Swim Like Shinji:貯金を殖やして速く泳ぐ トータル・イマージョン代表 竹内慎司

 2017年3月10日
ペース練習を本格的に取り入れてちょうど1年になる。主にスピードアップキャンプでお客様にペース練習の効果を実感して頂けるようになった。そしてほぼ同時期に取り入れた心拍計により、練習内容の強度を評価できるようにもなった。

ペース練習ではペースをどのように設定するかが大切である。グアム滞在最終日に、新しい設定方法に基づいて1500mを計測した結果をまとめる。

○ペース練習の前提条件
ペース練習に入る前に、ペースを達成するための泳ぎをデザインする必要がある。具体的にはテンポとストローク数をいくつにするのかということである。そしてテンポとストローク数を決めた通りに泳ぐためのコントロール力が必要になる。

そこでペース練習に入る前にテンポピラミッド練習を行い、テンポを遅くしたり速くしたりして、加速やなめらかさを上げておく。

ピラミッドの範囲は±0.15秒、ストローク数の範囲はマイナス2(テンポが最も遅いとき),プラス1(最も速いとき)が理想である。

○ペースの設定
ペースは壁から壁まで(1ラップ)の所要時間を秒で示したものであり、以下のような種類がある。
・目標ペース:目標タイムを達成するためのペース。目標タイムをラップ数で割るだけでなく、最低でも5%程度の劣化率を加味して1.05でさらに割る(例:長水路1500m目標タイム30分であれば30×60÷30÷1.05=57秒)。
・ベストペース:現在当該距離を最も速く泳ぐことのできるペース。直近のレースの結果に基づいて計算する。
・基本ペース:ベストよりも遅いが、緊張感を持って泳げばこの程度のタイムは何度も出せる、というタイムに基づくペース。
・リラックスペース:このペースであれば目標となる距離を越えてさらに長く泳ぎ続けることができるというペース。

私の場合50mプールでは以下のようになる。
・目標ペース:43秒(5%の劣化率を考慮)
・ベストペース:46秒
・基本ペース:50秒
・リラックスペース:54秒

目標ペース以外のペースがわからない場合は、次のようにテストする。
1)テンポピラミッドを10本行う。通常の練習テンポ(なければ1.25秒)からスタートして、0.05秒ずつ3回遅くする。このときストローク数を最低1減らすように加速を上げる。通常の練習テンポ+0.30秒で泳いだら、今度は0.05秒ずつ速くして6回速くする。このときはもっとも遅いテンポで泳いだときのストローク数からできるだけ増やさないようにする。
2)最後のテンポで泳いだときのストローク数に3(プッシュオフからひとかき分)を足してテンポを掛ける。小数を切り上げて整数にする。これを基本ペースにする。
3)100mを泳いでペースを維持できるか確認する。壁に着いてからビープ音が聞こえればペース内で泳いでいる。これを貯金ができたと呼ぶ。
4)200mを泳いで貯金ができるか確認する。貯金が3秒以上ある場合はペースを1秒速くする。借金が続くようであればペースを1秒遅くする。

キャンプ終了後でからだが疲れているせいか、200mを基本ペースで泳いだときに貯金借金が0になった。そこで翌日の1500mタイムトライアルでは、あえてテンポトレーナーで着けて基本ペース+1秒(51秒)で泳ぐことで、何が起きるかを観察することにした。

○タイムトライアルでの発見
・1500mの方針
テンポトレーナーにより51秒ペースで泳ぐ。基本ペースより遅いので、貯金ができたら貯金を殖やす。道具は以下を用意する。
a) 入水する手を肘の自由落下で素早く前に伸ばす
b) キャッチで水を支えて素早く入水する:入水てこ
c) 肘を使って素早くプルし、手を顔の前に運ぶ:肘てこ
d) 体幹を使ってプッシュの手を押し出す:体幹てこ
−負荷はa-b-c-dの順に大きくなる。
−100mずつa-b-c-dの順番で意識するセットを3回繰り返す。
−50mずつa-b-c-dを1回行う。
−残り100mは2ストローク毎の息継ぎでスパートをかける。

・泳いでいるときの観察
使う道具と貯金の増減の関係を調べることができた。ラクな道具ほど貯金は殖えない(速くならない)ことが1順目でわかったので、2順目以降は力の入れどころを強調して常に貯金が殖えるようにした。

最初はターンして1ストローク目あたりでビープ音が聞こえたが、2ラップごとに1ストローク貯金を殖やし、最後は30ストローク程度の貯金になった。

・結果
ペースを完全に維持した場合の想定タイムは25分30秒である。貯金を少しずつ殖やした結果タイムは24分52秒となり基本ペースによる25分よりも速くなった。

ラップタイムを見ると、300m以降は次第に速く泳ぐディセンディングができている。これは貯金を殖やそうと意識して、道具を使って実践したからである。

一方500m、800m近辺でタイムが落ちている。ストローク数が増えているので、集中が切れていたのであろう。何もなしのタイムトライアルほどの緊張感を持たなかったのが原因かもしれない。

心拍ゾーン分布では、最も強度の高いZ5が約30%、次いで強度の高いZ4が40%、Z3が20%と理想的な結果になった。無理のない形で強度を上げることができている。


○まとめ
基本ペースよりも1秒遅くすることで泳ぎに余裕ができるだけでなく、ディセンディングも貯金という結果を伴って意識することができる。

このような練習を継続的に行いながらペースを嵩上げすることで、ベストペースで泳げるようにする。貯金ができるように泳げばベストタイム更新である。

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