Swim Like Shinji:水泳動作の三原則:「重力」「座標」「支え」1 トータル・イマージョン代表 竹内慎司

 2018年9月10日

水泳のアルゴリズムを最適化するためには、水泳に特有の動きを考慮する必要がある。
これを水泳動作の三原則と名付ける。

1.重力
○重力を活用しない水中の動作「はいはい」
人間が歩行するときに最初に行うのが、「前傾して」重心を前に移動することである。足はこの重心移動の次に動かしている。
陸上で歩行できない=前傾による重心移動ができない赤ちゃんは、「はいはい」する。
はいはいのアルゴリズムは以下の通りである。

  1. 手を地面に着く。
  2. 手に体重を乗せる(重心を移動する)ことで上体を前に動かす。
  3. 上体を前に動かすことで足を引きずって前に動かす。
  4. 1~3を片側ずつ交互に行う。

はいはいのビデオをいくつか見ると、両手による1と2が最初のステップ、斜め姿勢を作ることで下半身を引き寄せることができると片手交互の1~3までのステップまでできるようになる。

泳ぎの下手な人や泳げない人を見ると、まさに「はいはい」と同じような動きをしている。手を前に伸ばして押さえれば(かけば)からだが前に動くと期待するが、実際には水は地面ほどの摩擦が得られないので手が手前に動くだけになる。空回りである。

それではなぜ下手な人は「はいはい」しようとするのか。それは前傾による重心移動ができないという固定観念を持っているためである。

レッスンではお客様に「前のめり感」100%を試してもらう。水中ではその10分の1が最大で得られるが、それは非常に微細なものである。最大でも「その程度」しか得られないので、前のめりを意識することが難しく、はいはいに頼ってしまうのである。

○重力を活用する第一歩:入水動作
横になった姿勢では前傾が難しい。そこで入水する手を水中に伸ばすことで、前のめり感を作る。

入水する手の肘を高い位置にすることで、入水時の運動エネルギーに転換する。水中で素早く手を伸ばすことで、体重を前にかけることができる。ゆっくり手を伸ばすとからだが水に押されるので体重を前にかけることができない。水に押される力を上回る加速を手に与える必要がある。

○重力を活用する第二歩:浮力を活用する
重力を活用する次のアプローチが、浮力を活用することである。
水中にある物体は、その体積と同体積の水の重さだけ浮力を受ける(アルキメデスの原理)。
この浮力を受けることについて、簡単な実験をやってみた。

ペットボトルの脇にフォーク、下にセラミックを輪ゴムで着けて、シンクの底にボトルが触れない程度にボトルの中に水を入れる(写真1)。なお全体の重量は300g、フォークは22gで体重に対する腕の重さとほぼ同じである。
そのままシンクに入れると、セラミックを着けた側が沈む(写真2)。

写真1

 

写真2

フォークをボトルの上の方に伸ばす(写真3)。沈めると平らになる(写真4)。フォークを上の方に移動すると、前の方がさらに沈む。手元には割り箸(比重0.4~0.7)とフォーク(比重7.7~7.9)しかなかったので、人間の手の密度に近い物質で比較することができないが、重いものを前に移動するほど重心が前に移動し、その結果受ける浮力の分布が変わることはわかる。

写真3

 

写真4

次にこのボトルを押してみる(写真5)。静止した状態で押すと押す前よりも位置が上になるが、その後押す前の位置に落ち着く。前に動かしながら手を放すと、後が浮き上がってから、その後押す前の位置(前後のバランス)に落ち着く(写真6)。

写真5

 

写真6

根拠がないのだが、おそらく、

  • 手を放した場所で水が押し返す
  • ボトルは前に移動しているので、ボトルの下部が水に押し返される
  • その結果前が沈んで後が浮いた状態になる

これを人間で試しても全員が同じように足が浮く。最初に床を蹴っているため足が上に来るという理由もあるだろうが、それを強化しているのが浮力であると考えられる。

上記の実験やお客様を対象にした結果から、
水を前向きに押し続けることで水がからだを前向きに押してくれる
ということがわかった。
これを「水に乗る」と定義する。
この技術を使えているアダルトスイマーは、残念ながら非常に少ない。
しかし競泳の選手は全員この技術を使っているのである。

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