水泳上達のための7つのレッスン レッスン5:船の形 TIスイム創設者 テリー・ラクリン

 2018年6月10日

1936年、イギリスの動物学者ジェームス・グレイさんは、不可解な現象を発表しました。イルカは23mph(時速37㎞)で泳ぐことができ、それはイルカの持つ力が可能にする速さの8倍の速さだと言うのです。彼はそれを「イルカの謎」と呼んでいました。

それから77年経っても、科学者たちははっきりその理由をつきとめることはできませんでしたが、抵抗を避ける特別な能力(アクティブ ストリーミング)をイルカが持っていることは確かでした。


1988年、私はロチェスター大学のスイミングコーチ、ビル・ブーマーさんの講演に参加しました。ブーマーさんは、この25年間私のストロークに影響を与えてきた、効率的に泳ぐための原理について話されました。 「船の形はエンジンの大きさより大事です。」ここで言う「エンジン」は、人間の筋肉と有酸素パワーを意味します。

ブーマーさんは、体育局長にスイミングの指導を頼まれた時、人間動作学を教授しながら、サッカーの指導をしていました。ブーマーさんは、水泳大会さえも見たことがありませんでした。しかし、彼の新鮮な視点と動作学の専門知識が、何十年も見逃されてきた洞察をもたらしたのです。イルカもさることながら、人間にとっても、抵抗を回避することがスピードへの鍵である、ということです。

私が10年前に述べた所見を、スポーツ科学者が認めてくれたと感じ、私はとても嬉しく思いました。チームが泳いでいるのを水面下の窓から観ていた時、壁をキックした後流線型を保っている人は、そうでない人に比べ、速く、遠くに進んでいることに、私は気づいたのです。

そして、すべてのスイマーが、ストロークを始めると直ぐにスピードが落ちていました。それは、従来の流線型を無視した「水をかくこととキックすることが最も重要である」という教えとは、まったく正反対であることを示していました。

姿勢の矯正と再考
空気が薄い所を高速で移動する物(銃弾、新幹線、超音速航空機/車等)全て、流線型に作られています。本格的なサイクリストは、流線型の姿勢を極め、風洞でテストも行います。水は空気より800倍密度が高いことを考慮すると、スイミングで流線型(ブーマーさんは「船の形」と呼んでいます。) が重要であるのは明らかです。

ストロークをする時、人間の身体には、絶えず形を変える多くの可動部位があり、新幹線のような形を作ることができます。


従って、クロールの技術を改善する上で重要なのは、スイミングの最も根本的な概念の1つを再考することです。

従来の技術は、事実上身体の動きをウエストで切り離す考え方でした。上半身でかき、下半身でける。 指導/トレーニング方法によって、スイマーにこの考え方が染みついてしまっています。

TIのトレーニングシーケンス、トレーニング方法と用語はすべて、クロール対する考え方を根本的に変えるために作られています。右側のストリームライン(下写真参照)と左側のストリームラインを交互に行います。

バランス同様、ストリームラインも直感で分かるものではありません。従って、それを修得するには、忍耐強く、思慮深い取り組み方が必要になります。しかし、わずか数分で変化を感じ取ることができます。

長期的なエネルギーの節約は、累積すると膨大です。ストリームラインを修得する前の効率がたった3%だったとすると、習得後は6%になる可能性があります。

魚のように泳ぐ方法

  • ストリームラインの体勢を整えるのに手足を忙しく動かすことになるので、水の中で不安定に感じたら、まずバランスを取ります。 ストリームラインを修得するために必要な集中力をそがれないためにも、ドリルの初めはいつもバランスを確立させます。
  • 2つのストリームライン:受動的ストリームラインの練習は、上の写真のような体勢を作るために、運動感覚の認識と神経筋形態を理解する為に行います。能動的ストリームラインでは、推進力を生成しながら、抵抗を最低限に抑えることを意識します。

スケーティング:魚のように形作るのがスケーティングで、以下のすべてのドリルで最初と最後に行います。これは、クロールを泳ぐ時に最もよく「滑る」姿勢です。正面倒れ込みからスケーティングをすることで、さらにバランスが取れ、安定した姿勢を確保します。手を斜め下に伸ばすことで、バランスが取れ、キックの必要性を低減します。

スーパーマングライドからスケーティング:次に、ダイナミックに動いて最適なスケーティングの姿勢を作る練習をします。軽くキックするだけで均衡を保てるよう、スーパーマングライドで感じたような無重力感をスケーティングでも感じているか確認します。

倒れ込みスケーティングでは、重力を利用して推進力を生みだすための原理を学びます。体重を載せた方の手を前に回してスケーティングの姿勢を作ります。(水面上に出た腕の重さは、水中にある時より10倍になります。)これは、次のスイッチドリルのための重要なスキルになります。体重移動から推進力に必要なエネルギーを引き出し、筋肉の疲れを最低限に抑えます。

短く効果的: 初めのいくつかのTIスキル習得セッションで行われるすべてのドリルは、5~6mで簡単にできるように作られています。これらの4つのドリルでは、右左交互に行い、8~10回繰り返します。こうすることによって、初心者でも楽に息継ぎとキックを習得することが可能になり(息継ぎとキックのスキルは、次のレッスンで説明します。)、意識を、反対側にたどり着くことではなく、最適な姿勢を身体に覚え込ませることに集中できるようになります。自然な動作とストリーミングを短い距離で練習します。キックの動作に入る前に止めます。

スケーティング→ストローク→スケーティング:バランスとストリーミングの意識をストロークで活かします、スケーティングで始め、3~5回ストロークし、スケートで終わらせます。ストロークする時は毎回バランスとアライメントの感覚を確認します。