Q&Aのコーナー
Q:400〜500mは楽に泳げるのですが、それ以上になると肩が動かなくなり、スピードも極端に落ちてきます。でも、呼吸、心拍数は全然問題ありません。筋持久力に問題があるのでしょうか?
A:多くの方の水中ビデオを見てわかったことは、「加速のしどころ」が人により異なる点です。ここであえて「力の入れどころ」としなかったのは、水泳の世界の力とは「加速度」であり「筋肉の緊張」でないことを明確にするためなのですが、大人になってから水泳を本格的に練習し始めた方の多くは「筋肉を緊張させること」が「力のいれどころ」と捉え、入水するとき、キャッチの時、リカバリーなど様々なポイントで筋肉を緊張させています。

水泳はウェイトトレーニングとは異なり、手や足を動かすときの加速度により力が発生し、その力を流体である水に適用させる反作用として効力が生まれ、前に進みます。従って泳いで前に進む方法としては、筋肉を緊張させるのではなく、進行方向と逆の方向に水中で手を加速させ効力を発生させる方法や、進行方向と同じ方向に水上で手を加速させ(リカバリー)そのまま推進力とする方法があります。トータル・イマージョンの泳ぎ方はこの2つの力を推進力として効率よく使っている(無駄なベクトルが少ない)のと、水の抵抗が少ない姿勢をとっているので滑るように、ラクに泳ぐことができます。

長く泳げない理由としては大別して、
 a)息継ぎにより十分に二酸化炭素を排出できていない(苦しい)
 (酸素が不足すると感じているのは実は二酸化炭素の体内濃度が上がること)
 b)疲労時に発生する乳酸の量が増加し運動の妨げになる(疲れる)
 c)泳ぎ続けるモチベーションがわかない(飽きる)
がありますが、呼吸に問題がない場合にはb)が考えられます。そしてレースのスピードで泳いでいるのでなければ、b)の原因となるのは前述のような筋肉の緊張や、推進力につながらない力の発生(入水した手を水面下から下向きに押してしまうような)などが考えられます。

トータル・イマージョンのドリルではまずバランスや抵抗の少ない姿勢を練習し、加速による推進力の練習は最後に行います。そのときまでには抵抗の少ない泳ぎができているので、あとは少ない加速でスピードを維持することができるようになります。筋肉の緊張も最小限にすることができるので、疲れにくい泳ぎに変化します。(回答:竹内慎司)

Q:TIのクロールでは、入水後に水面よりかなり下深く手が入りキャッチが少ないように感じましたが、どうなのでしょうか?
A:ご指摘の点はまさにトータル・イマージョンの泳ぎ方が従来の泳ぎ方と一線を画するところです。従来のキャッチ(入水後水を手でつかむ動作)は水面より少し下の位置から始め、手は弧を描くように下に動き、それから体の下を通ります。

本来手で水をかくという行為は、手のひらや腕に加速度(速度が増加する状態)を与えることで力を発生させ、その力を水という流体に与えることで反作用としての効力が発生し、その力で体が前に進むことを目的としています。

従って発生する効力の向きは体の進む方向と100%同じであれば効率よく進むことができますが、入水直後の手は弧を描くように下に動くため、手が生み出す力も下向きに作用します。その結果水の効力が上向きに発生し、上半身を持ち上げようとします。これはちょうどビート板を持ったときの姿勢に似ています。

上半身が上に上がろうとするということは、下半身が沈むということであり、下半身が沈むということは受ける水の抵抗が増えるということになります。従って水面下でキャッチを始めると足が沈んで水の抵抗が増え、疲れる泳ぎになってしまいます。

これを防ぐには

  1. 水面下でキャッチをはじめたら手を下にはおろさず、肘を上げた状態にして手の平を体の下まで平行に運ぶ(手の平を下に向けて動かさない)
  2. 入水を深くし、入水したらすぐに手の平を進行方向と逆に向け(手の甲を進行方向に向け)、体と並行に手を動かす
    の2通りが考えられます。

1.は肘を水面下で固定し、上腕三頭筋を使って水の抵抗に逆らって手を長い距離平行移動させることになるため、ものすごい筋力を必要とします。イアン・ソープの泳ぎ方がまさにこのやり方で、入水直後から手は体と並行に動いています。

2.は手の入水角度を深くするだけで実現できるので、万人向きと言えます。この角度を調整することで重心が移動するので、足が沈みやすければ手を深く下げ、足が浮くのであれば手を少し下げるようにすればバランスもとれ一石二鳥になります。

目的は「水中で手の平を下にむけて動かす時間をできるだけ減らす」ことで、その目的を実現するための一つの手段として、現在のような手の位置になったわけです。体を前に進めたいのですから、シンクロナイズド・スイミングと違って体を上に動かそうとすることはできるだけ減らすべきで、そうなるとクロールだけでなく、背泳ぎや平泳ぎ、バタフライにも言える共通の原理になります。(回答:竹内慎司)

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