Swim Like Shinji:「強く泳いで」10%速くする  トータル・イマージョン代表 竹内慎司

 2017年8月10日
新しいカンタン・クロールのコンテンツ作成が一段落して、速く泳ぐための練習について研究している。これまで提案してきた練習をゼロベースで見直して、より効率良く練習できるようにすることが目的である。

○テンポを速くすれば速く泳げるのか?
テンポ・トレーナーはスピード練習に欠かせないツールである。製造元のFinisは、速く泳ぐためには速いテンポで泳ぐようにアドバイスしている。参考として過去のオリンピックの男女別・距離別の平均テンポ一覧が付属している。しかし0.70秒とか0.60秒とか、中年スイマーにはありえない数字が並んでいるので役に立たない。

そこでテンポを速くすれば速く泳げるのか実験してみた。200mのセット(200mを数回泳ぐ)において、テンポを1.30秒から1.00秒まで0.05秒刻みで速くした。泳いでいるときは「入水をビープ音に合わせる」ことにのみ集中した。

結果が下のグラフである。最初のテンポで泳いだタイムを基準としており、テンポに合わせていれば、計算値のようにタイムが22%速くなるはずである。しかし実際には途中まで5%程度速くなった後は、タイムがほぼ変わらない。

ストローク数を見ると、1.20秒以降は150〜154ストロークで推移しておりほぼ変わらなかった。従ってストローク数が増えて「空回り」しているわけではない。泳いでいる感覚としては、「ラクにテンポを上げている」状態であった。テンポに合わせるだけだとラクに泳ごうとするので、速度の上昇に限界があると考えられる。

○10%速くするためには
より速く泳ぐためには、「強さ」を感覚の指標として取り入れることが必要である。強さとは力を入れることであり、まず「強く泳ぐ」ほど「速くなる」関係を作る必要がある。そのためにはテンポを一旦ゆっくりにしてから速くするとともに、ストローク数をタスクに加える。

・テンポを遅くするときには
ストローク数を減らすことを目標にして泳ぎの強さを次第に増やす。強さを作るためには弱い状態にする必要がある。リラックスして関節をゆるめた状態から、力を入れて関節を伸ばしたり、手に当たる水の量を増やす。目標は0.10秒あたり25mで1ストロークを減らすことである。

・テンポを速くするときには
減らしたストローク数を維持することを目標にして泳ぎの強さの部分を次第に減らす。テンポが速くなっても強さを残せるところはどこなのかを練習により見つける。経験では、遅いときに10あった強さは、テンポが速くなっても7程度まで維持できればかなり速く泳ぐことができる。

・ピラミッド練習の結果
テンポ1.15秒スタート、1.30秒で折り返して1.00秒まで上げた結果が以下のグラフである。ストローク数はGarmin使用により左手の分だけをカウントしている。テンポ1.15秒から一度ゆっくりにして、また元に戻った1.15秒のときのタイムは7%速くなっている。ストローク数は左手だけで5減っている。強い泳ぎはテンポが速くなっても生きており、テンポ1.00秒では最初に比べて9.3%速くなった。

テンポを変化させたときの計算値との比較でみると、ようやく計算値に近づくことがわかる。

運動強度として心拍数を見ると、1.30秒から1.00秒まで上げたときの最後のセットの平均心拍数が132、1.15秒から1.30秒そして1.00秒までストローク数を意識して泳いだときの心拍数が156(18%増)であった。速くなった分だけ強度も上がっている。

人間のからだはテンポを上げれば速くなるような単純な仕組みではない。ゆっくりなテンポで強い泳ぎを作り、次第にテンポを上げて強さとなめらかさを相殺しながら、ようやく速いテンポで速く泳げるようになるのである。

竹内慎司TI代表のブログSwim Like Shinjiはこちら→

 ©Easy Swimming Corporation