Swim Like Shinji:美しいクロールの技術テーマ  トータル・イマージョン代表 竹内慎司

 2018年2月10日

美クロワークショップまであと1カ月となったので、テーマを固めることにした。
過去4カ月間のプライベートワークショップや、夢の島で行った練習会のビデオ分析を通じて、次のような技術テーマを定めた。

1.水を押す技術
滑っているように見えるか、見えないかの差は水が押せているかどうかであることがわかった。大人になってから水泳を始めた人で、水を正しく押せている割合は1割以下である。
水を押すことで、水がからだを押し返してくれる。前に進みながら水を押すことで、水がからだを前に運んでくれるのである。

プライベートワークショップでは、正しい水の押し方を教えると、全員が「水がからだを運ぶ感覚」をつかむことに成功している。伸ばす手の側ではなくからだの中央に体重をかけることで、斜め姿勢がより安定して水がからだを運ぶ感覚も得られるようになる。

ポイントは「どこで」「どのように」水を押すかである。押すという能動的な行動がないと、水も押し返してくれない。

2.リカバリーの軌跡
肩の可動域を越えて手を動かしていると、上腕が水面から45度に達したときに上腕がロックされて、その後は前腕だけ動く。そして手のひらが肩の横を通り過ぎる頃に上腕が動くようになるが、肘の角度は広がって入水の角度は小さくなり、きれいな手の動きには見えない。

このときに肘を常に動かそうとしても問題は解決しない。肘は上腕がロックすることを知らないためである。上腕が常に動く美しいリカバリーにするためには、筋肉の命令場所を根本的に変える必要がある。

さらに「一点出水」「一点入水」をするためにコントロール力を高める。

3.水中の手のアンカリング
ヒトが陸上で前に進むためには、

  1. 前傾して重心を前に移動して
  2. 片方の足に体重をかけることで得られる地面からの力を使って
    (てこの支点と力点に相当)
  3. 反対の足を前に出す

という動作を行っている。このうち1は自重を使い、2は地面の摩擦を使っている。
陸上では無意識に行っているこの動きは、次のような理由で水中に適用することが難しい。

  1. 水中では体重が10分の1になり、しかも横になっているので前傾動作で重心が前に移動できない。
  2. 足が地面から得られる摩擦力に比べて、水中で手を動かすことにより得られる抵抗は非常に小さい。

そこで技術を使って、歩くときの両足と同じ役割を泳ぐときの両手に適用させる。
水中の手をてこにして、入水する手を前に伸ばしてからだを前に滑らせることをアンカリングと呼ぶ。アンカリングするためには、

  1. 重心が前に移動していること
  2. 水中の手が作り出す抵抗が大きいこと

が条件となる。この条件を満たすために「水上の手による重心移動」「水中の手の助走」「水中の手に体重を乗せる」技術を磨く。

4.水上の体面積の増加
美しく見えるためには、入水直前において水上に露出している面積を最大にする必要がある。右の写真では、首の下から肋骨の終わりにかけて水上に出ている。

最初の技術はバウウェイブ(舳先波)で水面を下げること、次の技術は水中の手で水を押さえることと肩のひねりである。

5.レバレッジキック
通常のツービートキックでは、(1)足のスナップで水を押して、(2)それをてこにして腰が回り、(3)腰が回ることで背中に捻りが入り、(4)背中の捻りを使って手を素早く入水して伸ばすという流れになっている。

美クロレベルのツービートキックでは、(1)足で水をひっかけて、(2)それをてこにして入水した手をさらに伸ばす、としてからだの回転を取り除いている。こうすることで足を伸ばしておく時間を延ばして、より少ない力で多くの推進力を得るレバレッジキックに転換できる。

レバレッジキックができるようになるためには通常のツービートキックができていることが前提であるが、つられ足や割り込み足で問題のあった人でも一気に問題が解決できる場合もあるので、グループレッスンで取り入れてみる。

6.力の入れどころ
十分な加速が得られない全ての人に共通する原因は、力の入れどころがわかっていないことである。リラックスしているだけでは加速できない。次のフェーズに分けて力の入れどころについて理解し、実践できるようにする。

  • 入水した肘を伸ばす
  • 水中で水をひっかける
  • 水中で水を押す

なお「力を入れる」行為については、水が終動負荷型(動作が長くなるほど負荷が上がる)の運動であることに注意したうえで、
「筋肉の緊張と弛緩」
「主動筋と拮抗筋」
を理解し実際に動かせるようになる必要がある。

以上の技術ポイントについて、お客様のレベルに合わせながら最適な技術が身につけられるようにカリキュラムをデザインする。

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