13年のギャップのあと、26歳で競泳を再開しました。ようやく短時間で効率の良い練習を可能にするTI方式に巡り会った矢先、左肩を痛めてしまいました。その後4ヶ月はプールに全く入りませんでした。焦りと苛立ちに、やめてしまおうかとも思いましたが、2005年の初め、最後にもう一度、泳いでみようと試みました。のんびりと泳いだつもりですが、やはり肩の痛みが残ります。ふと痛みの原因が、泳ぎのテクニックにあるのではないかと思い、TIイギリスのケビン・ミレリックにコンタクトを取って、アドバイスを頼みました。
 プールで、ケビンはまず私に、200メートルをクロールで泳ぐように指示し、私のストロークを観察しました。彼は幾つかの課題を指摘しましたが、一度に全部ではなく、1つずつ解く方法を採りました。以下が、彼の診断とそれに対する処方です。
1.タイミングの合わないキック

 ケビンは、私がフォービート・キックしていることを指摘しました。また、両側の入水の際に、どちらも左足を使って蹴っていて、それによって背中をアーチ型に伸ばしていることがわかりました。

 そこでケビンは、1つのラップを泳ぐ時に、1つのフォーカル・ポイント(気をつけるポイント)を決めて泳ぐことを再確認して、ストローク全体に取り入れる前に、ドリルで練習するよう勧めてくれました。彼は、ジッパー・スイッチのドリルを使って、手と反対側の足で、効果を引き出すために、大きくキックをするように言いました。

 ラップを幾つかこなして、左右対称に泳ぐ感覚をつかみ始めた時、突然、ダイアゴナル・パワー(斜めキックによる推進力)を体験しました。かなりゆっくりと、ダイアゴナル・パワーで、ジッパー・スイッチを約5回続けて泳ぎました。筋肉が余りにもいろいろ無駄な動きを覚えているので、ドリルからストローク全体に取り入れるには、まだ時間がかかりますが、それでも確固たる手ごたえを感じました。

2.緊張した手

 ダイアゴナル・パワーの発見に心を躍らせたものの、ダメージを受けた肩のことは気になっていました。ケビンは、私の手が、入水の際に、カップのように硬くなっていることを指摘しました。

 驚いたことに、ケビンは、ジッパー・スイッチを練習する時に、指を開いているように言いました。水が指を通り抜けてしまい、推進力がなくなるのでは?と聞くと、彼はこれに対して、指を開いているのとないのとでは、水表面においてあまり差がなく、手をリラックスさせることのほうがずっと大切であると、説明しました。

 彼の言うとおりに、次のラップをジッパー・スイッチで泳ぎ切ると、ビックリするほど、肩と腕の力を完全に抜いて、プールを流れるように泳ぐことが出来ました。さらに、ごく自然に、またバランスをとって体を回転させることが出来るようになりました。やはり、肩を痛めた原因は、この緊張してカップのように固まった手にあったのだと、確信しました。そして、ラップごとに、フォーカル・ポイントを決めて練習するように努めました。ケビンは、そのうちに、それぞれの練習が、全体の泳ぎとして1つになると、確信をもって話してくれました。

3.伸ばしすぎる腕

 ケビンはまた、入水の際に、腕が前に出すぎていることを指摘しました。背中をアーチ型に曲げる故(肩を痛めたもうひとつの原因?)です。解決策は、イアー・ホップス(入水位置が頭の横)をフォーカル・ポイントに定めて、10から20ラップ泳ぐことでした。

4.大きすぎる前4分の1の泳ぎ

 午後のレッスンで、ケビンは、私の泳ぎを水中カメラで撮影しました。これによって、前4分の1の泳ぎが、大きくなりすぎて、スムーズに体を回転するのを困難にしていることがわかりました。修正する為に、目で合図を確かめられる、アンダー・スイッチでのタイミングを練習し、さらにそれを強化するために、ジッパー・スイッチで、「ファスナーを上げる手」が、耳に届くと同時にスイッチをするようにしました。正しく出来るようになるまで、各セッションで、10から20ラップ行います。幸いに、地元のプールは照明が明るく、自分の影を見ながら、(当然、顔は水底に向いています)入水のタイミングをじっくり観察できました。

5.あまい肘の曲げ

 ビデオはまた、水中で肘を曲げるのが、アンカーをかけるのに間に合わない様子を映しだしていました。ケビンは、この修正に、フィスト・グラブの使用を示唆しました。そして、筋肉に覚えこませるために、フォーカル・ポイントに定めて、やはり10から20ラップ泳ぐようにします。

 まだ、肩の痛みが永遠になくなったといえる状態ではありませんが、いろいろ学んだ上に、希望を持って練習を進められることは確かです。ありがとう、ケビン!

