運動を始めてからしばらくして、心拍数や酸素消費量が一定値となった“定常運動”の場合、1リットルの酸素消費は約5 kcal のエネルギー消費に相当しますから、1分間の酸素消費量を測れば、1分間のエネルギー消費量が求まります。つまり、この方法は1分間あたりのエネルギー消費量によって運動の強さを表すのと同じことで、最も基本的な運動強度の表示方法といえます。
さて、上記のように、体重のほぼ同じ人が同じような運動をすると酸素消費量は同じくらいになりますが、自分自身の感じる苦しさ(自覚的負担度)は、人によって異なります。同程度の運動をしても有酸素能力が異なると、自覚的負担度が異なってくることが分かっています。すなわち、有酸素能力―つまり取り入れることのできる酸素の最大摂取量―も考慮することによって、各人にとっての運動強度を表現できることになります。
■最大酸素摂取量の測定法
軽い運動からはじめて徐々に強くしていき、体力の最大限界まで運動強度を高めて体力評価を行なうテストを「最大負荷法」といいます。最大負荷法による測定は各地のスポーツセンター等で実施されているところがあります。
・最大負荷法T(呼気分析を行なう場合)
トレッドミル(ローラー状の上を走る機械)を使って、運動中の呼気ガス(および心電図、血圧値等)を採取し、結果を分析します。一般にはトレッドミルの勾配を2分毎に2%ずつ強めていき、本人がギブアップする(か、異常な兆候が見られて運動を中止する)まで運動を継続して計測する方法がとられます。
・最大負荷法U(呼気分析を行なわない場合)
最大負荷法Tは最も徹底した負荷検査法ですが、高価な呼気分析装置と熟練した技術者を必要とし、また呼気を採取するためマスクをつけて運動することが被験者の心身に余分の負担となる傾向があるため、呼気分析を行なわない簡便法が用いられることもあります。
トレッドミルを使って、軽い運動からはじめて徐々に強くしていき、体力の最大限界まで高めて体力評価を行なう点では同じですが、体力の限界となるまでの運動時間のみを測定します。最大負荷法Tを用いて予め多くの健常者から採取したデータから作成された運動経過時間―酸素摂取量回帰直線に、測定された運動時間をあてはめ、その時点に相当する酸素摂取量をもって最大酸素摂取量とします。
有酸素能力を極限まで発揮させるような運動を「最大運動」といい、それ以下の強度の運動を「最大下運動」といいます。「最大負荷法」のような最大運動よりも被検者の身体的負担度および被検者の心理的負担度の低い最大下運動で、最大酸素摂取量を測定する方法もあります。
・最大下負荷法T
トレッドミルまたは自転車エルゴメータを用いて、最大負荷法Tと同様の測定を行ないます。運動負荷法も途中までは最大負荷法と同じ要領で、2分毎に強度を1段階ずつ高めて測定します。自転車エルゴメータの場合には、回転数を50回/分で一定にして、2分毎に負荷を 0.25kp (=75kpm/min=12.5W) ずつ高めます。
そして心拍数があらかじめ計算しておいた目標値(目標心拍数)に達したら、その分の最後まで運動を続けた後運動を終了します。 目標心拍数の定め方はさまざまありますが、たとえば、スカンジナビア委員会の案では表1のとおりです。
表1:目標心拍数
年齢
|
最大心拍数
|
目標心拍数
|
20
|
196
|
175
|
25
|
192
|
170
|
30
|
187
|
165
|
35
|
183
|
160
|
40
|
179
|
155
|
45
|
175
|
150
|
50
|
171
|
145
|
55
|
167
|
140
|
60
|
162
|
135
|
65
|
158
|
130
|
これは最大心拍数のほぼ85%にあたります。 心拍数―酸素摂取量プロットから回帰直線を求めます。 予測最大心拍数=210-0.8x年齢 [または220-年齢] (→MHR推定) と回帰直線との交点を求めると、そこでの酸素摂取量の値が最大酸素摂取量[l/min] になります。
この方法の誤差は比較的小さいのですが、予測最大心拍数と実際の最大心拍数との間の個人差により多少の誤差が生します。
最大下負荷法U
呼気分析を行なわない点を除けば、最大下負荷法Tと同じです。 心拍数―時間をプロットし、回帰直線を求めます。予測最大心拍数での運動時間から「最大負荷法U」と同様にして最大酸素摂取量を推定します。自転車エルゴメータを用いた場合には、心拍数―運動時間のプロットから、自転車運動の効率(例えば23%)を考慮した補正を加えて、最大酸素摂取量を推定します。
この方法は最大心拍数の予測値に含まれる誤差と、時間―酸素摂取量関係(i.e.効率)の個人差にもとづく誤差を含みますので、前法よりも誤差は大きくなります。
・最大下負荷法V
自転車エルゴメータを用いて、負荷を3段階に漸次増やしていきます。被験者は自転車に乗り慣れていることが必要条件です。 3段階の運動強度を、1段目は軽い運動、2段目は中程度の運動、3段目は比較的強い運動となるように選定します。この選び方に絶対的な基準はありませんが、1段目は軽すぎず、各段階の間の差がなるべく大きくなるようにし、ただし3段階目が強すぎず、最後まで余裕をもって運動できることを目標に設定します。
