スタート前にゴールするって?
 25メートルをたったの9ストロークで泳げた!あまりの驚きにプールの真ん中でしばらく呆然と立ち尽くしたほどです。TIの教義とも言えるテリーのコメントを実体験した瞬間でした。このまま練習を続けると、私のストローク数は、最後には25メートル0ストロークになって、スタートする前にゴールできるのかも?
 競泳のマスターズに加わって一年が経ち、自分より体型的にも技術的にも優れたスイマーを意識し始め、ウェブサイトで情報収集していたときに出会ったのが、テリー・ラクリンが書いた「テクニックを基礎にしたトレーニング」でした。その内容はとても説得力があり、私はTIに興味を持つようになりました。

 当時、南アフリカの通貨は、すべての外貨に対して価値を下げ続けていたところで、TIのウェブサイトで見つけた面白そうな本やDVDも、とても手の届くものではありませんでした。しかし、ウェブサイトに載っていた、ワークショップの小さなビデオクリップを見つけ、必死でダウンロードしては、じっくり学習してコンセプトを理解しようとしました。

 ちょうどこの頃、娘が水泳を始めたいというので、近くの市営プールに行って、ビデオクリップのドリルを見よう見まねで彼女にやらせました。正直、当初は「アンダースイッチ」が何であるのか、皆目見当がつきませんでしたが、ほとんどのクリップは実際、彼女の水泳の上達にとても役に立ちました。

 その後、私は自分のストロークの直してくれるコーチを見つけました。彼のドリルは、TIのものにとても似ていましたが、その他にも、ストロークで腕を水面から上げる時の、複雑な手の角度の切り替えにかなり焦点を当てていました。彼のコーチスタイルは、明らかに様々な違う方式の混ざり合ったものでした。

 数週間たっても、結局私のストロークは進歩がなく、それでも、ストロークでの手の角度に細心の注意を払って、何とか25メートル15ストロークに落としました。また、次のセッションでは、距離を長く泳ぐ練習もし、その年のマスターズ・チャンピオンシップではよい結果が出るだろうと期待に胸を膨らませていました。しかし、結局大会では、ほとんど自己最高記録である去年の結果と全く差がなく、ひどく落胆しました。練習距離を伸ばしたのも、ストロークの手の角度に細心の注意を払ったことも、結局は2年前からの記録を維持するだけのものでしかありませんでした。

 次に、私は高レベルなマスターズ・スイマーの集中特訓チームに入ることにしましたが、レベルが高い上に練習時間が長く、また最初から最後まで、ほぼ同じペースでの強硬な練習を強いられました。確かに、体型はすっきりしてきたものの、進歩はなく、さらに、いろいろな事情で練習を数回休むたびに、また1からやり直さなくてはいけなかったことなどから、やる気は半減していました。

 今度は息子が水泳を始めたいというので、久しぶりにTIのウェブサイトにアクセスして、トータル・イマージョンの南アフリカが開設されたのを知りました。喜んですぐにレベッカ・レアードにコンタクトを取って、2003年11月の週末のワークショップに申し込みました。このワークショップは自分が望んでいた以上のもので、アンダースイッチ・ドリルもついに理解し、ワークショップが終わる頃には、TIのコーチになるためのトレーニング・プログラムに参加する決意をしていました。

 その年の私の目標は、「ミッドマー・マイル」を3回泳ぎきることでした。前シーズンに2回泳いだので、可能性を少し広げてみたかったのです。「ミッドマー・マイル」は世界一大きな遠泳競技の行われる場所です。南アフリカのカワズル・ナタル州にあるミッドマー・ダムで毎年2月の第2週目の両週末に、8つの1マイル競技が年齢、グループ、性別に開かれます。2004年は総勢約16,000人がこの8つのイベントに参加し競い合いました。

 このミッドマー・マイルに向けて2003年の暮れに準備を始めた頃、大会が迫るにつれ、以前のように、辛く激しい長時間の特訓をしなくてはいけないような気になりました。レベッカに電話して練習方法について尋ねたところ、彼女は落ち着き払って、大会前にもう1回、TIのドリル・セッションをするようにと示唆してくれました。

 彼女の言う通りに練習したところ、あのブレークスルーが訪れたのです。私の練習していた50メートルプールは、5メートルごとにラインが引いてあり、それまでの最高記録は25メートル12ストロークで、平均は14〜15ストロークでした。その日は、約45分間集中してドリル練習をしたあと、最初のラップで12ストローク、次のラップで、11ストローク…そしてついに25メートルをたったの9ストロークで泳げた!あまりの驚きにプールの真ん中でしばらく呆然と立ち尽くしたほどです。TIの教義とも言えるテリーのコメントを実体験した瞬間でした。このまま練習を続けると、私のストローク数は、最後には25メートル0ストロークになって、スタートする前にゴールできるのかも?と勘違いしたほどです。この日を境に、私はTIドリルに集中して、毎回のストロークを完璧にするように努めました。

 2004年のミッドマーでの大会は、私自身がヤギの襲撃に遭ってしまい、また、干ばつによるダムの水位の低さが原因となって、結局3回のところを1回だけ出場するにとどまりました。

 2005年の大会で、私は3回の出場中、とにかくストロークに集中して泳ぐ決意をしました。土曜日の朝の大会では、記録もそれなりに、とても気分よく泳ぎきりました。1時間半後、2回目のマイルに出場し、強い向かい風でタイムは遅くなってしまいましたが、これもとても素晴らしい気分で泳ぎました。

 日曜日の大会は、水中で大勢の人にもみくちゃにされ、さらに、コースから随分と右側にそれて泳いでしまったため、多少困難でした。人より100メートルは余計に泳いだものの、タイムは前日と同じでした。土曜日の朝の大会では、日曜日に比べてとてもリラックスして泳げたので、もし日曜日にもう少しリラックスして泳ぐことに集中していたら、さらにいい記録が出せたと思います。この3回の大会出場における、少ない練習量での手ごたえのある結果を通じて、TI方式の練習がいかに当を得ているかを実感しました。今では、プールで他の人が、必死に特訓している姿が滑稽に映るほどです。

ゲリー・スモールは、南アフリカのヨハネスブルグでコンサルティング会社の水地質学者をしています。他にもザンビア、スウェーデン、イスラエル、フランスそして、ブルンディに居住していました。自由時間は、妻と4人の子供との時間、そしてTIの水泳を楽しみます。彼は、南アフリカの公認TIコーチで、一般のスイマーがTI方式に変えて、魚のような泳ぎを身につける様子を見るのが楽しみです。
 ©Easy Swimming Corporation