ケビンの話:

 去年、十代のトライアスロン選手の女性を教えて、彼女がドリルを上手にこなすのに喜ぶと同時に、なかなかストローク全体が改善されないのに、落胆していたことがありました。各レッスンで、ドリルはビデオ・モデルとして撮れるほど上手にこなすのですが、全体の泳ぎとなると、はっきり言って、ひどいものでした。彼女が、何往復か泳ぐのを眺めるうちに、ようやく、間違った足でキックをして、体の回転が不十分であることに気がつきました。こうして、私たちは、次の10分、正しいキックのタイミングをフォーカル・ポイントに定め、ゆっくり泳ぐことに時間をかけました。両側じっくりと練習して、コンパクトなキックと、それぞれのストロークをラクに推進力に変える動きを作り出す、反対側の手の入水をつなげることに成功しました。

 その後すぐに、ローリーと練習をすることになりました。彼もまた、美しいドリルと、まとまりのない全体のストロークという、見覚えのある泳ぎでした。1年前にワークショップに参加していましたが、肩を痛めて数ヶ月間姿を見ませんでした。他のスイマーにも共通していますが、彼の場合、キックのタイミング修正のほか、そのキックが他の泳ぎにどのように適合するのかをわかって貰う必要がありました。また、彼はある程度の流れを持って泳ぎますが、ストロークのサイクルを通して、手がとても緊張して固まっていました。手をリラックスさせることにより、肩の緊張も解けることに気がつき、ローリーもとても喜びました。

 最後に、彼のストロークのサイクルの中で、入水時のデット・スポット(生かされていない空間)を見つけました。追いつこうとするような、腕のゆっくりとした動きが、かえって、推進力を促すストロークを邪魔していました。キックと共に、リラックスした手のリカバリーを練習するため、ジッパー・スイッチを使いました。リカバリーの際に手を水に抵抗させて、手が緊張しているかいないかの認識を高めようと試みました。彼に、くるぶしのところで水を引っ張るようにリカバリーするように指示したあと、次は、手をすっぽり水中に置いたままリカバリーするように言いました。リカバリーの時に、手が水流によって軽く曲がることに焦点を当てることで、彼はすぐに、手をリラックスする感覚を身に付けました。スイッチの練習は、頭の先で、手が大きく重なることを軽減しました。水を引きずってリカバリーをする手が肩に近づくにつれて、水の抵抗が減るため、スイッチのタイミングを正しく行う合図になってくれます。2時間を経て、ローリーは目に見えて進歩しました。

 毎日泳ぐプールで顔をあわせる人たちは、私の泳ぎが彼らと違うことに好奇心の目を向けます。幾つかの秘訣を教えても、あまりぴんとは来ないようです。ストロークの修正は、ひとつの過程であり、その場ですぐに治せるわけではありません。動きを細かく分けて、体にしみ込むまで、それぞれの「ミニ・スキル」をじっくり練習するしかないのです。ローリーの例は、1日でも、泳ぎをかなり改善できることの証明ですが、それでも、系統立てたアプローチを使って診断し、ワン・ステップずつ、正しい修正を試みることは、とても重要なのです。

ケビン・ミラーリックは、TIイギリスのヘッド・コーチおよび専務取締役です。1999年以来TIコーチをしています。ケビンはまた1997年から、少年少女の水泳チームのコーチも歴任しています。彼は、アメリカとヨーロッパで、TIのウィークエンド・ワークショップ、子供用のTIキャンプ、そしてコーチ・トレーニングのワークショップ等で多くの生徒を指導してきました。2002年にイギリスに移り住んで、TIイギリスを引率し、教え、コーチをし、そして競泳選手としても活躍しています。
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