「きれいに泳ぎたい!ラクに泳ぎたい!」について、もっと詳しく知りたいと多くの方からコメントをいただきました。そこでトータル・イマージョンの創設者であるテリー・ラクリンの著書や米国で開催されているワークショップで紹介されている水泳理論やドリル練習の意味について、シリーズ化して説明することにします。まずトータル・イマージョン誕生のきっかけとなった、「速い人ほどゆっくり泳ぐ?」からスタートしましょう。
●水泳のうまい人はどこがうまいの?

 プールで泳いでいる人を眺めていると、うまい人、ヘタな人というのは誰でも同じように見分けがつきますね。そもそもうまい人というのはどこがうまいのでしょう?うまい人の泳ぎには、次のような特徴があります。

  • すーっと進んでいる。
  • ゆっくりした動作だけど隣で泳いでいる人と比べると速い。
  • 水しぶきがあまり立たない。
  • 静かに泳いでいる。
  • 苦しそうに見えない。

 実は、速く泳ぐ人にもあてはまるのです。オリンピックや世界選手権など、テレビで見るような大会はエリート中のエリートが集まるのでみんな速くてよくわかりませんね。ところが18歳以上の普通の大人のスイマーのためにマスターズという組織があり、その大会は申告タイム順に泳ぐ順番が決められるのですが、最後から二番目のレースと一番後のレースと見比べると、最後のレースを泳いでいる人たちの方が水しぶきも少なく、ゆっくり泳いでいるように見えるのです。

 なぜ速い人がゆっくり泳いでいるように見えるかを科学的に分析した人がいます。米国の水泳コーチであるビル・ブーマーがロチェスター大学のスポーツ科学者とともに、26人の米国のトップスイマーの泳ぎを7日間にわたり撮影して分析した結果、「最も速いスイマーが最も少ないかき数だった」ことが明らかになりました。同様の実験はペンステート大学の科学者が1988年のオリンピックを対象にして行っており、その結果も同じで「最も速いスイマーが最も少ないかき数だった」のです。

 誰もが同じ距離を泳いでいるので、「最も少ないかき数」は「一かきで進む距離が一番長い」ということになります。また同じような時間(速いので実際には短いのですが)でかき数が少ないので、「手がゆっくり動いて見える」わけです。

 つまり水泳の速い人、うまい人というのは、「一かきで進む距離が長い」からゆっくり泳いでいるように見えて、しかも速いということになります。一かきで進む距離が長ければかき数が少なくなり、従ってエネルギーもあまり使わなくてすむ「効率の良い泳ぎ」になります。つまり

水泳がうまい = 効率よく泳げる = 一かきで進む距離が長い

という関係になります。

●フィットネスには効率の良い泳ぎを!

 エネルギーを使わない、つまり省エネの泳ぎでは体脂肪が燃えないし、心拍数も上がらないのでフィットネスには向いていないのでは?と思うのはもっともな話です。ここで重要なのは「泳ぐ時間」です。ばしゃばしゃ水しぶきを立てて、ぐるぐる腕を回して泳ぐ泳ぎ方は、確かにエネルギーをたくさん使います。その泳ぎ方で30分、45分、1時間泳ぎ続けられればよいのですが、実際には200メートルも泳ぐと普通の人間ならバテてしまいます。

 効率の良い泳ぎはエネルギーを使わないのですが、長い時間泳ぎ続けることができます。また速さを変えることで強度(心拍数)もコントロールすることができます。陸上の世界で言えば、50メートルダッシュを60本やるのか、3キロをジョギングするかの違いですね。ダッシュ60本は非現実的ですが、3キロのジョギングならカンタンそうです。またジョギングはスピードを変えることで強度を変えることができます。どのくらいの時間をどの程度の強度で泳ぐのかがコントロールできる点で、効率の良い泳ぎはとても大切なのです。

 きれいに泳ぐ、ラクに泳ぐには「一かきで進む距離を長くする」のが最初のポイントになります。次回は一かきで進む距離と速さの関係について、もう少し掘り下げてみましょう。

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