2006年4月にフロリダ州で実施されたTIのスイムキャンプに参加しました。「生徒」になるのは実に2年ぶりです。昨年は「芸術的に美しく泳ぐ」ことを目標に技術を磨いてきましたが、国体やマスターズに出場するコーチや、アイアンマンにも出場するトライスロンのコーチがTIに参画し、「速く」泳ぐためのTIのカリキュラムづくりを急ぐ必要があったことがキャンプ参加の目的です。(竹内慎司)
●生徒としての参加は2年ぶり

TIのレッスンをお客様の立場で受けるのは、2004年5月のコーチ研修と同時に受講したワークショップ以来なので、実に2年ぶりでした。特にTIジャパンを設立した2005年6月以降は、お客様やコーチに教えることばかりでしたので、自分の教え方を見直すよい機会にもなりました。

フロリダの青い空

キャンプといっても、テントを張って飯盒でご飯を炊いてカレーを作る、のではありません。数日間寝食を共にして様々なアクティビティを行うことを米国ではキャンプと呼んでいます。今回のスイムキャンプは、マイアミから車で1時間程度のところにあるフロリダ州のフォート・ローダーデールというところで5日間にわたってTI流の泳ぎや練習法を学ぶというものです。

記録的な多雨でどんよりした天気のサンノゼ空港から、ダラスで乗り換えてフォート・ローダーデール空港に到着したのは真夜中でした。予約していたコンパクトクラスのレンタカーがなく、同じ料金でコンバーティブル(オープンカー)を借りることができたのはラッキーでした。泊まっていたホテルは長期滞在型で、キッチンもあるので自炊することも可能です。

翌日、焼きつけるような日差しの中、キャンプがスタートしました。参加者は私を入れて6人、コーチは4人です。私はコーチも兼任なので、ほぼマンツーマンという贅沢な状況でした。テリーはスイムスタジオでの練習に熱が入っているせいか、10月に会ったときよりも幾分やせた印象です。

スケジュールはプールセッションが午前8時から10時、午後2時から4時に組まれ、午後4時から5時までがルームセッションです。午前10時から午後2時までは休みですが、コーチは今年発売する平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎのDVDのためのビデオ撮りがあります。
プールセッションの前には地元のマスターズチームの練習に午前6時から参加したり、空き時間に泳いだりしていたのでほとんど1日プールに入っている状況でした。

会場のアクアティックセンターは全米マスターズ選手権も行われる大きな施設で、25ヤード/25メートルプール、50メートルプール、ダイビングプール、ティーチングプールを備えています。朝5時オープン、夕方6時クローズで、朝の6時にはすでにかなりにぎわっているのには驚きました。キャンプでは午前中50メートルプール、午後は25メートルプールで練習しました。

●目的のある練習メニューづくり

テリーによる直接指導

今回のキャンプの大きなテーマは「練習方法」です。速く泳ぐため、ラクに泳ぐためにはどのような練習を普段行えばよいのかについて、実際にその練習を行うことで理解していきます。ワークショップではドリルという技術の習得を目的にしていますので、今回のキャンプで行った内容はワークショップを卒業した方にとって最適の内容であると感じました。またドリルの新しいフォーカルポイントについてもいくつか実践しました。これらのフォーカルポイントはすでに日本でもワークショップで行っているものなので、アメリカでの反応を見るよい機会になりました。

練習の大前提は「目的がはっきりしたメニューを作る」ことです。その場しのぎでドリルやフォーカルポイントを決めて泳いでも、細かな調整はできるかもしれませんが、全体のスキルアップにはつながりません。といってマスターズスイマーやトライアスリートなど競技をしているスイマーを除いて、一般の方は堅苦しい目標まで設定する必要はありません(目標が達成できなかったときに楽しくなくなるため)。月ごと、あるいは週ごと、さらにその日のテーマを決め、そのテーマに沿って練習メニューを作ればよいのです。ラクな息継ぎがテーマであれば、まずスケーティングの姿勢を安定させ、次にスニーキーブレスで頭の回転を意識、そしてジッパースイッチで息継ぎする側の手のリカバリー動作に細心の注意を払うといったことをメニューにします。

