最近、TIスイム・スタジオで1週間の集中トレーニングを受けにニューパルツに訪れた、メキシコ出身のプロ・トライアスロン選手、タリス・アプッド−マルティネスをコーチする機会を得ました。プロの運動選手と我々の違いのひとつに、彼らが体の動きを認識する能力に数段長けていることが挙げられるでしょう。タリスは、私たちが教える泳ぎのテクニックすべてをほぼ瞬時に体で理解し表現することができました。
多くのトライアスロン選手には珍しく、タリスは6歳から競泳の選手として泳いできました。しかしそれは利点と言うよりは、17年間かかって悪い習慣を身につけている状態でした。それとは対称的に、高校3年生で本格的にはじめたマラソンでは、今では世界で指折りのトライアスロン・ランナーになるまでに上達しました。どれほど長く練習をしたかより、どのように練習したかが大切であることを証明する一つの良い例です。

タリスの泳ぎを観察して、テリーと私は3つのポイントに集中して、彼女にクロールを指導することにしました。

  1. 頭の位置が高いためにバランスを崩し、続くストロークの流れを悪くしている。
  2. 速いストロークの回転が、キャッチ(かきはじめ)の効果を妨げ、疲れやすくさせている。
  3. 平たんに泳ぐため、体幹の回転による推進力を得られない。

幸いにして、タリスは私たちの指導を熱心に受け入れ、驚くほどのスピードで泳ぎのフォームを変えることができました。最初のエンドレス・プールのセッションでは、フィッシュとスケーティングから始めました。ストロークに必要な、バランスした感覚とストリームラインを維持した横向きの姿勢を身につけるのが目的です。そのセッションではジッパー・スイッチ、「イアー・ホップス」そして、オーバー・スイッチに進み、体幹の回転に結びつける練習をしました。タリスはこれらの新しい技術をほんの数分で身につけてしまいました。

しかし、他の生徒たち同様に、タリスも手を伸ばす時に手がコップの形に固まっていて、バランスを崩し、かき始めの効力を失う癖がありました。入水の際に手の角度を深く、伸ばしたままでいるように指導しましたが、なかなか思うように手が伸びません。2回目のプール・セッションでは、アンダースイッチを再度練習して強化することにしました。すぐに、前方にある鏡で常に伸ばした手の指が下に向いていることを確認しながら、腰の回転と同時にリードする手を入水できるようになりました。

これらの練習の際には、常にフィストグラブを着用して、手を使うのではなく体を回転させることに焦点を当てるようにしました。アンダースイッチ・ドリルをフィストグラブをはずして泳いだ時には、全く違うスイマーに変貌していました。彼女自身もこれらのフォームの変化をビデオで即座に確認できました。

普通の人ならば数時間かかる練習を、90分で完璧にこなしてしまうタリスの天才的能力に驚かされたのが1つと、エンドレス・プールの利点の他に、彼女が自分の動きを正確に把握していることが、大きな助けになりました。プロの運動選手と我々の違いのひとつに、彼らが体の動きを認識する能力に数段長けていることが挙げられるでしょう。タリスは、私たちの教える泳ぎのテクニックすべてを瞬時に体で理解し表現することができました。

エンドレス・プールでの特訓が、タリスの変身に大きく貢献したのは、邪魔されることなく、ストロークの細部に集中して、好きなだけ練習できたからです。ターンによって泳ぎをストップしないで済むので、オープン・ウォーターの練習にもなります。

エンドレス・プールの底にある鏡もまた、フォームをその場で確認修正するのに役立ちました。頭のポジションを正すのには、ただ底にある鏡で、鼻から息を吐いているのを確認してもらいました。(これによって、常に息を吐く癖もつきます)最後に、選手を常に傍においてその場ですぐに指導する際の利点を挙げなくてはいけません。ラップを泳ぎきるまで待ってから指導するより、時間もセーブでき、悪い癖を助長する心配もありません。また、水上と水中の両方での、様々な角度からのビデオ分析も可能になります。

オープン・ウォーター(湖で)の練習では、主にエンドレス・プールでの復習をしました。ミネワスカ湖では、決められたフォーカルポイントでスピードを変えて200メートルを何度か泳ぎ、さらには実際のレースで使う、目視確認、まっすぐに泳ぐ技術、大勢の人の中で泳ぐ方法などを練習しました。タリスはこれらのトレーニングを通して、探し求めていた「快適さと自信」を自らの泳ぎにようやく見出すことができたようです。200メートル全体の泳ぎを考慮してフォーカルポイントやタイミングを選び、ケーブルに沿って毎回泳いでもらいました。ただ、回数をだらだらと往復するのではなく、成功するレースのリハーサルに焦点を当てて、彼女が家に戻っても同じようにトレーニングできることが目標でした。考えながら、目的をはっきり持ってストロークを練習して欲しいと思いました。

50メートルプールでは、ホークス・チームの練習をタリスに紹介するために、より短い距離でのインターバルを泳ぎました。ワールドカップやオリンピック・トライアスロンにおける1500メートル遠泳競技では、スタートの時に必要ながむしゃらに速い特別な「装置」を身につけなくてはいけません。私たちはホークス・チームにどんなスピードにも対応する泳ぎの技術を教えてきました。タリスもまた、最初の100〜200メートルを全速力で泳いで、最初のグループに入り、その後少しペースを落として効率を失わずに泳ぎきる必要があります。

これまでのタリスの水泳トレーニング法は、距離をこなすトレーニングのセットから、技術の練習を切り離したものでした。テクニックの強化と泳ぎ全体の流れを継ぎ目なく織り込んだ、より独自性に富んだTIのトレーニング法を彼女に体験して欲しいと思いました。今メキシコに帰りついた彼女と、1週間のトレーニングのレビューをして、さらに焦点を絞った練習のアドバイスをしたいと思います。

世界レベルの運動選手を相手にコーチをする機会を得て、とてもエキサイティングな週を過ごすことができました。生徒たちが技術を身につけ、自信と情熱に満ちたスイマーに変貌するのを見るのは、何度経験しても素晴らしいことです。これからもタリスのコーチとして、2008年の大会に向けて彼女のさらなる進歩を見守りたいと思います。

ハッシュはホークス・スイム・チームのヘッド・コーチで、TIマスターのコーチ、さらにTIの泳ぎのフォーム指導のディレクターを兼任しています。
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