●2ビートキックは体の回転の「きっかけ」に
クロールの一連のストローク(左右の手のかき)において6回キックすることを6ビートキック、2回キックすることを2ビートキックと呼びます。6ビートキックと2ビートキックを比べると、キックによる推進力は明らかに6ビートに軍配が上がります。しかしラクに、きれいに、速く泳ぎたいのであれば体の動きと連動した2ビートキックの方が優れていると言えるでしょう。
2ビートキックはキックの数が少なくなるため、キックによる直接の推進力や、キックにより足を浮かそうとする効果が弱くなります。しかし推進力は体幹のスイッチにより、また足を浮かすことについてはバランスのとれた姿勢を作ることでカバーすることができます。一方クロールは手の動きに合わせて体が左右に回転していますが、2ビートキックは左右の回転に対して2回キックすることになるので、体の回転と足の動きを結びつけることができます。そこで2ビートキックではこれまで考えられているキックの役割ではなく、体の回転を助ける役割を担うようにすれば、効率の良いキックを行うことができます。
具体的には「蹴る」というよりは「足で水を押す」という感覚です。足で水を押す反作用が腰の回転を生み、腰の回転が体幹のひねりにつながって入水する手を伸ばす力に変わるのです。「足で水を押す」状態は、最初に軽くひざを曲げるとやりやすくなります。ひざを曲げることで足の蹴り幅が極端に小さくなり、水の抵抗の少ないキックを行うことが可能になります。
下の連続写真では、左右の手の入水はいずれも反対側の足が蹴り終わってから始まっています。また入水した手が伸びきる前におへそが下を向いている、つまり腰が回転していることがわかります。野球でも、テニスでも、ゴルフでも、ボールに当てるときに体のひねりを使いますが、いずれも手よりも先におへそがボールに相対することになりますね。手が先にボールに向かってしまうことを「手打ち」と呼びますが、水泳でも全く同じことが言えます。
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1)右手のアンカーがかかります。 |
2)右ひざを下げてキックを始めます。 |
3)蹴り終わってから左手が入水します。 |
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4)左手が伸びきる前に腰を回します。 |
5)体のひねりを左手の伸びに変えます。 |
6)左手のアンカーをかけます。 |
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7)蹴り終わってから右手が入水します。 |
8)右手が伸びきる前に腰を回します。 |
9)体のひねりを右手の伸びに変えます。 |
●後ろから前に伝播する力
対角線の力を使って足が体の回転のきっかけになると、一連の動きは体の後から前に、つまり進行方向に伝播するように見えるのでとても自然です。一方手でかいて足でける(意識で泳ぐ)クロールでは、力の伝播の向きが前から後になるので水に逆らっているように見えます。つまり対角線の力を使う方がよりきれいに泳いでいるように見えることになります。
また足と手が完全に連動しているので、テンポの変化にも柔軟に対応することができます。例えば1ストロークあたり1.60秒という非常にゆっくりしたテンポから、それより1秒近く短い0.70秒という速いテンポでもすぐに合わせることができます。もともと足は6ビートという非常に速いテンポで動かすこともできるので、テンポの速さの限界は上半身によって決まります。50メートルや100メートルといった短距離では、6ビートキックでテンポ0.80秒にするよりは、2ビートキックでテンポ0.65秒にする方がスピード感も出ます。
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対角線の力 |
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足が回転のきっかけになり、力が後ろから前に伝わっているのがよくわかります。進行方向と同じ向きに力が伝わっているので比較的速いスピードにもかかわらず「流麗に」見えます。 |
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●対角線の力の練習方法
ランドトレーニングで足と腰の連動の仕方を理解したら、水中ではまずアクティブバランスドリル(左のフィッシュと右のフィッシュを交互に行う)を練習します。次にフィッシュのときに下側にある足で水を押すことで、腰の回転を生み出すようにフォーカスします。慣れてくれば常に下側の足で水を押して回転します。
次にシングルアームのアンダースイッチドリルを練習します。手が耳の脇まできたらキックを止め、体の下側にある足で水を押すことで腰を回転させてひねりを生み出します。手を伸ばして反対側のスケーティングの姿勢になったら、同じように体の下側にある足で水を押して腰を回転させ、同時に伸ばした手でアンカーをかけて体を滑らせます。シングルアームを25メートル行ったら帰りは両手を使ってアンダースイッチを行います。ジッパーも同様に行きはシングルアーム、帰りはダブルアームで行います。両手のときにも下側にある足で水を押すことで回転が生まれるように意識します。
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