この言葉は、今でもはっきりと脳裏に焼きついています。それは、高校の体育の時間でした。器械体操の練習で、各自割り当てられた様々な器具(鞍馬、吊り輪、平行棒、鉄棒)で練習をしている最中でした。すべての器具をカバーするだけの教員が不足していたために、より才能のある数人の生徒がインストラクターになって他の生徒を教えていました。私は、鉄棒のごく簡単な基礎運動ができずに苦心していたので、学生インストラクターの一人に教わることにしました。
私がやるのを見て、そのインストラクターは「スウィングが全くなってないね。」と言いました。私は「わかってる。」と答え、「どうしたらいいだろう。」と聞きました。彼の前でもう一度やってみました。すると、彼は低い声で「まぁ、あきらめな」と吐き捨てるように言いました。

オリンピックの器械体操選手になるつもりなど毛頭ありませんでしたが、彼のコメントを思い出すたびに、今でもやりきれない気持ちになります。しかし、「ほとんどの」とは言わないまでも、「かなり多くの」スイマーは、水泳や他の競技に限らず何らかの場面でこのような評価を下されて傷ついた経験があるのではないでしょうか。そのために、TIドリルの1つで躓いた時、また同じことが起こるのではないかという不安に駆られるのです。

それは、コーチの口から「まだ」(例えば、「まだ、、、ができない」の様に)という言葉を耳にする時に顕著に表れます。「まだ」は、すでに説明したにも拘らず、いまだ改善する努力がなされていないと暗に示しており、彼らは途端に不安におののきます。

「ああ、もう諦められてしまうのか。」
「到底、身につかないと思っているのかな。」
「望みゼロだと思われているんだろうか。」
「私にばかり時間がとられると苛立っているのかな。」
「すぐにでも『まぁ、あきらめな』と言うつもりなんだろうか。」

私の場合、「まぁ、あきらめな」という学生インストラクターのアドバイスに(少なくとも文字通り)従わずに、今でも鮮明にこの時のことを覚えています。また今なら何故できなかったのかがはっきりとわかります。仮にタイムマシーンに乗って過去の若い私をコーチする機会を得られたら、10分もあればつっかえていた基本動作をスムーズにやりこなせるように教える自信があります。そして、それは双方にとって満足のゆく経験になったことでしょう。

学生インストラクターの問題点は、鉄棒からスウィングする過程を彼自身が全く本能的にできたために、その動作について考えたこともなく、従って、私にそれを説明できなかったのだと思います。そして、「まぁ、あきらめな」という彼のコメントは、彼自身がインストラクターとして失格である事実を合理化する独自の方法だったのです。

悪い(できない)生徒は一人もいない、いるとすれば悪いインストラクターだけ。」というのが、TI方式の大前提の1つです。生徒が特定のドリルを習得するのに手こずっていたら、教える側として最も大切なのは、「望みゼロ」とか、「きみらはもうお手上げ」などということは絶対にしないと生徒にわからせることです。

TIプログラムを長く経験する人なら誰でも知っている通り、使われるドリルは長い間に、顕著な進歩を遂げました。それは、効率的な泳ぎの科学が変化したからではありません。さまざまな年齢やバックグラウンドを持つ多くのスイマーたちを長年トレーニングした経験を生かして、TIが効率的な泳ぎをいかに効果的に教えるかという教授法における継続的な改良を重ねてきました。しかし、そのトレーニングの最も重要な要素として、常にTIのインストラクターたちに寄せられる生徒達からのフィードバックがあります。

映画「アポロ13」で、フライト・ディレクターの言った言葉を思い出します。彼がミーティングでスタッフと、乗組員をいかに安全に地球に連れ戻すかを話し合う際に、「失敗という選択はない。」と言い放ちます。これこそ、私たちがそれぞれの生徒に対する心構えであるべきです。生徒全員が、(たとえば1回のワークショップで完璧にストロークをマスターできるようになるなど)特定の時間内に完全習得できるという保証はできませんが、「効率よく、魚のように泳ぎたい」という熱意とやる気さえあれば、私たちは必ず彼らの目標を達成させ、失敗させることはないでしょう。

ボブ・マカダムスは、1999年2月にTIクロールのワークショップに参加して手応えを掴んで以来、TIディスカッション・ボードに熱心に参加するようになりました。また、2002年にはTIティーチング・プロフェッショナル・コースを修了しました。以降ボブは、TIキッズ・キャンプのコーチ、TIクロール・ワークショップのコーチ、そして、プライベートでTIコーチを務めています。ボブはまた、マスターズ・スイマーとして競泳にも参加し、自身の水泳の改善も図っています。
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