ラクに泳ぐ、速く泳ぐには水の抵抗を減らすことが最も大切です。水の抵抗を減らすには3つの原則がありますが、今回は「伸ばして泳ぐ」について説明しましょう。体を常に伸ばした状態で泳げるようになると、見た目もとてもきれいになります。
●速度は「長さ」によって規定される

 1830年代のヨーロッパで、船のオーナーの間でスピードを競うことがブームになりました。当時は帆船しかなく、帆の大きさにも限界があったため、船のデザインが速度の鍵を握ると考えられていました。イギリスの船舶建築士のW.フルードは、水槽の中に様々なデザインの船を浮かべ、速度を調べました。その結果、他の条件が全て一定であれば、「船の長さが長いほど、速度を出すことができる」ことを発見しました。この法則はフルード則(船の速度は、その船の長さの平方根に比例する)と呼ばれ、船の長さの平方根で速度を割ったフルード数は現代の船舶工学や流体力学においても用いられています。

 この法則は水泳の世界でも当てはまります。筋力やフォームなどが同じであれば、背の高い人ほど速くなります。特に自由形は他の種目に比べてフォームやタイミングなどによる優位性が出にくいことから、有名な選手はいずれも190センチ〜2メートル近い大男ばかりです。そこまで背が高くない日本の選手が自由形で苦労するはずですね。

●水泳における「長さ」

 それでは背の低い人は背の高い人に勝てないのでしょうか?また背の低い人はどうすればよいのでしょうか?実は水泳は横になって泳ぐので、身長がそのまま体の長さに相当するわけではありません。クロールでは手の位置や状態(肘が曲がる、伸ばす、手のひらを下げるなど)が連続的に変わります。この中で、「できるだけ手を伸ばした状態を増やす」、すなわち「伸ばして泳ぐ」ことで、体の長さを長くして、ラクに、そして速く泳げるようになります。

 また手を伸ばした状態が長く続くことは、重心が前に移動する状態が長く続くことにもつながります。従ってバランスがとれ、呼吸をしたときに発生する体のふらつきを最小限にする効果もあります。

●フロント・クワドラント・スイミング(FQS)の考え方

 「伸ばして泳ぐ」を具体的に意識するために、TIでは「フロント・クワドラント・スイミング」の考え方を取り入れています。下のテリーの泳ぎの水中写真で、体の軸をX軸、X軸と垂直で体を通るY軸を設定した場合、Y軸より前(すなわち肩より前)の領域を「フロント・クワドラント」、後の領域を「リア・クワドラント」と呼びます。写真でわかるように、左手が入水した直後には右手がまだ肩より前にある状態、これをフロント・クワドラント・スイミングと呼びます。

 フロント・クワドラント・スイミングを実践すれば、常にどちらかの手が伸びた状態にあるため、全長を長く維持することができるようになります。またテリーの写真から、重心もかなり前にかかっていて非常に安定していることがわかります。

 TIワークショップに参加したトムの水中写真です。右手が入水したときには左手はほぼかききった状態(リア・クワドラント)になっています。こうなると両手とも肩より後ろにある状態が発生して、バランスがとれなくなります。「かいてもかいても進まないで疲れる」のはこれが理由です。

 TIコーチのアンが最初にワークショップを生徒として受けたのが下の写真です。彼女は競泳の選手だったので、右手が入水するときには左手はちょうど肩の下を通っています。見た目は問題なさそうですが、片方の手が入水する直前には伸ばした手がかき始めてしまうので、十分に長い状態で泳ぐことができません。このような泳ぎは、フロント・クワドラントに修正することで驚くほど体が安定するようになります。

●フロント・クワドラントは絶対か?

 片方の手が入水するまでもう片方の手を伸ばしたままにしておくフロント・クワドラントの泳ぎ方は、抵抗の少ない姿勢が重要である普段の練習や長距離のレースにおいてとても有効です。しかし25メートル、50メートルといった短距離の場合にはかく速さ(ピッチ)自体を上げることの方が重要であることから、必ずしもフロント・クワドラントを守る必要はありません。2004年に引退し、いまなお世界記録保持者である「皇帝」アレクサンダー・ポポフも、練習のときは完璧なフロント・クワドラントですがレースのときは上のアンのようになっています。

●かかない意識:ジッパースイッチがお勧め

 フロント・クワドラントで泳げるようになるためには、本能でかいてしまう手を意識的に抑える必要があります。もっとも良いのは「かかないという意識を持つこと」です。むしろ反対側の手に注目して、どのようにリカバリーするのかを常に意識するようにしてください。

 また練習方法ではジッパースイッチがお勧めです。手が上がった状態で体が安定すれば、伸ばした方の手をあわててかくこともなくなります。

 

 ©Easy Swimming Corporation