カイゼン・キック
 ペースクロックもなく、競争する相手もなくほとんどの距離を一人で泳ぐ…オープンウォーター(湖や海)の練習は、プールの練習とはひと味違ったものになります。私はこの3ヶ月間、自分の泳ぎのなかで効率の悪い部分を見直し、より泳ぎをコントロールできるように微調整を行い、様々なスピードにおいてリラックスし、効率を維持できるような練習を行うことができました。その成果は満足のゆくものでした。
 2004年のシーズンは全部で6つのレースで泳ぎました(シーズン最後、7つ目の1マイル・オープンウォータ・レースはハリケーン・フランシスのために中止になりました)。出場した6つのレースでは、前年のシーズンよりもはるかに泳ぎが改善され、タイムと順位ともに上回りました。50〜54歳グループでは6つのうち4つで優勝し、2つのマスターズ・ナショナルチャンピオンシップのイベントでは4位に入賞、何人かの若いグループの入賞者を上回りました。自分の泳ぎを評価する際、オープンウォーターの場合は天候などにより大きくタイムが変わるため、上位1割に入ることと、自分とごくわずかな差でレースを終えた人の他の戦績を判断基準としました。

 最後の2つのレースは8月8日にニューヨーク州ブリージー・ポイントで行われたケン・キリアンNYCオーシャン・マイル(約1,600メールトル)と、コネチカット州グリーンウィッチのアイランド・ビーチで8月15日に催された2マイル(約3,200メートル)・レースでした。最初のレースでは、タイムが19:52で250人の参加者の中で上位1割に属する15位入賞を果たしました。このレースには一般のマスターズのスイマーの他、多くのUSSクラブと高校生または大学生チームの10代から20代前半のスイマーたちが参加していました。さらに、TIコーチのリッチ・バルカンと後半4分の1マイルで、頭ひとつ抜いたり抜かれたりの接戦を展開しながら2秒差に詰め寄る、計画的戦術を使った満足のいくレースでした。リッチには過去数年間ずっと負け続けていますが、彼はプラシド湖のアイアンマン・アメリカで55分を記録したばかりでした。

 以前は、スタートでは全速力を出さずにスピードを維持または少しずつ上げて疲れたスイマーたちをかわす戦術を使っていました。しかし、とてつもなく広いレース開催地の場合、スローなスイマーたちのグループに混ざると抜け出すのに時間と労力をかなり費やすと考え、最初の100から200メートルで普段よりかなりペースを上げて泳ぎました。同じような速さの数人のスイマーたちとポジションを競い合ううちに、泳ぎに多少乱れが出たので、同じスピードでコンパクトに静かに泳ぐことに集中し、すぐにリラックスしてコントロールを取り戻しました。中間地点のブイに接近中、10メートルほど先にTIのキャップが目に留まりました。それがリッチであることはすぐにわかり、彼のすぐ後ろに続きました。4分の3マイルの間、お互いに数人のスイマーを引き離しながら、距離を少しずつ縮めてリッチの横に並び、最後のブイまで肩を並べて岸に向かいました。ちょうど運良く小さな波に乗って最後までペースをキープして泳ぎきることが出来ました。35〜39の年齢別グループの中でも際立って速い、手ごわい競争相手のリッチと対等に泳げた喜びは計り知れません。

 アイランド・ビーチ・レースはグリーンウィッチの町からロングアイランドサウンドの島まで参加者全員がフェリーで移動し、コースはそこからブイに沿ってグリーンウィッチに約1マイル向かい、またアイランドビーチに戻るというものでした。前回同様、最初にスピードを上げてスタートし、すぐにトレーニング・パートナーのデーブ・バーラを含む5人の若く速いスイマーたちのグループと一緒になりました。最初のマイルはペースを上げながらも静かにスムーズに泳ぐことに集中しました。コンパクトでリラックスしたリカバリー、きれいな入水と計算されたストロークからデーブをすぐに見つけることが出来ました。

 5人は固まってブイをターンしましたが、その後デーブが一人10ヤードほど私たちの先頭につきました。彼からあまり離れたくはなかったものの、まだ1マイル近く残っている事と、いつもより速度を上げて泳いでいることを考慮して、後を追う方法やタイミングに十分注意しなくてはいけないと思いました。半マイルを残して100ストロークほど入水時に力を入れて掻いて、グループを引き離しデーブの足元まで近づきました。残り300メートル地点で最後のエネルギーを維持しながら、ブイに沿って泳ぐデーブを眺めながら、フィニッシュがブイのラインから30度ほど左に逸れた所にあることを思い出しました。こうして、最後の500メートルをピッチを上げて泳ぎ切って49:32で8位入賞を果たしました。

 オープンウォーターのイベントでの「速い泳ぎ」をいかに定義するか、そしてそのためにどんなトレーニングが必要なのか、が今シーズンから得た教訓です。オリンピック開催中リッチ・バルカンに、トライアスロンのサイトであるSlowtwitch.comのフォーラムでどのオリンピック競泳選手が特に「TIのテクニック」で泳いでいるかについて討論してみたらどうかと勧められ、さっそくログインして200,400,1500メートル男子自由形での優勝者は全員、顔を下に向け、よりスムーズなストローク、そしてより少ないストローク数で泳いでいることを投稿しました。また特別なテクニックは別にして、私達の教える「もがきを練習しない」という原理についての説明も投稿しました。

