水泳はアタマで克つ!2 -最少の練習で最大の効果を得る- 「どのくらい速くないといけないのか?」 イージー・スイミング・ファウンダー 竹内慎司
2020年2月10日
このコラムはトライアスロンをいつかはやってみたい人、スイムパートの完泳やタイム短縮を目指す人、オープンウォーターのレースに参加したい人を主な対象としていますが、普段のクロールを速くしたいという人にも使えるアプローチや技術をご紹介します。
トライアスロンのスイムパートで失格にならないためには、まず1500mを45分で「確実に」泳げるようにします。
それではプールではどのくらいの速さで泳げるようにする必要があるのでしょうか。
1500mを25で割ると60なので、分を秒に置き換えるだけで25mあたりの平均時間(ペース)が計算できます。
すなわち45秒です。
25mを45秒で泳ぐのであれば、全く問題ないと思う方が多いでしょう。
むしろ45秒かけて泳ぐ方が難しいかもしれません。
○劣化率を考える
しかしここで考えなければならないのが、「劣化率」なのです。
人間は泳ぎ続けると疲れて遅くなります。これを数値化したものが劣化率です。
劣化率は
「平均のラップタイム(25/50m)」÷「最初のラップタイム(25/50m)」-1
で示します。平均のラップタイムは合計タイムをラップ数で割ります。
通常は最初のラップタイムに比べて平均のラップタイムは遅くなります。
そして初心者の場合、15~20%です。
つまり最初のラップに比べて、平均は20%も遅くなるのです。
下のグラフは典型的な初心者の、1500mのラップタイム(50mプールで100m単位で計測)の推移です。グラフが下にあるほど速いことを示します。
最初のラップはとても速いですが、2ラップ目で急激に遅くなって、その後はいったりきたりを繰り返します。そして最後の2ラップ(200m)は次第に速く泳いでゴールします。
このときの劣化率は19.5%です。
次第に遅くなるというよりは、遅いと感じたら速くなるということを繰り返しているように見えます。
そこで劣化率を20%とすると、さきほどの45秒というペースは、
45÷1.2=37.5(秒)
で少なくとも最初は泳がなければならないということになります。
○劣化率とタイムの関係
逆に考えると、現在の25mのタイムから1500mのタイムを予想することができます。
60回繰り返して泳ぐつもりで25mを泳いで、そのタイムを計ります。
これまで30分以上泳ぎ続けたことがないのであれば、劣化率は20%として自分の1500mのタイムを考えます。
1500mのタイム(分)は、25mのタイム(秒)×(1+0.2) で表します。
(タイムを60倍して分換算のため60で割るため)
つまり、
- 35秒のとき→劣化率20%として42分
- 30秒のとき→劣化率20%として36分
- 25秒のとき→劣化率20%として30分
となります。
前述のように、37.5秒以上かかるようであれば、失格にならないためにまず37.5秒で収まるように泳ぐ必要があります。
1500m35分を切りたいときは、少なくとも25mは30秒で泳がないとならないし、30分を切りたいときは25秒で泳ぐ必要があることがわかりますね。
○速く泳ぐには
次に劣化率が変わるとどのような結果になるか見てみましょう。
- 35秒のとき→劣化率20%として42分
- 35秒のとき→劣化率15%として40分15秒
- 35秒のとき→劣化率10%として38分30秒
- 35秒のとき→劣化率5%として36分45秒
- 30秒のとき→劣化率20%として36分
- 30秒のとき→劣化率15%として34分30秒
- 30秒のとき→劣化率10%として33分
- 30秒のとき→劣化率5%として31分30秒
- 25秒のとき→劣化率20%として30分
- 25秒のとき→劣化率15%として28分45秒
- 25秒のとき→劣化率10%として27分30秒
- 25秒のとき→劣化率5%として26分15秒
このように劣化率を5ポイント下げるだけで、1500mで90秒程度のタイムを短縮することができます。
これは25mあたり1.5秒の短縮です。
仮にテンポ1.5秒で泳いでいたら、同じテンポで1ストローク減らして泳ぎ続けるということになります。かなり大変ですね。
従って25mの速度を上げてそれを維持するよりも、劣化を抑える方がラクにできることがわかります。
○劣化率を抑えるには
1500mを目標タイムで完泳するためには、劣化の少ない泳ぎを作る必要があります。
大きく分けると、以下を行って劣化率を下げます。
- 動作の回数を減らす。
- 前に進むための力に集中する。
- 力を入れる時間を短くする。
1)動作の回数を減らす
動作の回数が多いほど疲れるのはわかりますね。
動作の回数を減らすためには、「何もしないでも前に進む」状態を作る必要があります。
つまり「滑る泳ぎ」が必要になります。
滑る泳ぎを作るために、以下を行います。
- 水の抵抗を減らす。
- 体重を前にかける。
- 滑る直前に推進力を加える。
2)前に進むための力に集中する
初心者が手で水をかくときに感じられる「かいた感じ」のほとんどは、手を下に動かすことによって得られています。
従って推進力になっていません。
入水して前に伸ばす手の支えになるタイミングで水を後ろに押すことで、からだを前に動かすことができます。
またキックは足を浮かせることが主目的なので、キックの力を減らして体重を前にかけて下半身を浮かせます。
3)力を入れる時間を短くする
水中で手が受ける水の抵抗は、手の速度に二乗して比例します。
つまり動かし始めはほとんど抵抗がありません。
それなのに多くの人は最初に力を入れて動かそうとします。
これは陸上のウェイトトレーニングのような力の使い方をイメージしているためと考えられます。
速度に応じて水の抵抗が増えるので、それに合わせて力を入れれば力を入れる時間を大幅に減らすことができます。
オリンピックレベルの選手の1500mの劣化率はマイナスです!
つまり飛び込む最初の50mのラップよりも、平均ラップが速いということです。
一般の成人の場合、まず一桁を目指せば、これまでよりも10%は速くなります。
劣化率の改善に取り組みましょう。