練習メニューを作るときに気をつけることは以下のような点です。

 ・ドリルを最低でも3〜4割入れる。
 ・25m泳ぎきることにこだわらない。途中でやめたら引き返せばよい。
 ・25m×4、50m×6など複数回泳ぐ場合には毎回異なるフォーカルポイントを試すこと。
 ・多くの回数を泳ぐときにはカウントするものを用意する(ラップタイマーやプルブイ)

●速く泳ぐための「戦略」

また私が参加した目的である「速く泳ぐ」についても、これまでのコーチ経験をふまえてテリーが詳細に説明をしてくれました。
その中でも、「速く泳ごうと思っては失敗する。速く泳げる状態を維持する。」という考え方はとても新鮮でした。速く泳げる状態とは、効率が維持できる限界の速度を意味します。この速度を引き上げると同時に長時間維持することが、速く泳ぐための練習の目的になります。

このためにはまず自分がどの程度まで速く泳げるかを知る必要があります。これは壁を蹴りだしてから6〜10かき(平泳ぎやバタフライでは3〜5かき)を全速力で泳ぐことで感覚をつかむことができます。このときのスピードを維持しながら、ひとかきずつかき数を増やすために、全速力の状態のフォームのチューニングを行います。

このときに大切なのは「体のどの部分がリラックスできるか」を調べることです。全速力ということは体の全てが緊張状態になっていることがほとんどなので、ここから手足、体の緊張を除いても速度が落ちない場所を探していきます。リカバリーのときの前腕部や手の指先、プル動作時の手の指先、アップキック直後の足の指先などは推進力にあまり関係のない緊張なので、取り除くことが可能です。

また具体的なレース展開を考え、リバースエンジニアリング(逆方向からの分析)をかけてラップ毎に必要なストローク数やテンポを割り出すことも大切です。例えば100mを75秒で泳ぎたいときは、
 ・最初の50mは36秒、次の50mは39秒に設定(ラップ格差3秒)
 ・最初の50mのかき数を40とするとテンポは0.90秒(実際にはけのびもあるので1割程度早い)
 ・次の50mのかき数を42とするとテンポは0.93秒(実際にはけのびもあるので1割程度早い)
ということで、0.80秒程度の速いテンポで40ストロークにしなければならないことがわかります。

このときの練習方法としては、
 1)40ストロークになるテンポTを決める。
 2)テンポTから一旦0.1秒程度ゆっくりしたテンポT'で泳ぎ、2ストローク減らして38にする。
 3)テンポをTに戻す。ストロークは1増加の39に留める。
 4)テンポを0.1秒早めたT"にする。ストロークは40に留める。
この練習を繰り替えすことでストローク長を維持したテンポの底上げを図ります。

今回得られたメニュー作成や練習法については、今後ワークショップなどに積極的に取り入れたいと思います。

●バタフライ、平泳ぎ、背泳ぎの新しいドリル

キューバ料理店で

今回のキャンプのもう一つの目的は、今年発売予定のバタフライ、平泳ぎ、背泳ぎのビデオのモデルとしてドリルを泳ぎ、撮影することです。カンタン・クロールのカメラワークも基本的な部分はテリーが決め、娘のフィオーナが撮影したそうなのですが、今回の撮影でもテリー「監督」のこだわりにより何回もNGが出て、泳ぐコーチはヘロヘロでした。

とはいえ10月に私が本社を訪問したときに、テリーに紹介した日本で行っている和製ドリルも取り入れられていて、私自身は結構楽しんで撮影に参加しました。残りの分についてはテリーの自宅庭に5月に設置した屋外のエンドレスプールで撮影するそうなので、また本社を訪問する仕事が増えました。今年のテリーの仕事のメインはこのDVD作成なので、必ず出版されることでしょう。

これら3種目のドリルについては、6月17・18日に開催される日本のTIコーチのカンファレンスで紹介しますので、DVD出版前にも各地の練習会でお披露目があるかもしれません。

久々に生徒として参加したTIのレッスンは、非常に充実したものとなりました。できるだけたくさんの方にTIの水泳を楽しんでいただくためにも、私自身が常に技術を磨き、指導を受けることが必要であることを痛感した一週間でした。この経験を今後のワークショップやレッスンカリキュラムに積極的に活用していきたいと思います。

 ©Easy Swimming Corporation