水泳はアタマで克つ!3 -最少の練習で最大の効果を得る-「滑る時間を増やす」 イージー・スイミング・ファウンダー 竹内慎司
2020年3月10日
このコラムはトライアスロンをいつかはやってみたい人、スイムパートの完泳やタイム短縮を目指す人、オープンウォーターのレースに参加したい人を主な対象としていますが、普段のクロールを速くしたいという人にも使えるアプローチや技術をご紹介します。
どのくらいのタイムで泳がなければいけないかが決まったら、次は泳ぎ方について考えます。
25mのタイムをできるだけ保つことができれば、25m自体を速くしなくても全体の時間は短縮できることはこれまで説明しました。
劣化率を抑えるということですね。
そして劣化率を抑えるために必要なことが、「滑る時間を増やす」ことです。
ここで「滑る」とは、「水中での動きを最小限にしたまま前に移動する状態」と定義します。
最初に「滑っている状態」について、次に「滑り方」について見てみましょう。
○滑っている状態を分析する
滑っていない泳ぎの代表例として、私の昔の泳ぎを取り上げます。
クロールを正しく習う前は、「手でかいて足で蹴って」泳いでいました。
手の動作を「手を入水して伸ばす」「水中の手を後ろに動かして水上に出す」「水上で手を前に運ぶ」という区切りで考えて、それぞれの所要時間について、手でかいて進むときと、テンポを変えたときにどうなるか調べました。
片手の動作がストローク全体に占める時間
手でかいて進む | テンポ1.0秒 | テンポ1.2秒 | テンポ1.4秒 | |
入水した手を水中で伸ばす | 17% | 23% | 19% | 21% |
水中で手を伸ばしたままにする | 0% | 25% | 29% | 29% |
水中で手を後ろに動かして手を水上に出す | 52% | 33% | 33% | 33% |
水上で手を前に運ぶ | 31% | 18% | 18% | 17% |
手でかいて進むときは、手を休みなく動かしています。
水中で手を伸ばしたままにする時間はありません。
それでは滑る泳ぎについて見てみましょう。
テンポ1.4秒とは、テンポトレーナーを装着して、左右それぞれの手の入水にビープ音を合わせた状態です。
左右を合わせると所要時間は2倍になるので、右手の入水から次の右手の入水までは2.8秒かかることになります。
このうち右手を伸ばしたままにする時間が2.8×0.29=0.8秒、左手を伸ばしたままにする時間が同じく0.8秒、両手を同時に伸ばすときはないので、1回のサイクル2.8秒のうち1.6秒間、6割近くは「どちらかの手を伸ばしたままにする」、すなわち「滑っている」のです。
テンポが1.0秒と3割速くなっても、水中で手を伸ばしたままにする時間の割合はあまり変わりません。全体の半分は滑っていることになります。
つまり全体的に動作の所要時間が短くなっているのであり、滑っている時間を極端に減らしているわけではないことがわかります。
以上より、滑っている状態を以下のように定義します。
「滑っている」=半分以上水中で手を伸ばしたままにする
○滑るための技術
それでは滑るためにはどのような技術が必要でしょうか。
1.体重を「前に」かけてグライド姿勢を保つ
グライド姿勢はクロールを泳ぐ中で最も抵抗の少ない状態です。
グライド姿勢を長く保つためには、体重を「前に」かけ続けることが大切です。
このとき多くの方が体重を「下に」かけています。こうなると当然からだは沈むので、息継ぎのために浮き上がらなければなりません。このようにからだを上下すると、抵抗が増えて速度が落ちます。
伸ばした手や伸ばした手の側にではなく、胸全体を使って水を「前に」押します。
2.水中の手を支えにして入水した手を前に伸ばす
手を前に伸ばすことで滑る動作を作ります。
ここでアイススケートの足の使い方のまねをして、水中の手(アイススケートの後ろ足)で支えを作って、その支えを使って入水した手(アイススケートの前の足)をさらに前に伸ばします。
なお、このとき水中の手で水を「押そう」とすると、無駄な力が最初に入ります。
1)まゆげの30cm前のストロークポイントまで肘を曲げる動作
2)ストロークポイントから肘を素早く伸ばして「払う」動作
この2つの肘の動きだけを意識することで、効率の良い水中ストロークで支えを作ります。
3.左右の肘を伸ばすタイミング
肘を伸ばす動作は、肘を伸ばすという明らかなきっかけがあるのでタイミングを測るのに便利です。
そこで入水の肘と、水中の肘のそれぞれを伸ばすタイミングを考えます。
1)最初の段階では、両肘を同時に伸ばすようにタイミングを合わせます。
2)慣れてきたら、入水して伸ばす方の肘を先に、水中で後ろに伸ばす方の肘を後にします。
タイミングをずらしたことにより、より大きな支えで手がさらに前に伸びることを確認します。
効率の良い水中の手の動きは、「水を抱えている」「水を押している」感覚があまりありません。
スムーズに肘を伸ばすことで、からだが上下に動かずに前に進むのであれば、効率の良い水中の動きができています。
1回だけのスイッチを繰り返し練習することで、両肘を伸ばすタイミングを調整しましょう。