 これは、レースで速く泳ぐためには「とにかく一生懸命泳いで疲れることを克服する」ことが大切であると信じる多くの人から、かなり大きな反響を呼びました。レースで効果的かつ効率のよい泳ぎを実現するには、コントロールを練習する方がより大切です。まずは遅いスピードでコントロールを学び、それからより速いスピードでそれを保持できるかをテストしますが、コントロールを失ってしまうほどスピードを出して泳ぐのは避けるようにするべきです。

 ペースクロックもなく、競争する相手もなくほとんどの距離を一人で泳ぐ…オープンウォーター(湖や海)の練習は、プールの練習とはひと味違ったものになります。私はこの3ヶ月間、自分の泳ぎのなかで効率の悪い部分を見直し、より泳ぎをコントロールできるように微調整を行い、様々なスピードにおいてリラックスし、効率を維持できるような練習を行いました。

 トレーニングには、5つの違うレベルでのストロークのスピードを使いました。

  1. パーフェクト:自己最高レベルの効率のよい泳ぎを発揮できるリラックスした状態。
  2. クルーズ:少しだけスピードを上げて、しかし30分以上ノンストップで同じ状態をラクに維持できる程度。オープンウォーターの長距離レースで最初の段階でこの状態を目指す。(例えば5千から1万メートル遠泳での最初の800メートル)
  3. ブリスク:さらに速く、レース自体のペースまたは感覚にほぼ近い状況。1マイルから2マイルのレースの半分の最初の4分の1で、自分がどのような状態になるかをシミュレーションしながら、いかに効率を保てるか自己能力をテストする。
  4. レース:本当の意味での高度な効率を維持する自己能力テストで、かなりの集中力を必要とする。1マイルレースの中間地点でこの泳ぎを再現できるように練習。
  5. レース・プラス:400メートルなどといった、短い距離でのレースでの感覚。オープンウォーターレースでも最後の100メートルから200メートルでのフィニッシュで使うストローク・プレッシャーやリズムの感覚を再現。

 トレーニング全体の10〜20パーセントを「パーフェクト」、30パーセントを「クルーズ」、30パーセントを「ブリスク」、10〜20パーセントを「レース」そして、1〜2パーセントを「レース・プラス」を目安に練習しました。今回オープンウォーターレースで好成績を残せたのも、全トレーニング時間の80パーセントにこの方法を使ってリハーサル・モードに自分を置いて練習した結果だと思います。

 こうして実際のレースでは、この方法で数え切れないほど練習を積んでいたため、すでに十分心と体の準備が整っており、どんな状況下においても対応して泳ぐことが出来ました。少なくとも3ヶ月のトレーニングが、一生懸命泳いで疲れに打ち勝つやり方よりも効果的で実践的な泳ぎをリハーサルする単独練習の方が実りがあるという裏付けになりました。

 大会シーズンを終えた今、水温の許す限りオープンウォーターでのトレーニングを続けています。家から程近いアウォスティング湖はまだ水温が暖かく、そこでほぼ毎朝泳いでいます。この湖にたどり着くまでには、35分の上り坂を自転車で走らないといけないので、十分すぎるウォーミングアップにもなるし、必然的にそのまま水温がどうであれ湖に飛び込みたくなります。アウォスティング湖での練習方法は、「プロセスを重視したトレーニング」の良い例であると言えます。私の9月15日に練習した例を見てみましょう。

 最初の1マイルをフォーカルポイントを使って泳ぎますが、1つのフォーカスに絞って100ストロークサイクルを繰り返し、それから次の100ストロークは別のフォーカルポイントを定めます。

  •  「ダイアゴナル・パワー」(キックと入水のタイミング)にフォーカスを当てた100ストローク。
  • 「操り人形の手」(リカバリーの際肘から下の力を完全に抜いてぶらぶらにした状態)にフォーカスを当てた100ストローク。
  • 「水を抱える」(ストローク開始前に出来るだけ長く、手と前腕に一定の水圧を感じる)感覚にフォーカスを当てた100ストローク。

 このような3X100ストローク(100ストロークごとには休憩を入れずにフォーカスを変えて)を最初の1マイルは3ストロークごとに息継ぎを入れて、4ラウンド行いました。このマイルは「パーフェクト」と「クルーズ」のスピードレベルで泳ぎました。帰りはペースを「ブリスク」にペースを上げて右側で連続6回息継ぎ、それから左側で同じように。この時にできるだけレースで実際に泳いでいる感覚を維持するようにします。ほとんどの時間、オープンウォーターのレースのある時点で各モードを使い分けることをはっきりと意識しながら練習しました。ラクなモードでのストロークは長距離レースに;速いペースのモードは短距離レースのシミュレーションに使いました。このようなトレーニングではストロークが1回として無駄になることはありません。

 ©Easy Swimming Corporation