カイゼン・キック
 「キックについてTIでは、垂直キックを除けば多くを語らないようです。『上手なTIスイマー』は、キックと体の回転が自然に一体になるということですが、一般のスイマーは、そうは行きません。私は、キックが体幹部の回転から力を最大限引き出すのに、とても重要だと思うのですが、皆さんはどう思いますか?」
 上のような質問がTIのディスカッション・ボードに掲載されていました。トライアスロン・スイミングのセクションに載っていたことから、クロール、それも長距離のキックを意味していると思われます。そこで今回もキックについて取り上げてみましょう。

キックの貢献度は?

 トップレベルのスイマーたちが、ビート板を使ったキックでも速いことは間違いない事実です。オリンピックのメダリストのイアン・ソープ、グラント・ハケットそして、ピーター・ファンデンホーヘンバンドなどの選手は、50メートルを30秒以下で蹴り進むことが出来ます。これは、私のクロールのタイムを上回る速さです。

 こういった状況が、多くのスイマーおよびコーチに、ビート板を使った練習を限りなくやりこなす価値があるという確信を持たせるようです。しかし私はトップレベルのスイマーが、ビート板の練習のお陰で他人よりも速く泳げるようになったとは考えていません。

 さらに、800メートル以上の遠泳をする一般のトライアスロン選手たちのキックと、100〜200メートルをレースするオリンピック競泳選手のキックとは、キックの質が違います。トライアスロンの選手たちは、水泳後に、サイクリングやマラソンをやりこなさなくてはいけない訳で、彼らにとっては、“疲れを知らない足”の方が、“強いキック”よりもずっと重要です。

 すなわち、ゴールまでほぼ全速力で2分以内に泳ぐのでない限り、キックの最も重要な役割は、体の回転を助けることにあります。以下がそのメカニズムです。:

  1. 各ストロークのはじめ、体は手を伸ばして、水面に対してほぼ真横を向いています(まず右側だとしましょう)。伸ばした左手の指先は下向きにして、腕全体で水をつかむ姿勢です。
  2. 次に、水面上にある右手は耳の脇を通り過ぎて入水しようとします。入水するときに重力を使って下向き(前方)に押す力により、体全体が右側に回転します。
  3. ツービートキックではこのとき、つまり右手の入水と同時に、左足も下に向けてキックをします。キックの主要な働きは、体の回転の手助けで、回転を起こすものでもありません。

 私の腕、体、そして足は、上記の動作をラップごと約15回繰り返し、週平均クロールで400ラップを泳ぐわけですから、このように、力を生む体の動きを1週間に6,000回練習していることになります。効率よく泳ぐためにキックがきちんと役割を果たしていれば、キックは普段の練習で十分に補われています。それ以上の練習は必要ありません。体がちゃんとバランスをとっていれば、悪いバランスをカバーして足をばたばたと動かす必要はない訳です。

「弱いキック」とは? どうやって改善すればいいの?

 以下の2つの状況においては、キックを改善する必要があると思われます。

  1. 泳ぐと足が疲れる。
  2. キックの練習または、ドリルの時に足が「ばらばらに動く」。

1の場合、バランスを改善して、水泳またはドリルの間、腰と足が「軽く」感じるようにします。その感じをつかんだら、より消極的で目立たないキックを心がけ、ドリル練習の時に、優しい「静かな」キックをすることにフォーカスを当てます。キックのセット練習に無駄な時間を費やさないで下さい。ドリルセットの時のソフトで、安定したキックのほうが、泳ぎに効果的な足の動きの習得にずっと役に立ちます。

2のようにキックの時に足がばらばらに動くのは、特にバランスドリルの練習時に起こりやすく、スイッチドリルの時には、たいていの場合余り問題にならなくなるようです。バランスドリルは比較的動きがないため、あまり効果的でないキックを推進力に使って、長い時間バランスをとる体勢にあるからです。

原因は、「地面を打つ」キックにあり、足の甲が固まっているか、(マラソン選手に多い)また、固まった足の甲のせいで、膝を曲げすぎるからで、そのために、下ではなく主に後ろにむかってキックをすることになってしまいます。キックを体の前で行うよう練習することで改善します。バランスドリルを練習する時に、やさしく、静かで安定したリズムで、つま先を前方に動かすことに焦点を当ててください。

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