表2が一応のガイドラインですが、まずこれを参考にしてテストを行なってみて、心拍数が表3の範囲内かそれに近かった場合には妥当な運動強度だったと判断します。
表2:3段階法の運動強度基準(kpm/分)
年齢
|
性別
|
1段階
|
2段階
|
3段階
|
20−39
|
男子
|
250
|
500
|
750
|
女子
|
200
|
400
|
600
|
40−59
|
男子
|
200
|
400
|
600
|
女子
|
150
|
300
|
450
|
60−
|
男子
|
150
|
300
|
450
|
女子
|
100
|
200
|
300
|
表3:3段階法の目標心拍数(男女共通)
年齢
|
1段階
|
2段階
|
3段階
|
20−39
|
110−120
|
130-140
|
150-160
|
40−59
|
105-115
|
120-130
|
140-150
|
60−
|
100-110
|
115-125
|
130-140
|
心拍数がこの範囲から大きく外れた場合には、運動強度を変えて再テストした方がよいです。運動時間としては定常状態になるのに必要な最低4分は各段階で確保します。 測定された運動強度−心拍数プロットから回帰曲線を求め、予測最大心拍数と回帰曲線の交点から、最大化負荷法U同様、自転車の負荷−酸素摂取量関係を考慮して、最大酸素摂取量を推定します。
この方法は簡便ですが、誤差はかなり大きくなります。
・最大下負荷法W(オストランド法)
適当な一定強度で運動を行なった後の心拍数から、対応表により最大酸素摂取量を推定する、もっとも簡便な方法です。 運動強度は6分継続した後の心拍数が120〜170拍の間になるように選びます。 そのためには、
- まず表4を参考に選んだ強度で運動を始めます
- 開始後2分目の終わりに心拍数が115〜150の間にあるかどうか判定します。
- 心拍数が115〜150の間にある場合は選択が妥当であるのでそのまま運動を続け、6分で予定通り終了します。
- 2分目終わりの心拍数が115以下の場合は強度が軽すぎると判断して、強度を表の1段高いものに切り替えてさらに5分間運動を継続してから終了します。
- 2分目終わりの心拍数が150拍以上の場合には、同様に強度を1段、場合によっては2段低いものに切り替えます。
- 得られた心拍数と運動強度をオストランドテスト判定表にあてはめ、最大酸素摂取量を推定します。[l / min]
- 次にオストランドの年齢補正表を用いて、係数Aを推定最大酸素摂取量に掛けます。
- 通常はこれを体重[kg単位]で割って体重当たりの値[ml/kg/min]に直します。
この方法のメリットは6,7分で簡便に測定できるところにありますが、誤差は時に20%にも達します。したがって最大酸素摂取量の絶対値を求めるためのテストとしては奨められませんが、トレーニング効果をみるときのように、同一個人の変化を追跡するのには用いることができます。
表4:最大負荷法Wの負荷強度の基準
年齢
|
体力
|
負荷強度(男子)
|
負荷強度(女子)
|
kpm/分
|
ワット
|
kpm/分
|
ワット
|
20−39
|
優れている
|
900
|
150
|
600
|
100
|
普通
|
750
|
125
|
450
|
75
|
劣る
|
600
|
100
|
300
|
50
|
40−59
|
優れている
|
750
|
125
|
450
|
75
|
普通
|
600
|
100
|
450
|
75
|
劣る
|
450
|
75
|
300
|
50
|
60−
|
優れている
|
450
|
75
|
300
|
50
|
普通
|
300
|
50
|
300
|
50
|
劣る
|
300
|
50
|
300
|
50
|
表5にここで挙げた各種運動負荷法の特徴と選び方をまとめておきます。
表5:各種運動負荷法の特徴と選び方
|
主な検査対象
|
VO2測定
|
VO2maxの精度
|
異常の発見率
|
主な必要機器
|
運動負荷
|
心電計
(モニターつき)
|
呼気分析装置
|
最大負荷法T
|
スポーツマンや運動によく慣れた人でVO2maxを正確に測定したいとき
|
○
|
最も高い
|
最も高い
|
TM(BE)
|
○
|
○
|
最大負荷法U
|
同上の人で医学検査に重点をおくとき
|
×
|
高い
|
最も高い
|
TM(BE)
|
○
|
×
|
最大下負荷法T
|
一般の人。医学検査として行なう場合には、モニタリングもあわせて行なう
|
○
|
やや高い
|
心電図モニタリングすれば高い、しなければ低い
|
TM or BE
|
(○)
|
○
|
最大下負荷法U
|
×
|
やや低い
|
TM or BE
|
(○)
|
×
|
最大下負荷法V
|
×
|
低い
|
BE
|
(○)
|
×
|
最大下負荷法W
|
健常者の集団
|
×
|
最も低い
|
最も低い
|
BE
|
×
|
×
|