年をとってから速くおよぐには?
肉体的には下り坂になる30歳以降の水泳で上達するには、子供や若者とは違ったアプローチが必要になります。よりラクに、よりきれいに、そしてより速く泳ぐために最も大切な原理である、速度とストロークについての関係を詳細に見てみましょう。
●速度とストロークの関係

 まずストロークを「手のかきとそれに伴う足の蹴りの一連の動作」とします。クロールでは左手と右手が別々の動きになりますので、左右それぞれを1ストロークとします。ストロークと速度の関係をわかりやすくするために数学の世界に入りますが、少しだけなので辛抱しましょう。

平均速度 v
距離 L
時間 t
ストローク数 Sc

とすれば、

v = L / t = L / Sc x Sc / t

となりますが、
 ・L / Sc =SL(1ストロークで進む距離/長さ)
 ・Sc / t =SR(1ストロークの速さ:1秒あたり何回かけるか)
なので、

v=SL×SR


となります。

 つまり、ストロークで進む距離とストロークの速さは反比例の関係にあるのです。練習ではゆっくり泳いでいる人でも、大会となるついあせってしまい、腕をぐるぐる回して泳いで結局タイムは縮まらない、ということはよくあります。これは速くかいた(SRを増加)としても、SLが短くなるので全体ではスピードが上がらないどころか、筋肉を速く動かすことで抵抗が増えるとともにエネルギー消費が増大し、疲れてしまうことが原因です。この公式はこれからもたびたび出てきますので、覚えておきましょう。

●SLとSRの特徴

 SLとSRを比べてみましょう。年をとって伸ばしたい・ラクに伸ばせそうなのはどちらですか?もちろんSLですね。

SL(ストロークの長さ) SR(ストロークの速さ)
SLは技術指向性の高い要素です。バランスや姿勢など技術的なポイント改善することで増加させることができます。 SRは訓練指向性の高い要素です。手を速く動かすためには、訓練を積んで筋肉を増強させ、心肺機能を高める必要があります。
SLの上達は頭脳にかかっています。頭脳を総動員して知識や感覚、集中した練習を行うことで「筋肉に記憶させる」ことができます。体を大して使わないのでエネルギーの消費が少なくて済みます。 SRの上達は心肺機能にかかっています。より激しく心臓や肺を使って持久力を上げる必要があります。またこのときエネルギーをたくさん消費します。
SLは何歳になっても改善することができます。SLは技術志向が高いので経験を積めば積むほど磨きがかかります。70歳になってもスピードを上げることが可能です。 SRの向上には年齢による限界があります。どんなに心肺機能が高くなっても、筋肉は確実に衰えるので一定の年齢(通常は40歳)になるとSRは低下します。
SLは果てしなく向上させることができます。筋肉がいったん記憶すれば、自転車に乗るように数十年ブランクがあってもすぐに取り戻すことができます。 SRの向上は一時的なものです。一旦休んでしまうと、元に戻すまでにこれまで以上に努力する必要があります。
速く泳ぐには

 v=SL×SR なので、速く泳ぐためには、次の3つの方法が考えられます。

  •  SLを一定にしてSRを上げる。
  •  SRを一定にしてSLを上げる。
  •  SR、SLそれぞれを上げる。

 ストローク数(一定距離のかき数)でみれば、速く泳ぐには

  • ストローク数を一定にしてストロークの速さを上げる。
  • ストロークの速さを一定にしてストローク数を減らす。
  • ストロークの速さを上げながら、ストローク数を減らす。

 なおストロークの速さが速くなるとエネルギーをたくさん使うことに注意しましょう。消費エネルギーは概ね速度の2乗に比例するので、手の回転を速くすればそれだけ早く疲れることになります。一方ストローク数を減らす(ストロークを長くする)ことは、無駄な抵抗が減るためエネルギーの節約につながります。

 いかがでしたか?少し数学が入って難しくなりましたが、ストロークの長さに注目して賢く泳げば、必ず速くなるということです。実際の練習では、ストロークの長さ、あるいはストローク数に注目して次のようなステップで行います。

  1. まずストロークを長くする(このときストロークの速さは遅くなる)→速度は変わらず
  2. 次にストロークの速さを一定にする →ここで速度が増加
  3. 最後にストロークの長さを少しだけ犠牲にして、ストロークを速くする →さらに速度が増加

●ストロークの合間で速さを稼ぐ

 先ほどのvは「平均速度」のことで、実際には人間は常に同じスピードで泳いでいるのではなく、クロールでも速いときと遅いときがあります。最も速いとき、それは自分が進んでいると感じるときで、多くの人は手でかいていると答えるでしょう。

 それでは最も遅いときはいつでしょうか。答えは「呼吸しているとき」または「手が水上を動いているとき(リカバリー)」です。手を水から出すことで、浮力がその分失われます。また呼吸をすることで、頭が上がり水の抵抗を受けます。このように速度を落とす原因が呼吸しているときにはたくさんあります。

 速く泳ぐためには、この遅く泳いでいる間を短くする、あるいは底上げすることも必要です。遅くなる原因は抵抗にあるので、呼吸しているときやリカバリーのときに抵抗の少ない姿勢にします。またリカバリーのスピードを上げることで、遅く泳いでいる間の速度を速くします。実際速く泳ぐ人ほど、速いときと遅いときの落差が少ないのです。この落差はエネルギーの消費に直結するので、速く泳ぐ人ほどエネルギーを使わないことになります。

 次回はストロークを長くするために覚えておきたい抵抗の種類について説明します。

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