を回転させて、顔だけを水面に出して深呼吸するスニーキーブレスの練習を行います。顔は真上を向くので、体はかなり開いても構いません。頭頂部からお尻にかけて串刺しになったとイメージして、体の回転は串を回すだけ、軸を維持することを常に意識してください。顔を水面に出す度に最初は2回深呼吸をします。
次にスニーキーブレスの状態から3かきを加えます。3かき−スニーキーブレスを繰り返すことで、軸を動かさずに呼吸をする感覚を身につけましょう。2回深呼吸に慣れてきたら、1回深呼吸にして練習し、さらに慣れてきたら通常の息継ぎのタイミング程度まで顔を上に向けている時間を減らしていきます。
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3ストローク−スニーキーブレス |
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抵抗の少ない息継ぎを実現するためのドリルです。3かきしたら伸ばした手を残した状態で体を回転させます。顔は水面すれすれに出します。 |
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抵抗の少ない息継ぎ |
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往復とも右側で毎回呼吸していますが、バランスがとれ、軸が固定しているため頭を水没させたまま息継ぎができています。抵抗が少なければ息継ぎは多いほどラクに泳げます。 |
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