●ストロークを長くするには ストロークを長くする、すなわちひとかきで進む距離を伸ばすには、力いっぱい手で水をかけばよさそうな気がします。しかし米国のColorado
SpringsにあるInternational Center for Aquatic Researchという水泳の研究所が選手を対象に行った実験では、「最も速い選手はそれほど速くない選手よりも推進力で劣る」という結果が得られました。実際アテネオリンピックのヒーローだったマイケル・フェルプス選手は、筋肉が成長過程にあるという理由でウェイトトレーニングを一切行っていません。おそらく決勝に残った他のどの選手よりも筋力では劣っているのかもしれませんが、最も速かったことには間違いありません。
それではとても速い選手はなぜ少ない推進力で速く泳ぐことができるのでしょうか。答えは水の抵抗にあります。とても速い選手は自らの経験やセンスによって、抵抗の少ない泳ぎを実現することができるのです。水の抵抗は速さの二乗に比例しますから、速い選手ほど水の抵抗を受けることになります。このため抵抗を減らすことが最も大切になるのです。
●抵抗を減らすための3原則
トータル・イマージョンでは、15年以上にわたり様々な体型・泳力をもつ成人を対象に水泳を教えてきましたが、どのような人でも次の3つを行えば確実に水の抵抗を減らすことができ、ラクに、速く泳げることがわかりました。
抵抗を減らすための3原則 |
1.バランスをとる。 |
2.伸ばして泳ぐ。 |
3.側面で泳ぐ。 |
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1.バランスをとる。
人間の重心はおへそのあたりにあります。一方浮力は肺がある胸のあたりで一番受けることになります。重力と浮力は逆向きに作用するので、中心がずれていると上半身が水面から出る一方、下半身は大きく沈むことになります。ここでスイムモデルのジョン君に登場してもらいましょう。バランスがとれていない人の場合、お尻から水面までの距離が20〜40センチ、かかとから水面までの距離が60〜100センチに達します(スイムクリニックでの実測値)。これでは水の抵抗をおもいっきり受けてしまいますね。こんな状態でキックをしても、水の抵抗を受けながら大きな筋肉である足を動かすことになるので、疲れてしまうだけです。
それではこの状態は直せないものなのでしょうか。人間は賢いもので、自分で体重移動(意図的に力を加える)することで重力の中心を移動させることができます。おでこのあたりに重心をかける感じで頭を水没させると、アラアラ不思議、体が水平になります。お尻は水面から出て、足も水の抵抗をほとんど受けなくなります。
このときのフォーカルポイントは、「真下を見て頭を水没させる」です。いままで斜め前を見るように教わったとしても、それを忘れて真下を見てください。真下をみながら重心をおでこにかけると、「お尻が浮いた」と感じるようになり、足が軽くなります。お尻が浮いたと感じないときは、まだ重心の移動が十分でありません。さらに頭を水没させましょう。自分の感覚と実際の動作にギャップがあることは、スイムクリニックで多くの方が感じています。足が沈みがちの人は頭を水面から20センチぐらい水没させる感じでやってみれば、足が浮いてきます。
長く泳げない場合の原因のほとんどがこの「バランス」にあります。バランスを改善するだけで2〜3割は速く泳げるようになります(スイムクリニックの実測値)。しかもこのときに使う力はこれまでよりも少なくてすみます。ラクになって速くなる、しかも見た目にも姿勢がまっすぐ伸びてきれいに見えるようになるという一石三鳥の効果が得られるのです。トータル・イマージョンでまずバランスのドリルから始めるのは、バランスさえ改善すれば目に見える効果がすぐに得られるからなのです。
なお真下を見ること、頭を水没させることは「絶対」ではありません。お尻が浮く感じがあり、キックが軽くなった時点で背筋を使いながら姿勢を維持すれば、少し前を見ても、また頭が少し出ていても姿勢はくずれなくなります。ただし必ず最初は真下をみて、頭を水没させることで正しい姿勢を覚えましょう。
注意:頭が水没しているため、これまで以上に息継ぎのために体を回す必要があります。姿勢を維持したまま体を回転させる練習として、トータル・イマージョンではスケーティングドリルから息継ぎをする練習を勧めています。
次回は2番目の「伸ばして泳ぐ」について説明します。
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